第28話 魔族の流儀1
ローランド達がエシュタット記念学園についた時には、衛兵たちが十重二十重と包囲網を囲んでいる所だった。
「おい、そこの貴様。犯人たちはいったい何を要求しておるのだ?」
「あっ? なんだこのガ……いやなんでもありませんお坊ちゃん」
突然居丈高に話しかけられた野次馬は、自分を睨みつける目つきの悪い子供に語気を荒げそうになったが、その背後に控えている人相の悪い長身痩躯の男を目にしてころりと態度を代えた。
「いえ、それがですね。なんでも下らない祭なんか中止しろとか、人族はこの地から出て行けとか、魔族の誇りを取り戻せとか、言いたい放題らしいですよ?」
「そうか、情報感謝するぞ」
ローランドはその男の腕をポンと叩くと、人波をかき分け前へ前へと進んでいった。
「どうしますか、お坊ちゃま。敵は緩み切ったレッサーオーガではなく、規律の取れたドレイクナイトが中心です。
おまけに前回とは違い、人質の数が多い。下手に刺激を与えると、それ幸いと強硬手段に出る可能性がございます」
「ふん、そんな事は分かっておる」
ローランドはしかめっ面を浮かべながらそう言った。
人質が多ければ、その管理が大変となるが、逆に言えば何人かは見せしめのために始末する事も出来るという事だ。
「じゃが、今回はその規律が仇になろうて」
ローランドはニヤリと頬を歪めると、衛兵が立ち並ぶ警戒線までやって来た。
「おい、そこをどけ、余はローランド・ベルシュタインなるぞ」
「は? 何を言ってるんだい坊や、見ての通りここから先は関係者以外立ち入り禁止だよ」
「はっ! 関係者と言うのなら余を置いて他はあるまい。余は学年主席にして、敵首魁ドルバッキーと因縁深き身よ!」
「いっ、いや、そう言う事を言われてもねぇ」
この子供をどうしたものかと、衛兵たちがわたわたしていると、伝令がやってきて彼に耳打ちをした。
「あー、なんか、入っていいという事だ。現場本部はあっちのテントだから余計な所には消していかないように」
「うむ、そちも勤務に励むといい」
「あっ、はっはい?」
ローランド達は衛兵たちから奇怪な視線を受けながらも現場本部へと足を運ぶ、するとそこには見慣れた顔が座っていた。
「おお、マコの父親ではないか」
「ああ、ローランド君、その節は世話になった。君はマコの恩人だ、君にはいくら礼を言っても言い足りないよ」
議長はそう言って手を差し出して来た。ローランドはその手をしっかりと握りしめる。
「マコの調子はどうなのだ?」
「今度は君がさらわれたと大騒ぎをしていてね、この件が片付いたら家に顔を出してくれると助かるよ」
「はっはっは。息災ならば何よりだ。それにしても貴様もついておらぬな、こう立て続けに人質事件など」
ローランドがそう言うと、彼は疲れた表情を浮かべ、曖昧に首を振った。
「ドルバッキーの要求については耳にした、貴様はどうするつもりだ?」
「どうするもこうも無い、彼らの要求に従ったら、また大戦の始まりだ」
議長はたっぷりと隈の浮かんだ目をしつつも、力強くそう言った。
「かかか、その通り、そしてそれこそが正に奴らの目的よ」
「そうだろうね、ドルバッキー侯爵と言えば、ベルカ公爵の派閥内でもとびっきりのタカ派と聞く。為にためていた鬱憤が、どこかで新18条の話を耳にして爆発したという所だろう」
議長はやれやれと首を振った。
「そう言った所で。我々としては手の打ちようが無いと言った所でね」
議長はそう言って肩をすくめる。
「ん? ベルカの奴はどうしたのだ? あ奴の言葉ならば万に一つ通る可能性があるのではないのか?」
「残念ながらな、その可能性も潰えたところだローランド・ベルシュタインよ」
そう言いながらひとりの年老いたドレイクが天幕を潜りながら入って来た。
「はっ、良いざまではないかベルカよ」
「ふっ、好きに言うが良い小僧」
ベルカはローランドが向ける鋭い眼光も、柳に風と受け流しつつ静かに奥の席へと腰かけた。
「やはり、儂が出て行っても何も変わらん、むしろ意固地になって反発を強めるばかりじゃ」
「そうですか……」
「奴が言っておるのは暴と乱を求める魔族の本能に基づいたものじゃ。いくら理によって積み上げられた言葉を尽くそうと、それを代える事は難しいじゃろうて」
ベルカはそう言って、深いため息を吐いた。
「かかか! 随分と情けない事を言うではないかベルカよ!」
年老いたひとりのドレイクに対して、ローランドは腕組みをしながらそう言った。
「情けないじゃと?」
「おう、そう言ったぞ。余は!
