第15話 決着! クラス対抗戦!

 試合開始のゴングが高らかに鳴り響く。

 一回目は何が起きたかもわからぬうちに幕を閉じた。

 二回目は大胆不敵に歩んでいき、圧倒的な実力差を見せ勝利した。

 では、三回目は?

 観客たちはローランドが何をしでかすか目を凝らして見守った。


 しかし、今回先手を取ったのはローランドでは無かった。

 その反対、しかも後衛からの攻撃でスタートした。


炎よイグニス!」


 エルネットは透き通るような声で高らかにそう叫ぶと、手に持つワンドの先から放射状に火球を打ち出した、それはルドルフを避けるように弧を描きローランドへと向かっていく。


(ほう、「魔法拡大/数」に「魔法拡大/威力」そして「魔法制御」と基本的な所は抑えてある様じゃの。一回戦のような余の突進を警戒しての事かは知らんが派手な事よ)


 ローランドは自らを取り囲むように飛来する火球を前にしても余裕の態度を崩さずにそう分析していた。


(この程度の火球、余にとってはいかほどのものでもないが、服を燃やしてしまってはミラに迷惑がかかる)


「しょうがない! 避けてやるか!」


 ローランドはそう叫び、天井高く舞い上がった。

 360度包囲されたとしてもそれは平面上の事、上には幾らでも逃げ場があった。


 だが、それを予想するかのように、ローランドより一瞬早く跳びあがった者がいた。

 ルドルフはローランドの頭上を抑えると、大上段に構えた木剣を振り下ろした。


「はっ、その程度!」


 ローランドを叩き潰さんばかりの勢いで放たれた一撃だったが、彼はひらりと半身になると紙一重でそれをかわしきる。

 

「どら、お返しじゃ!」


 そして、かわしざまに、ルドルフの腹へと深々とローランドの膝が突き刺さる。


「がっ!」


 がら空きの腹に一撃を食らったルドルフは、苦悶の声を上げつつも、くるりと半回転しつつ、背後に抜けて行ったローランドへと木剣を振るう。

 しかし、その時既にローランドは、彼の頭上を取っており、彼の脳天目がけて蹴りを叩き込んだ。


 ★


『おーっと! やはり学年主席の座は伊達じゃない! 今回も一方的な展開になってきましたー!

 どうですか、スティールさん、学園最強の名をほしいままにする貴方としてはローランド選手と一手交えたいと思ったりなんかするんじゃないですか!?』

『ふん、強い奴が勝つ、それだけだ』

『はい! 何時ものコメントありがとうございます!

 闘技場ではルドルフ選手が劣勢のまま――あーーっとここで援護射撃! 後衛のエルネット選手の魔法攻撃がローランド選手を背後から襲い掛かる!

 しかしローランド選手、その翼は伊達じゃないとばかりに、自由自在に天を舞う!

 そこへ復活のルドルフ選手! 今度は初めて剣があったーーー!』


 ★


 上空にて、ふたりの鍔迫り合いが開始された。

 血走った眼で木剣に全精力を込めるルドルフは「僕は勝つ」と呪詛のように呟き続ける。


 その時だ、彼らの下方より、良く通る声が聞こえて来た。


「ルドルフ様! 今がチャンスです!」


(チャンス? 何のことだ?)


 ローランドがそう思ったその時だ。


「ここからが! 『本気の勝負だ』!」


 ルドルフがそう叫んだ瞬間に、彼の持つ何もかもが一変した。

 先ほどまで鍔迫り合いは均衡を保っていたが、ルドルフの圧力は一瞬で激増し、ローランドは一気に地面へと叩き付けられる。


「なっにっ!?」


 だが、攻撃はそれで終わらない。

 ルドルフは上空から魔力弾を乱れ撃ちにし、ローランドを地面に縛り付ける。


「くっこっの! 服が破れたではないかーー!」


 ローランドはそう雄叫びを上げながら、弾幕の中を突き切って、ルドルフへと突進する。

 だが、彼が木剣を振るった時には、ルドルフは既にその場になく、彼の背後からケリを放った。


 ★


『おーっと! 凄い! 凄い凄いすごーーーい!

 美女の声援が効いたのか!? ここに来てルドルフ選手大! 逆! 転!

 ローランド選手を一方的にタコ殴りだーーー!』

『ふん、強い奴が勝つ、それだけだ』

『はい! いい加減ちゃんと解説をお願いします!

 あーっとだめ! またしてもだめ!

 ローランド選手必死に反撃の糸口を探るも、ルドルフ選手それを歯牙にもかけず一方的な立ち回り!

