ワールド:オルトリヴート 紫弾の捜査官

 七地 流星(黄色のアルストロメリア/ブリンガー)


 アンサング・ヤード全体に下された緊急指令。嘗て無い脅威に対してヤードの総力をもって応戦せよ、という命令は流星達の元にも届いていた。

 物々しい文言で埋め尽くされている流星が持つ端末を覗き込んでいた伊吹が大きな溜息を吐いた。

「滅亡なんてヤだよ。だって俺、まだ流星くんと一緒にしたい事が沢山あるんだからさ」

 いい年をした男が唇を尖らせる様というのは傍から見れば少々滑稽なものではあるが、その仕草に流星の肩に入っていた力が幾らか抜けた。

 それに気付いた伊吹が笑う。

「そのチョーカーに似合う服見に行くって約束したの、まさか忘れてないよね?」

「忘れてないですよ!」

「うん、良かった。その予定の為にも、世界の滅亡なんて回避しないとね」

「はい」

 はっきりとした返事を返した流星に伊吹の目が柔らかい色を帯びる。信頼の込められた眼差しが流星にとって何よりも心強かった。

 だから、戦える。この世界の為に。この世界を生きる者達の為に。僅かな時間でも、この世界での生を謳歌しようとする自身のフォージの為に。

「伊吹さん。――あなたを〝失敗作〟だなんて、誰にも言わせない」

「君も”落ちこぼれ”じゃない。俺たちは強いって所を、見せてやろうじゃないか!」

 力強く頷いた伊吹の姿が、淡い黄金色の光に変わる。彼の姿が完全に消えると同時に、

 警察官の制服に身を包んだ流星の手には、旧式仕様のライフルが握られていたのだった。





*****


夏枯 リンネ(青色のオダマキ/フォージ)


 これまで略式執行してきたモノ達を上回る脅威を相手取るという局面であっても、陸奥の様子に変わったものは見られなかった。

 普段通り、この世界を脅かすモノに向けて銃口を向ける。そこに迷いも戸惑いも無く。

 尤もそれはリンネも同様だった。相手がどんな存在であれ、己の身を惜しむ心算は微塵もない。

 自分たちはその為の存在なのだから。

 今以上に世界が絶望に沈まないように。明けない闇の先を照らす灯が自分達だ。

「準備はいいか?」

「ええ、勿論」

 一体誰に向かってそんな今更なことを尋ねるのか。そういった意味を込めて華奢な肩を竦めて見せれば、陸奥は「そうか」と頷いて、一瞬だけ唇の端を釣り上げた。

 すぐに表情を改めた陸奥が、リンネの顎を取る。

「お前の命、私に捧げろ」

「この身を捧ぐに相応しい覚悟、それを貴女が持つのなら」

 存分に揮いなさい、と。分かり切っているその先は、あえて言葉にはしなかった。

 リンネの知り得る限り、誰よりも強い覚悟を持った陸奥に揮われるのなら本望だ。その結果、自身が何を――命すら失う事になろうとも。

 この世界と、その闇の中を真っ直ぐに歩む彼女の灯になれるのなら、惜しむものなど何一つ無かった。



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