第5話 わたしが音楽狂いと呼ばれる理由の一端がここにある

 えー、唐突ですがみなさん、音楽はお好きでしょうか? お好きな方が多いでしょうね、多分。

 今日は音楽について語っちゃいますが、読者さんたちを置いてけぼりにする可能性が高いので、そうなった場合は「あ、始まっちゃったのね……」と生温かい目で見てやってください。


 その前に一言。

 音楽の聴き方なんて別に自由に好きなように聴いたらいい。これが基本というか根底にあります。

 そんな中でももっと掘りたい人もいるかもしれません。だけど音楽ってどうやって見つけたらいいの? という人向けです。


 さて、かく言うわたくし、小さな頃から音楽バカ、音楽狂いの類いでございまして。どんな音楽が好きですかという質問が一番困るくらい好きなんです。

 つまり好きな音楽は多岐に渡るので、こうこうこういう音楽が好きなんです、と限定するのが難しいのです。


 どうしてこうなったのか。それは親の影響が大きいのですが、それも含めて一番は音楽の掘り方というのが大きいかと思います。ディグるなんて言い方をよくしますね。


 あ、本日の内容の一部は父が他所に寄稿したものを、許可を得て内容を取捨選択して自分流にアレンジしたものが含まれます。


 さて、小説でも作家読み、ジャンル読み、レーベル読み、色々ありますよね。

 音楽も好きな人の聴き方は似たところがあります。


 イタリアのIRMA recordはよくチェックしますよとか、ドイツのmorr musicをチェックしてますとか、そんな聞き方してる人がいますね。


 わたしの場合よくやるのは、プロデューサー聴きと参加ミュージシャン聴き。


 好きなプロデューサーが手がけたバンドやシンガーのアルバムはチェックします。

 昔の音楽だったら、その特徴をウォール・オブ・サウンドと評されるフィル・スペクターとか、バーバンク・サウンドといえばヴァン・ダイク・パークスとかが有名でしょうか。こういうプロデューサーはサウンドの特徴が強い部類ですよね。

 今の時代でもJポップ近辺で質の高い音楽を作るプロデューサーだと亀田誠治や冨田恵一といった方々が特徴的なサウンドかなと思います。この人たちはプレイヤーとしてもすごいですけど。


 あと好きなミュージシャン(プレイヤー)が参加しているアルバムもチェックすることが多いです。追い切れないんですけどね。


 先日FNS歌謡祭をテレビで見ていたら、中山美穂さんのバックで高田漣がギター弾いてて、おぉって思ったんですが、正直歌がかなり残念な気がしまして、うーん……てなりました。しかし新しいアルバムには高田漣が全面的に関わっているということで、これは聴いてみなくちゃと思っているところです。


 まあそれはいいんですけど、そういう好きなミュージシャンやプロデューサーのルーツミュージックをディグし出すと危険信号ですよ。その先待ち受けているのは泥沼です。

 それでも一歩を踏み出すと言うなら、いらっしゃい、こちらの世界へようこそ。歓迎いたします!


 ルーツミュージックという言葉が出ましたが、ジャンル自体のルーツをディグしていくと、なかなか奥深いものがあります。


 現在流通するロックやポップスを主とする商業音楽のルーツはアメリカ大陸にあります。かの地においてどんな風にこれらの音楽は生まれたのでしょうか。


 アメリカ大陸はヨーロッパからの移民たちが開拓しました。そこに人類史を悲しく彩る奴隷貿易が持ち込まれます。つまりアフリカ大陸から黒人奴隷が連れてこられたわけですね。


 北米においては主に英国が入植していた関係で、英国国教会が幅を利かせていました。その英国国教会というのはカトリックとプロテスタントの掛け合わせみたいな宗教らしいですが、大雑把に言うとプロテスタントよりで、カトリックと比べると戒律が厳しいのですよね。


 一方、北米に先駆けて100年も前から奴隷貿易が行なわれていた中南米はスペインやポルトガルなど、戒律の緩めなカトリックの国々の植民地でした。


 この違いがのちの音楽の歴史において非常に大きな影響を及ぼすわけですが、当時そんなことを思う人などだれもいなかったことでしょう。


 さて、話を北米に戻します。

 アフリカにはトーキングドラムという音程を自由自在に変化させることができる太鼓があります。これは遠く離れた同胞とコミニュケーションを取るツールでもありました。

 何しろ無理やり知らない土地に連れてきて厳しい労働をさせているわけですから、奴隷に反乱を起こされてもしょうがありません。そのくせそんなことされたんじゃ堪らんと考える北米の白人社会は、黒人奴隷たちのドラムの使用を禁じるわけです。戒律の厳しいプロテスタント教会の命によって禁じられました。


