第29話 魔族の流儀2

「侯爵! あのような小僧に好き放題言わせておいてよろしいのですか!」


 そう言って肩をいからせ、ドルバッキーへ詰め寄るのは、若手のリーダーであるドレイク男爵バロンだった。


「くくく、滾るか、ランドルフよ」

「はっ、いっいや、しかしあのような半端者の小僧に何時までも好き勝手言わせておけば我らの沽券に差し障ります。我らは崇高なる目的の為にあえて泥をかぶって――」

「いい、もうそれ以上言わんでもよい」


 ドルバッキーは若きドレイクを宥めるようにそう言った。

 ドレイクとは、生まれながらにして魔族の最上位に位置する高貴なる種族である。

 そんな支配者である自分たち自らが、あえて、くだらない人質作戦などと言う汚れ仕事を起こして見せたのは、どれだけ自分たちの意思が固いか周囲にアピールするためであった。

 その不退転の決意を半竜人である小僧に『学園内のレクリエーション』と嘲笑われたのだ。


「うふふふ。学園内のレクリエーションですか、折角の一大決心を随分お安く買いたたかれたものですわね」

「女! 貴様も我らを愚弄するか!」


 ランドルフは語気を荒げながら、バーミリオンへと詰め寄った。


「くすくす、ここはエシュタット記念学園ですもの。わたくしはこの学園内に置いて至高の存在ですわ」


 バーミリオンはそう笑いながら、言葉を続けた。


「そも支配階級である貴族が最前線に出るという事はこういう事。全ての責務をその身に背負い、不退転の覚悟で行動するなど当然の事ではございませんの?」

「だから我らは!」

「『だから我らは、くだらない人質ごっこに手を染めた』、ええ、その事については構いませんわ。貴方たちが下した結論ですもの。

 ですが、ここはエシュタット記念学園。貴方たちに貴方たちの流儀があるように、学園には学園の流儀がございましてよ?」


 バーミリオンは血走った眼をしたドレイクに見下ろされながらも一切ひるむことなくそう言ってのける。


「くくく。女、言って見せよその流儀とやらを」


 奥に座っていたドルバッキーは、ニヤリと笑いながらそう言った。


「決闘ですわ! 互いの意見が相容れない時は、理知的に紳士的に、血と暴力を持ってそれを解決するのですわ!」


 バーミリオンは高らかにそう謳い上げたのであった。


 ★


「おい小僧。動かねぇじゃねぇか」


 大々的に啖呵を切ったものの、ピクリとも反応を見せない立てこもり犯に、スティールはあきれ半分苛立ち半分でローランドへそう言った。


「なーに見ておれ、我らドレイクは誇り高き種族だ。公衆の面前でこの様に虚仮にされれば必ずや反応を示す」

「だがよ、大将、それが悪い方向に転んじまったらどうするんだ?」


 腕組みをしながら、大威張りでそう言ったローランドに、ヴァンはそう疑問を投げかける。


「かかか、それはあり得んよ。よいか? 我らドレイクとは――」

「敵、移動開始シマシタ」


 ローランドが話を続けようとした時だ、若手のリーダーらしきものにひきつられ、数多くのドレイクたちが校舎より出て来た。


「かかか。ほれみろ、余の言った通りであろう?」

「ああそうだな。奴らの全身が、返り血で真っ赤に染まって無くて安心したよ」


 ヴァンはそう言って肩をすくめる。


「男爵クラス1、ナイトクラス9、合計10デ、ゴザイマス」

「ふーむ、人質の管理に最小限を残した……という所かのう」

「にしても、男爵クラスか……大将は一応ナイトクラスだろう? それが男爵クラスとなると、どのぐらい厄介なんだ?」

「まぁ、一般的なナイトの倍程度かのう?」

「そいつはまた……ぞっとしない話だねぇ」

「ぐふふふふ。心配するな弱きものよ。男爵含めた半分は俺が受け持ってやろう」


 スティールはそう言って拳を鳴らす。


「そうか。まぁ余はこの後、ドルバッキーと決着を付けねばならぬからのう、ここは素直に譲っておくとしようか。となると余の相手は3体ぐらいかのう?」

「じゃあ、俺とトーニャで2体か、それ位なら何とかなるかねぇ?」

「善処イタシマス」


 そう言い、軽く手足を動かすヴァンに、トーニャはぺこりと頭を下げた。


「よいか、皆の衆。敵は余たちを殺す気でやってくるじゃろうて。

 じゃが、余たちは余たちは奴らを殺すことはまかりならん。

 これはあくまでも学園内のレクリエーションじゃ。そこのところを注意せよ」

「ふん、その程度のハンデ上等だ」

「きっついねぇ」

「承知イタシマシタ」


 4人はそれを確認すると、敵の陣形に合わせて散開した。


 ★


「どうどう? わいとっち、もう始まっちゃったー?」

「あなたどこ行ってたのよ、今よく分からない名乗り合いやら罵り合いが終わった所よ」

「やった! セーフ、セーフ、はいわいとっちポップコーン」

「あら、ありがとう頂くわ」


 こうして決闘が始まる中、生徒会の白と金はポップコーン片手に最前線でそれを観戦していた。


「ところでわいとっちー。アイツらの主張どう思うー?」

「うふふふ。バーミリオンにはああ言ったけど、私はこの生活、実の所それ程嫌いじゃなくってよ」

「あははー。同じだー。わたしもこの薄氷の上の平和は嫌いじゃないよー」

「ええ。ちょっとでも踏み外せば、あのようなおバカさんたちが手ぐすね引いて待ち構えている、そのスリルたまらないわ」

「そーだよねー。このぎすぎすした雰囲気が楽しいんであって、実際にこうやって表に出てこられると興ざめだよねー」

「ええまったく」


 そう言ってふたりは優雅にポップコーンをつまみつつ、血みどろの戦いを観戦するのであった。

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