白夜の北極星 / フィロソフィア大歩いてたら変な薬被った
天埜 澪(白色のアマランサス/ブリンガー)
不穏な色が滲む窓の外では、常のアーセルトレイでは滅多に見ることの出来ない雪が舞っていた。
「Dr.は、こういった状況を知っているのですか?」
「昔居た場所も、今みたいな感じだったかな。……『痛い』とはもう思ってないから、大丈夫だよ」
実年齢より遥かに若く見える面立ちからは想像出来ない程の傷を負ったのは確かだが。それでも澪の言葉に嘘はなかった。それを察したシキミが「すいません」と首を軽く横に振る。
「ううん。……そろそろ、時間だね」
少し前に、別の場所での戦いに赴いた戦友達は、その際に「これは前哨戦だ」と言っていた。そして今、自分達の前に現れた不穏な気配こそが、討つべき脅威そのものなのだと理解した。
それならば、退ける為に全力を尽くさなければならない。それが願いであり、信念でもあるのだから。
「苦しみに癒しを。君のその手にも」
言葉を口にして真っ直ぐに見詰め合う。淡い虹彩を持つ瞳は、生まれも育ちも全く異なるにも拘らず、不思議とよく似た色味をしていた。
「苦しみに癒しを。Dr.の手は、多くを救うでしょう」
差し出した手に、手袋越しの彼のそれが重ねられる。一瞬確かに触れ合って、しかしすぐにシキミの姿は消えた。
軍衣服仕立てのスーツの上に赤十字の腕章が縫い付けられた白衣を羽織る医師は、淡い緑色に染まった己の爪を――誰よりも信頼する相手の証を確認し、躊躇う事無く戦地へと赴いた。
*****
芥川 真咲(青色のヒガンバナ/シース)
思案気な顔付きでモニターを睨むアリシアを見て、真咲は掛けようとしていた言葉を噤む。
こういう時のアリシアに何を言っても芳しい反応は帰ってこない。天才と呼ばれるに相応しい頭脳がフル稼働しているのを分かっていて、それを中断させようという愚かな真似をする真咲ではない。
少しの沈黙の後に、「よし」とアリシアが手を打った。
「数値データは揃ったし、幾つか仮説は立てられるけど……あとは実際の検証あるのみ」
「お疲れ、アリー」
そう言って個包装のチョコを机に置く。それを口に放り込みながらアリシアが「うーん」と伸びをする。
「ありがと。さて、私達も行きますか。こうまで顕在化したロアテラの因子なんてめったに拝めるもんじゃないんだから」
「その前にアンタ。今度はちゃんと、間違えないように頼むわよ」
「真咲ヒドい! 私だってそう何回も同じことしないもん!」
キーワードを間違えられた強烈な記憶はそうそう薄れるものではない。「次に同じようなことをしたら」という言葉は、あながち脅しというだけでもないのだが。
「この世界の真理に近づく為に」
「未知なるその先への一歩を踏み出す為に」
違わず紡いだ言葉に真咲は秘かに安堵しながら、その姿をアリシアのステラドレスへと変化させたのだった。
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