Stellar duel
篠宮 裕司(赤色のアネモネ/ブリンガー)
「ンだよ。またヤれってか。こっちはもう死んでるってのに」
「そう言うなって」
面倒だと言わんばかりの男の態度を窘める。隔絶されたこの世界でも、迫り来る滅びの足音は確かに聞こえている。無視できるものではなかった。
「それに、俺らにとっても借りみたいなモンだろ?お前だってロアテラの好き勝手にさせるのは面白くないだろうし」
「へーへー。好きにしろって」
「そうさせてもらうよ」
苦笑して、裕司は逸輝へと向き直る。そこでふと、面と向かってこの言葉の応酬をするのは久しぶりだな、と少し間の抜けたことを思う。
「何だ?」
「別に」
ニタリと不敵な笑みを浮かべた尋ねる逸輝に軽く首を横に振る。言わずとも、何となく察されている事は分かっていた。
紅く歪んだ傷が残る左手を男へと向ける。
「この身の紅い誇りに誓おう」
濃い深紅、同じ色をした瞳が互いの姿のみを映す。裕司の左手を、逸輝は赤い模様が刻まれた指輪を嵌めた左手で引き寄せた。
「紅く、紅く。その身を浸せ」
低く囁いた声を落とし、逸輝の姿が紅く霧散する。それに身を包んだ裕司の格好が、黒い詰襟のスーツ姿へと転じた。
真紅の手袋を嵌めた手で、一振りのダガーナイフを握る。感覚を確かめてから鞘へ納め、頭上の軍帽を深く被った。
*****
ロート・エアツェールング(白色のアルストロメリア/シース(元エンブレイス))
誰よりも大切で大好きな、双子の兄。
自分を置いて死んでしまった、何よりも大事なただ一人。
そんな彼と共に、この世界の危機に召集された。また、二人の力を合わせて戦うようにと。
離れ離れになってしまったヴァイスとまた一緒に居られる。だから、ロートは今この上なく幸福だった。
「あのね、ヴァイス。こんな時だけど、わたし、嬉しいの」
ヴァイスとまた一つになれる。そう思えば何も怖くはなかった。ただ、こんな事を言って、怒られないか、呆れられないか。それだけが心配だった。
けれど、かつてのロートと同じ顔をした彼は、以前の彼と同じ顔立ちの双子の妹に向けてふわりと優しく微笑んだ。
「僕もだよ、ロート」
「本当に?」
「もちろん。だって、またロートと一緒に居られるんだから」
最愛の人が、自分と同じ気持ちを抱いている。あまりにも幸せで、ロートはヴァイスに抱き着いた。ぎゅっと抱き締め返す腕の力が、彼もまた幸福である事を彼女に伝えていた。
恐れるものは無かった。そうして、二人で一つになる為の言葉を口遊む。
「戻ろう、ひとつだったころに」
「いつまでも。あなたはわたし、わたしはあなた」
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