「社畜のサガ」④
「へえ~。師匠は全く別の世界からやってきたんですね!」
本当に分かっているんだろうか。というか事情を話したはいいものの、こんなに物分りよく聞いてもらえることに疑問を感じる。
「ねえ、アイリス。私のこと変だと思わないの?自分で話してて頭おかしいと思い始めてるんだけど。」
「あ、そうでした。実は師匠みたいな人、昔にいたみたいですよ!」
え、まじか。かなり自分にとって良い情報だ。私以外にもこの世界へとやってきた人間がいるのか。
「ただまあ、私も噂程度に聞いたことがあるだけなんで、真偽の程は定かではありませんが……。」
まあ、私みたいな人間がぽんぽんこんなところに来たところで、命がいくつあっても足りるか分からないしな。私は、アイリスに会えてとても運がよかったのかもしれない。
「つまるところ師匠、この世界にやってきたということは、身寄りもないし何もない、つまり一人ぼっちってことですよね?」
「ええ、そうなるわね。今日解散する前に、できればこの世界のことをいくつか教えてほしいわ。」
「分かりました!師匠が良ければとりあえず今日は私が宿を取りますので、そこでご一緒しませんか?お話ししたいこともたくさんありますし!」
「え?いいの?そこまでしてもらって。私達、まだ出会ったばかりなのに。」
「ええ!もちろん!私はあそこで師匠と会わなければ、もしかしたら今頃トロールのお腹の中だったかもしれませんし!」
かわいいな、この子。
「とりあえず、今から酒場に行きますね!クエストの報告をしないといけませんので!」
聞きたいことはたくさんあるが、まずは酒場とやらに行って実際にその空気を味わってみよう。
――王都、と呼ばれる場所に着いた。
門をくぐると、活気溢れる都があった。馬車が道々を行きかい、露店のようなものが多く点在している。そして、重厚そうな鎧を着た兵士と思わしき人間達。まさか別世界へ飛ばされるとは聞いたが、本当にこんなゲームにありそうなところに来ることになるとは。
アイリスに聞いた話によると、ここレウローフ大陸では、私が想像する中世ヨーロッパのような城やゲームやアニメであるような剣と魔法、そんなものが当たり前のように存在する世界らしい。にわかには信じがたいが、先ほどアイリスに魔法を見せてもらった。それは傷を癒すことができる魔法のようだが、実際に目の当りにしてしまうと、やはり信じざるを得ない。
本当にこんな世界に順応していけるのだろうか。私が不安がろうが、やっていかないといけないわけだけど。
そうこうしていると酒場に着いた。少し寂れた看板と、両開きの木の扉。その佇まいから、私の想像する酒場とは変わらなくて安心する手前、中はどうなっているのだろうという好奇心にも似た何かを感じる。
アイリスは臆することもなく、ずんずんと店の中へと入っていく。私もそれに追随し、店の中へと入っていく。
店の中は活気づいている、というのは当然なのだろう。ただ、客の恰好が騎士であったり、いかにも魔法使いのような恰好をした者もいる。それを除けば普通の酒場だろう。
アイリスはカウンターの奥にいる女性に話しかける。
「クエスト終わりましたよカエさん!無事帰ってきました!」
すると、そのバーテンダーのような女性は、軽快な物腰で返事をした。
「おっかえりー!……結構ボロボロだけど無事ってことにしておくね!お使いご苦労様~。」
そのやり取りの後に、アイリスは手に持っていた薬草をその女性へと渡した。それと引き換えに、ジャラジャラと音のする袋をカエと呼ばれる人から受け取る。あれは報酬なのだろうか。
「それと、今夜一部屋お願いしたいんだけど、まだお部屋空いてる?」
「うーんっと、うん!まだ空いてるわよ~。」
どうやら宿の予約までしてくれているようだ。あれこれしてもらって本当に頭が上がらない。
「じゃあありがとうございましたー!また明日来ますね!」
と、アイリスがこちらに戻ってきた。
「宿も取りました!あとはご飯を食べて寝るだけです!」
「何から何までありがとうね、本当に助かったわ。」
「いえいえ、これからどうするかも考えないといけませんしね!今日のところは早めに休みましょう!」
彼女に言われるがまま、手を引かれていく。出会った時もこれくらい心強ければよかったんだけれど。
この世界で私が何をするのかも考えていかなければいけない。だが、どうしてもこれだけ気になる。
「ねえ、アイリス。クエストっていうのはこの世界でお金を得る方法なのかしら?」
「はい!簡単に言ってしまえばお困りごとを解決してその対価を得るようなシステムですね~。」
なるほど。これがこの世界での労働なわけね。
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