 何ていう横暴なことをするのでしょうか。

 これによって北米に連れてこられたアフリカ人たちは一度自分たちのリズムを失ってしまいます。でもその代わりと言っては何ですが残ったものもありました。


 さてそれに先立って起こった出来事がありました。南北戦争と奴隷解放運動です。

 そしてその後、軍楽隊の払い下げ楽器が安価で出回ることにより、黒人たちはついに楽器を手にしました。

 ギターや粗末な作りのバンジョーを手にし、恵まれた黒人の中にはピアノを弾ける人も出てきます。


 彼らは自分たちのリズムを失いましたが、彼らが演奏する音階はアフリカ由来の音感を西洋楽器で演奏できる音階に置き換えたものとして生き残ったのです。


 それがいわゆるブルー・ノートと言われる音階です。ブルー・ノートというのは、メジャースケールの三度と七度(後の時代には五度も)が半音低いという音階です。

 ドレミで言うと、ドレミファソラシドのミソシが半音下がります。ドレミ♭ファソ♭ラシ♭ドとなるわけです。


 まあここで詳しく解説しても無意味なのでこれくらいにして話を進めますね。

 アフリカ由来の音階を西洋楽器でリビルドしたブルー・ノートに加え、失ったリズムをカリブから輸入して取り入れました。

 そこから生まれた音楽が、ラグタイムやケイクウォークという音楽でした。北アメリカの音楽シーンにとってこれが革命的だったのが、シンコペーションの導入です。シンコペーションの詳しい説明はここでは省きますが、これはリズムを失ったブラックアメリカンにとってリズム革命と言えました。シンコペーションがジャズを生み出したのですから。


 初期のジャズはシンコペーションを楽しむダンスミュージックでした。ダンス・クレイズと呼ばれる熱狂的なムーブメントが爆発的に広まります。

 一方その反動でアンチ・ダンス・ミュージックとして生まれたのがブルース(マニアックな人はブルーズと呼びます)だと言われています。


 アメリカで生まれたジャズはやがてフランスの印象派(音楽においては当事者たちはそう名乗っていませんが)の音楽家たちにも影響を与え、ジャズの作曲家たちも印象派の音楽から影響を受けるという文化交流が発生します。

 そうしたムーヴメントは調性音楽(ホ短調だのなんとか長調だのと聞いた覚えがあるのではないでしょうか)からの脱却運動とも関係して、後に無調性音楽の第一人者となるシェーンベルクに繋がります。


 シェーンベルクが作曲を教えた生徒、弟子たちはやがてハリウッド映画の音楽の職業作曲家となっていきます。

 つまり北米の黒人音楽の影響を受けたヨーロッパの音楽文化がやがてまた北米に帰還するわけですよね。

 ハリウッドの音楽はロックにも影響を与え、バッファロー・スプリングフィールドなどに受け継がれていきます。


 一方、中南米はどうでしょうか。

 こちらは戒律の緩いカトリック文化圏であるポルトガルやスペインが入植していましたね。その結果は百花繚乱のラテンミュージックを聴けば火を見るより明らかですが、アフリカ由来のリズムとヨーロッパの伝統音楽がミクスチュアと進化を遂げて、非常にバリエーション豊富なダンスミュージックが生まれました。


 そんな中、ブラジルの中産階級の中からボサノバという音楽が生まれます。サンバのリズムが根底にありますが、踊れるビートよりも、むしろフランス印象派やジャズのコードワークの影響を受けて洗練させたような響きに特徴がある音楽です。


 現在流通する音楽はほぼすべてこうしたルーツを持ち、その上に成り立っています。

 音楽の成り立ちにもやはり系統樹があるわけです。ある音楽を苦手と感じていたけども、ルーツを辿って聴いていくうちに耳が出来上がってきて、苦手だったはずのジャンルも良さが分かるようになったりします。


 もし音楽を作ったりするような音楽好きな人がいたら、そういうことも思いに留めてルーツを意識して欲しいなというのは一介の音楽好きの意見です。


 例えばわたしの周りにミスチル好きでその近辺ばかり聞く人がいるんですが、それも悪くないと思いますけど、そのルーツを辿って聴いていくことで、彼らがエルビス・コステロのフォロアーだと知れば、あ、あのデビュー当時のプロモビデオって⁉︎ といった新しい発見があって楽しいかもですよ。


 話が逸れました。悲しい奴隷貿易の歴史ですが、そんな辛い歴史背景があっても、アフリカとヨーロッパの文化の複雑な混ざり合いが生じ、これほど豊かに育ったところに、わたしは人間のサガというかたくましさを感じてしまいます。

 そうして育ったアフロアメリカンたちの音楽をリスペクトして吸収する白人たちもいたからこそです。


 お互いが敬意を抱きつつ異なる文化が交流することで生まれる新しい文化って素晴らしくないですか。


 人気が出ることとかに気を遣わずに書ける(と勝手に自分で決めつけている)ちらしの裏ならではのエッセイになりました。

 果たして最後まで読み切る猛者はいらっしゃるのか……。

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