貴様はこの20年そう言って言い訳ばかりを積み上げて来たのだろう。それがコレ、それが今日だ!
共存共栄、平和の為、それは確かに立派なお題目じゃ!
じゃが、それもそこに暮らす人々あっての
「ふっ、いうではないか小僧。では、貴様に何が出来ると?」
「無論、この下らぬ事件の解決よ!」
ローランドはふん反り返るようにしながらそう言った。
「ほう、良く言うた小僧。では、それをなした暁にはそちが望むものなんでもひとつ与えてやろう」
「はっ! その言葉忘れるでないぞベルカよ!」
ローランドはそう言うと、大股でテントから出て行った。
★
「お坊ちゃま、先ずはお見事でした。
で、実際問題どうなさるおつもりですか?」
アシュラッドは腰をかがめて、耳打ちする様にそう尋ねた。
「はっ! 決まっておろうアシュラッド。ドルバッキーの奴が魔族の流儀に従い行動しているというのなら、それに応えてやるまでよ!」
「という事は、まさか……」
アシュラッドがそう呟くのを他所に、ローランドはドシドシと歩いて行き。校庭の中央まで行ったところで足を止めた。
そして彼は、その場にいる全員が見守る中で、大声でこう叫んだ。
「余の名はローランド・ベルシュタイン! 余は学年主席、すなわちこの学園で最強の存在である!
この学園に置いて下らん要望をピーチクパーチク垂れ流すのは、先ずこの最強たる余を倒してからにしてもらおうか!」
その場にいる全員が頭に疑問符を浮かべているのをよそに、ローランドはニヤリと頬を歪めてこう付け加えた。
「強いものに従う、それが魔族の流儀であろう?」
沈黙がこの空間を支配した。
それを打ち破ったのは、教室側からではなく、校門側からの声だった。
「ぐわはははは。それは良いぞ小僧。だが、ひとつ間違いがある、学園最強は貴様では無くこの俺よ!」
そう言って居並ぶ衛兵たちを、道端に転がる小石のように蹴り飛ばしながら歩いて来たのは、巌のような体を持った、ひとりのダークトロールだった。
「俺の名はスティール! 生徒会の
スティールはそう言うと。ローランドの隣に並び立った。
「お坊ちゃま、
「いらん、アシュラッド! これは単なる学園内のレクリエーションよ!」
ローランドは大笑いしながらそう言った。
「へっ、そう言う事ならこの俺も参加条件は満たしてるって事だな」
そう言って風の様に現れたのは、ひとりのウェアウルフ・ヴァンだった。
「ソノ様デ、ゴザイマスネ。ワタシ、モ、胸ノ高鳴リガ止マリマセン」
そう言って完全武装で現れたのは、ひとりの人造人間・トーニャだった。
「なんだお主ら、来ておったのか?」
「ああ、俺は家から近いもんでね、ちーと見物してた」とヴァンは言う。
「ワタシ、ハ、オ嬢様ガ、人質トシテ」と、トーニャはライフルを構えながら。
「かかか、何でもよい何でもよい。
じゃが、敵の首魁は余の獲物じゃぞ、きゃつとはちょっとばかり因縁があってな」
ローランドは牙を見せびらかすように笑いながらそう言ったのだった。
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