かたおもい

@sennindayo

第1話 ひとめぼれ

 僕は、空を眺めるのが好きだ。空の青さは、僕を包み込み、想像の世界へと誘い込む。あの青い中を飛び回ったら、どんな気持ちがするのだろう。空の向こう側には、僕がまだ見ぬ世界が広がっているのだろうか。ニューヨークの、高いビル群、ラクダがのんびり歩いている砂漠、世界一高い山や、世界一広い河、この先に僕の知らない世界があると思うと、想像は尽きない。僕は学校にいて、こうした窓際の席で、ぼんやりとしていることもできるが、世界には僕よりも幼い年でも、学校に行けることができず、働かなければ生きていけない、現実がある。そこまで、想像したところで、我に返り、授業に取り組む姿勢に戻る。教室の時計を見ると、授業が終わる1分前。気合いを入れるのが、遅すぎたと後悔していると、僕のやる気を奪うように、終了の本鈴が鳴った。後悔する時間も無駄と言わんばかりに、すぐに黒板の板書をノートに写していると、先生が終わりの言葉の後に続けてこういった。

「昼から、転校生が来ることになっている。昼食を食べた後の、5時間目も遅刻することがないように。」

とのことだった。珍しいタイミングで、転校生が来るものだ。僕は、頭の中では不思議に思いながらも、手は黒板を移すことで必死だった。

 お昼の時間を過ぎても、板書を写していると、うるさい2人がやってきた。

「カイ、また空でも眺めてたのか?空想の中もいいが、少しは勉強した方がいいぞ。」

「カイにとっては、空を眺めることも勉強のうちなんだよな。たまには息抜きも必要だと思うぞ。」

お昼はいつも、3人で食べることにしている。勉強を進めてきた、テストで学年順位一桁の常連、シゲと、テスト順位は下から数えた方が、はるかに早いゲンと、僕の3人だ。

僕は、板書を写し終えて、弁当を片付けて、お昼の準備を始める。

「ゲンのいうとおり、僕にも、息抜きも必要なんだよ。」

というと、すかさずシゲのツッコミが来る。

「お前には、1時間に1回は息抜きが必要ということになるな」

「ま〜。授業を真剣に聞いている俺より、カイより俺の方が順位が下なのは納得できないがな。そういえば、このあと来る転校生は、どんな子なんだろうな。」

自然な流れで、ゲンは話題を変えて来る。

「昼から来るくらいだから、夜逃げでもしてきたのかな。」

と冗談半分で、ゲンが笑いながら聞いて来る。

「別に夜逃げしたからといって、昼から来る理由にはならないだろう。そもそも、半日くらい休んで、明日の朝から来る方が自然だ。」

「確かに、おかしいよね。わざわざ昼から来るってことは、学校が楽しみすぎるってことかな。僕だったら、絶対半日休んで、明日来るけどな。」

「空を眺めるためにか。」

笑いながら、突っ込んで来る。シゲになんか、いやなことしたか?と考えていると。

「お前、朝のくしゃみ事件のことまだ根に持っているのか。」

「お前には、関係ない。」

くしゃみ事件とは、僕が登校中に、3人で話しているとき、お茶を飲んだ拍子に、鼻がむず痒くて、思いっきりシゲの顔にくしゃみをしてしまったことだ。ここまでならそこまで問題ないのだが、その後、メガネについた水を拭こうとしたら、メガネが濡れていたため、落としてしまい、ヒビが入ったという話だ。もちろんくしゃみをした僕が悪いし、謝罪はした。しかし、落としたのは、シゲだし弁償についてはしなくていいだろうと自己解決していた。恐る恐る聞いて見る。

「やっぱり、弁償した方がいいか?」

「別にいい。俺も、自分のしたミスだし。やるせなくて、ぶっきらぼうにカイに突かっかていた。ごめん。」

「なんか解決したみたいだし、俺の弁当のミニトマト2人とも食べて、仲直りな。」

よくわからない解決法を提案されたが、このムードメーカーで優しいゲンのいいところだ。ゲンがいなければ、ここまで楽しい学生生活を送っていなかっただろう。

そのあとは、いつもの時間が過ぎて、いつの間にか昼の予鈴がなっていた。

僕は、あと5分で授業が始まるという時に、トイレに行きたくなった。緊張でトイレに行きたくなるということは、生理現象としてあるらしい。なぜ、僕が緊張しているのかはわからないが、どんな転校生かを想像しているうちに、気持ちがリンクしてしまったかもしれない。急いでトイレに向かう時に、クラスの前に立っている美少女に目を奪われた。綺麗な空のように、透き通った瞳をした彼女に。

 彼女は、僕のクラスにはいない。彼女が転校生なのか?と考えているうちに、彼女の隣に担任が立ち、僕にクラスに入るように促された。そこで、トイレに行きたかったことに気付きながらも、体は担任の言葉に従い、僕の椅子に向かっていった。

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