第6話 音楽・言葉・響

 前回、音楽について好き放題書かせてもらいましたが、今回は音楽における歌詞について。特に歌詞を書く機会のある方や、書きたいと思われる方向けかな。


 曲を作ってアレンジ、録音、ミキシング、マスタリングという過程をパソコン一台で完結できてしまうので、割と自分で曲を作って楽しむ方って多いと思います。

 わたしもたまに作ったりするのですが、音楽制作の過程で作詞の部分に一番苦しみます。


 音楽を作る人にもいろいろあると思うのですが、伝えたいメッセージがあってそれをメロディーに乗せて歌にするというタイプの方もいれば、メッセージよりも作りたいサウンドがあって音楽を作るタイプの人もいると思います。

 わたしの場合は完全に後者なわけです。


 その場合、歌詞もサウンドの一部であり、言葉が持つ意味もさることながら、サウンドが非常に重要性を帯びてきます。

 その点に関して、もし作詞をされる方がいらっしゃったら、基本原則として知っておいた方が良いと思うことがいくつかあります。

 もちろん知った上でそれを破るのも、ピカソみたいでかっこいいと思います。


 言葉には元々イントネーションやアクセントが備わっていますよね。つまりメロディーやリズムを持っているわけです。古今東西、日本の名曲と言われる楽曲は、原則として言葉が持つメロディーを尊重したメロディーがついていることがほとんどです。

 分かりやすい例は唱歌に多く見られます。


 『赤とんぼ』でも『七つの子』でもいいのですが、言葉のイントネーションとメロディーの高低を比較してみてください。

 メロディの流れを不自然にしない範囲で、できるだけ言葉が持つイントネーションが尊重されていることに気づかれるのではないでしょうか。


 言葉の持つイントネーションとあまりにかけ離れたメロディーが付いていると、違和感が生じてあまり心地よいサウンドにはなりません。


 意外かもしれませんが、初期の相対性理論の曲なんかもこの原則にちゃんと則っていますよ。『LOVEズッキュン』とか。

https://youtu.be/nFG4oQE1Et8


 在日ファンクの『ダンボール肉まん』なんかは、完全に言葉が持つリズムやアクセントを重視したチョイスで、意味自体は希薄というパターン。一応歌詞として成立させるための工夫はしていますけどね。

 それ言いたかっただけやろっ! ってやつですね〜。

https://youtu.be/lfKG_RCExQo


 他に音楽においてサウンドを重視した場合の言葉のチョイスとして、母音がiになる音がサウンド的に抜けがいいという原則があったりします。

 なのでメロディー中の長い音符に母音がiになる言葉を当てたり、逆に音の頭に持ってきてキレをよくしたりすることもあります。


 母音aは明るい印象でアタックも強いからサビのここぞというところに持ってくるとか、uやeはちょっと弱いから盛り上がる曲のサビには向かないかなとか、そういうサウンド面での特徴も加味しながら言葉を選んでいきます。


 こういった基本を押さえた上で、全体にサウンドが持つイメージに合う言葉や表現を選ばなければならないので、作詞という行為のハードルの高さというのがいかほどのものかご想像いただけると思います。

 そこに何らかの意味を持たせて表現としても深みを持たせたいわけですから、音楽における歌詞というのは独特のものですね。


 もちろんこれらは、サウンド重視の音楽の場合で、メッセージソングの類についてはこの限りではないと思います。

 文学ロックと呼ばれる音楽もあって、そう言ったものも大好きです。


 そういえば作詞の技法でカットアップという手法があります。詞先でなく曲先の場合に使える手法ですね。

 この方法ではまず、メロディーのセンテンスと曲のイメージに合いそうな言葉を、思いつくままに紙切れに書き出していきます。それをくじを引くみたいに無作為に取り出して並べていくわけです。

 それで出来上がったものには、全く想像していなかった意味が付されたり、期せずして面白い表現になっていたりするんですよね。

 音楽の歌詞ならではの特徴を活かしたこんな技法もあるわけです。


 そんな歌詞の世界。良い歌詞の定義はいろいろあるのですが、今日挙げた点は意外と基本的なことの割に一般的に浸透していない気がします。


 趣味で作る方に多少参考にしていただけるようなものになっていたらいいなと思いますし、聴く側の人も上述のことを意識して聴いてみると、優れた作品や作詞家がなぜ優れているのか分かって楽しいと思いますよ。


 書きたいことはまだまだ尽きないのですが、十分長いのでこの辺りにしておきます。

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