第16話 戦い終わって
ガラリと静まり返った控室に、ルドルフと、エルネットの姿があった。
「くそっ……負けたか」
「いいえ、ご立派でしたわ、ルドルフ様」
決められた肘の傷みだけでは無い、補助魔法のフィードバックで彼の全身には鋭く重い痛みが駆け巡っている筈だ。
(ふふ、それを顔に出さないとは、ルドルフ様も男の子ですのね)
エルネットはルドルフへ回復魔法をかけながらほほ笑んだ。
「確かに、試合には負けました、ですがこの勝負ルドルフ様の勝ちでございます」
エルネットはそう言ってニコリと笑う。
「なに? どういう事なんだよ」
ルドフルは、全身を駆けまわる痛みに歯を食いしばりながら、そう呟いた。
「勝負はギリギリでした、という事は、ローランド様はこの学年唯一の圧倒的な存在ではないという事ですわ」
「そーそー、るどっちはよくやったよー」
能天気な声と共に何処からともなく現れたのはゴールディだった。彼女は「私もしてあげる」と言い、ルドルフへ回復魔法を行った。
「試合はろらんっちの逆転勝利でおわったでしょー、裏を返せば、それまではるどっちが圧勝してたってことさー。
だったら客席から見たふたりの間にある壁は、薄皮一枚程度におもえるっしょー」
「そうですわ、だったらこうも思うはず、林間学校ではローランド様が解決したのはたしかだが、ルドルフ様でも問題なく解決できた、ふたりの間にあったのはただのタイミングの差だった、と」
ニコニコと笑うふたりを前に、ルドルフはむくれた顔でこう言った。
「けど、勝負は結果が全てだ。もし、だが、たら、なんて通用しない」
「あははー、その辺はわたしに任せてよー、情報工作はお手の物だよー」
フワフワと舞い、上下逆さまになったゴールディはあっけらかんとそう言った。
「ゴールディさん、貴方は、いや、貴方たちはいったい何を企んでいるんですか?」
チート行為まで使って、自分の全てを出してなお破れた、その事である意味冷静になったルドルフは彼女へそう問いかけた。
「あははー。わたしはただ面白いからやってるだけだよー。まぁみりっち何かは私情が幾分入ってるかもしれないけどねー」
「私情? ですか?」
「そっ、しじょーしじょー。学園の秩序を守る生徒会長としての大義名分は山のようにあるだろうけど、スパイスとしての私情は欠かせないよねっ!」
ゴールディは楽しそうにそう笑う。
情を持ち、それをぶつけて来るバーミリオン。それよりも愉快犯として計画に加担するゴールディ。自分にとって敵に回すと恐ろしいのはどちらであろうか? ルドルフはそう思い、背筋に冷たい汗を流したのだった。
★
『それでは、優勝トロフィーの贈呈です』
生徒たちの拍手に囲まれ、ローランドは一歩前に出る。
「おめでとう、ローランド君。素晴らしい戦いぶりだったわ」
バーミリオンは、優雅な笑みを浮かべて、ローランドへトロフィーを差し出した。
ローランドは、不敵な笑みを浮かべて彼女へと近づくと周囲に聞こえないようにこう声をかけた。
「これで満足か?」
「そうですわね。あまり欲張ってもしかたがありませんし、これで満足という事にしておきましょう」
バーミリオンは、笑みを絶やさぬままに、軽やかにそう言ってのける。
その答えに、ローランドは少し驚いた顔を浮かべた後、恭しくトロフィーを受け取ったのであった。
★
「どどどどど、どーしたんですか坊ちゃん! 運動服がボロ布じゃないですか!?」
おんぼろ長屋にミラの叫び声が響き渡った。
「すまん! ミラ! 何とかしてくれ!」
「いえ、何とかするのは良いんですが、お体は大丈夫なんですか!?」
「ふっ、その事ならば問題ない、あの程度のじゃれ合いで壊れる様なやわな造りはしておらん」
机に広げられた
「しかし、学内での戦闘ですか……
「かかかかか。戦闘などと大げさなものでは無い、所詮は木剣を使った棒振り遊び、そう気に病むことはない」
いつもより倍は陰鬱な顔をしたアシュラッドを、ローランドはそう笑い飛ばす。
「余も勝手は分からんが、これが学園生活の醍醐味と言うものなのだろう、敵まで用意してくれるとは、なにぶん贅沢なものよ」
「えー、そう言ったものですかねぇ?」
「そうともよ、余たちドレイクは戦いこそを至上とする。それには相手がおらぬとなぁ」
ローランドはそう言ってニヤリと頬を歪めたのだった。
★
「ねーねー、みりっち、みりっちー。あそこでタネ晴らししちゃって良かったのー?」
「あそこまで察せられているのですもの。とぼけたって間抜けなだけでしょ?」
バーミリオンはそう言って肩をすくめた。
「いやー、ろらんっちは勘違いしていると思うけどなー」
ゴールディはそう言ってニヤニヤと笑う。
「うふふふ。そうね、彼は自分が狙われてると思っている筈よ」
「……思っているも何も、その通りよ。
「えー、ホントかなー? ホントかなー?」
「本、当、で、す、わ」
ふたりのニヤつく顔に、バーミリオンは眉間にしわを寄せながらそう言った。
「ふん、ローランド・ベルシュタインか」
三人がきゃいきゃいと話に花を咲かせる部屋の隅では、スティールがバーベルを持ち上げながら、そう呟いていたのであった。
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