アマリリス・フォーチュン・トレイ
御斎 シオン(青色のバラ/ブリンガー)
「ね、シオン。もしこれに負けたら、世界が滅んじゃうの?」
「うん……多分ね」
「ダメじゃん! だってシオン、来週マジックショーの本番だって頑張ってたのに!」
そんなの絶対ダメ! と円らな目を吊り上げて声を上げる。
目の前に迫り来る驚異の大きさに、恐怖や緊張を全く感じないと言えば嘘になる。しかし、ノイエの姿を見ていたら、そんな気持ちも薄れてしまう。
ぽん、とノイエの頭を撫でる。子供扱いに頬を膨らませるも「ありがとう。頑張るよ」と伝えれば、彼女は表情を一転させる。
「うん!頑張って。大丈夫。シオンにはわたしがついてるからね!」
頷いて、視線を合わせる。大舞台を前にして、怖気づいてはいられない。
「世界中を、驚かせ続けよう」
「それが私たちの証明になる!」
声を合わせた瞬間に、パッとノイエの身体が光になる。舞台衣装を纏ったシオンのみがその場には立っていた。
黒い燕尾服に、胸元に挿した一輪の青いバラと、シルクハットを飾る妖精の蒼色の羽根飾りが鮮やかだ。
手にしたステッキをレイピアへと変えるのは今ではない。戦いの“舞台”に立った時だ。
“奇跡”を、この世界に巻き起こす為に。
*****
折紙 ソラ(黒色のアネモネ/シース)
「……君に、こんな景色を見せたくはなかったんだけどな」
そう苦笑交じりに語るアベルは、世界の滅びを知る人間だった。滅んだ世界からやって来た、たった一人の生き残りが彼だった。
そしてまた、同じ悲劇が自分達のいる世界に襲い掛かろうとしている。
「でも、以前と同じではないでしょう? 状況も、この先に迎える結末も」
ソラが気丈にそう返せば、彼は弾かれた様に顔を上げる。事実、同じ結末を辿らせる心算など無かった。この時の為に、自分達は願いを叶えてもなお戦い続けてきたのだから。
それに。ソラ個人の意思として、彼に二度も掛け替えのないものを失う悲しみを感じさせたくなかった。
その意思が伝わったのだろうか、アベルは誓いの言葉をソラへ紡ぐ。まるで祈るように。
「僕にたった一つ残ったもの。決して君は、空へ消えてはいけないよ」
「貴方が貴方でいる限り――貴方が息絶えない限り、私は何処にも消えません」
縋るように微かに震える手を取って、そう宣言する。
ソラのそれよりも大きく逞しいアベルの手。そこから、もしも零れ落ちるものがあったとしても。それを救う為に、彼のシースである自分の手があるのだから。
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