第11話 バックビートと揉み手ビート

 以前、現在流通している音楽のルーツが、アメリカ大陸にあるという話を書いたことがありました。

 詳しく触れませんでしたが、北米で育まれた音楽の革命的な要素の一つはシンコペーションとアウフタクトです。シンコペーションは裏拍にアクセントの位置をずらすリズムの作り方で、アウフタクトとは弱起とも言われますが、ざっくり言うとメロディが一拍目から始まらないということです。

 これがアメリカのニューオーリンズから広まって、世界標準にまで上り詰めた音楽のスタイルです。


 一方で日本人にとって伝統的なダンスミュージックは音頭ですよね。まぁ音頭に限らず、伝統的な日本のダンスビートは一拍目と三拍目にアクセントを置くビート感です。揉み手が入るあれですね。

 唱歌や童謡など、四拍子の曲に関してはすべからくメロディがこの構造になっています。

 面白いもので、このビート感は相当根強く、あるいは根深く日本人に影響を及ぼしているらしく、国内のヒットチャートで人気のあるJポップの多くがこのビート感に基づいているんですよね。


 すごいキレッキレのダンスと共に歌われるラーイジーング・サ〜ン♫というメロディが、もろに一拍目と三拍目にアクセントがあるダウンフィール、つまり揉み手ビートの構造なことに個人的に違和感しかありませんでしたけど、そんなことありませんか?(あくまで個人の感想です)


 対照的に、ずいぶん昔ですがアメリカのヒットチャートで一位を取ったスキヤキソング、上を向いて歩こうのメロディが持っているリズム構造について考えてみてください。見ごとなアップフィールで裏拍にアクセントが置かれたメロディ構造になっていることにお気づきになるでしょうか。欧米で受け入れられる基本的なポイントがしっかり抑えられているのです。


 その後欧米で成功したテクノのルーツの一つでもあるYMOというバンドも、戦略的にオリエンタルな音階を積極的に取り入れていましたが、ビート感は完全に洋楽でしたから、やはり欧米で受け入れられる素地がちゃんとあったのですね。(何歳だ、わたしw)


 ところが黒人っぽいフィールで歌うドリカムにしても、ダンスミュージックで一世風靡した小室哲哉にしても、国内で大ヒットを飛ばしてきた楽曲の多くはスキヤキじゃない方の構造になっているんですよね。一拍目と三拍目にアクセントがある揉み手ビートなんです。メロディが。それらが国内で絶大な支持を得ていることを考えると、日本人のビート感は古来より変わっていないのでしょうか。


 一部のJポップの特徴を端的に表すと、ボーカルの節回しはやたらとソウルフルですが、肝心のリズム感が揉み手ビートですよ。むしろこれって構造的には演歌と近いんじゃないでしょうか。


 これに関しては、育った家庭環境も大きく影響するようです。小さな頃から親や家族が聴いている音楽。家の中で流れている音楽は潜在的なビート感に影響を及ぼすようです。

 欧米人が小さい時からアップフィールの音楽ばかり聴いて育つのとはビート感に違いが生じるのも当然ですよね。


 日本人のおじさんバンドがストーンズやビートルズのコピーバンドなんかをやりがちですが、古風なリズム感覚で演奏するとどうなるかというと、ま、言うまでもなくダウンフィールで演奏しちゃうんですよね。

 悲しいことに楽曲本来の持ち味が消えます。洋楽は基本的にそもそもアップフィールでノる構造になっているのに、そこを無理にダウンフィールで演奏するから厳しいのです。

 特にドラムとベースがこれだと悲惨ですし、バンドの中でこのフィーリングが合わないメンバーがいると、ノリが合いませんからいい演奏になりにくいですね。


 ただし元々ダウンフィールの構造になっているJポップの場合はこの限りではありません。そのノリに合わせた演奏がいいと思います。


 同じ譜面を使った演奏なのに両者には違いが出ちゃうんです。演奏者のビートの感じ方の違いが出てしまうんですね。不思議なものです。


 携帯電話において日本はガラパゴスと言われて独自の進化を遂げたと言われてましたね。ガラケーなんて言葉まで生まれました。

 一部のJポップにおいても同じ現象が生じていると思います。日本人のビート感とポップスの融合です。あくまで国内のヒットチャートにおいてのみの現象なので、ガラパゴス的ですね。


 皆さんはどちらがお好みですか。これはただの好みの問題で、合うか合わないかというだけのことなので、Jポップはダメだとかいう暴論を投げるわけではないのですが。


 広く多くの日本人に受け入れられやすい構造の音楽と、まあ正統派というか、世界的に標準スタイルの音楽。

 わたしのようなタイプの音楽狂いは後者を好むわけですが、前者の方を好む音楽好きもいるわけです。というか多分そっちの方が国内ではメジャー勢ですかね。


 というお話でした。バンドもののお話でその辺のことをちょこっと含めたら、ちゃんと書きたくなってしまいました。

 普段好みの音楽を判別するとき、こういう部分も無意識に判定要素としている気がします。こうして改めて考えてみると、音楽を選ぶときの基準って結構複雑だけど明確な要素を自然と聴き分けているものなんですねぇ。

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