 ローランド選手の最強伝説は今ここで潰えてしまうのかーー!』


 ★


(くっ、「上位筋力増加」「上位耐久増加」「上位速度増加」「上位反応向上」「上位魔力増加」考えうるあらゆる補助魔法がかかっておるな)


 自陣へと吹き飛ばされたローランドは、土埃の中でそう分析した。


「ろっロラン君! 大丈夫!」

「心配するなマコ! 余は無敵だ!」


 ローランドはそう言い、口の端から流れ落ちる血を拭き去った。


(さて、ここからどうするか。呪文が切れるまでのらりくらりと立ち回るのが利口な手口じゃろうが、そこは相手も承知の内。その為のタッグマッチじゃろうからのう)


 ローランドはちらりと背後に目をやった。そこには絶対放さないと言わんばかりに両手でしっかりと旗を握りしめるマコの姿があった。


(かかか。臣下がああして踏ん張っているのに、主が背を向ける訳にはいきまいて!)


 ローランドは、ルドルフへ向け一直線、弾丸のように飛び立った。

 しかし、そこで繰り広げられるのは先程の再現だ。

 ローランドの流れる様な連撃をルドルフは易々と捌き、カウンターの重い一撃を叩き込む。

 そこには並大抵の実力差では埋められぬ、圧倒的なステータスの差があった。


「ロラン君!」


 と、マコの悲痛な叫びが木霊する。

 それに対してローランドは口端に笑みを浮かべて――攻撃の直前に突如木剣を左手に持ちかえた。


 ★


『おーっと! ローランド選手! ここに来て突然攻撃がヒットする様になったぞー!

 これはいったいどういう事なんでしょうかスティールさん!』

『ふん……攻め手を代えただけだ、所詮は付け焼刃という事か』

『あーっと初めてスティールさんがってスティールさん! スティールさん! 何処に行くんですか!?』

『ふん、強い奴が勝つ、それだけだ』

『えーすみません、解説のスティールさんが退席してしまいました!

 ですがご安心を! みんなの可愛いアイドル、放送部のアヤは何時も皆さんのおそばにいますからねー!』


 ★


「かかかっ。力、体力、速度に勝ろうが、経験の差と言うものはそう易々と埋められまい!」


 先ほどまでの流れる様単調な連撃の代わりに、ローランドはあえてリズムを崩した攻撃を繰り広げる。

 それに対して全てにおいて圧倒するはずのルドルフは、攻撃の手を挟めないどころか防戦一方になって来た。


「先ほどまでの余の一方的なやられっぷりは、全てこの時の為の撒き餌よッ!」


 ズバンと鋭い一撃が、ルドルフの腹を貫いた。

 だが、ルドルフはそんなものは効いていないという風に、背後に逃れたローランドへと木剣を振るう。


「それを待っていたぞ!」


 ローランドは木剣を捨て去り、ルドルフの腕にからみついた。


「うぐッ!」


 飛びつき腕十字固めがルドルフの右腕にしかと決まる。


「はっなっせ……」

「かかかかか! 千載一遇の好機! ここを見捨てて何とする!」


 圧倒的なステータス差、それを覆したのはテコの原理だった。

 ローランドはボロボロの体をおして、後方へと反り返る。


「ロラン君頑張れーーーー!」


 マコは喉よ裂けんとばかりに声を張り上げる。


「くっ、ルドルフ様!」


 エルネットは、援護の攻撃をしようとするも、これだけ密着した状況では、それは困難を極めた。


「くああああ!」


 ローランドへの抵抗が、急激に減少した、ついに補助魔法の効果が切れたのだ。

 それと同時に、ルドルフはローランドをタップした。


 ★


『けっちゃーーーーーーーーーーく!

 決着! 決着です! 長く厳しい高いもこれで決! 着! です!

 ルドルフ選手、ローランド選手の脅威の粘りについにギブアップ!

 いやー、それにしても近年まれにみるハイレベルな戦いでした!

 皆さん!

 素晴らしい戦いを見せてくれた両者に惜しみない拍手をお願いします!』


 ★


 万雷の拍手に送られて、ローランドは自陣へと帰っていく。

 圧倒的なステータス差で一方的に攻撃を食らっていた彼はボロボロの状況であったが、彼はしっかりと右手を天に掲げ、自分が勝利者だとアピールする。


「ロラン君! ロラン君! 凄いよ!」

「こっこら、抱き付くでないマコよ」

「あっ、ごっごめんロラン君、ボクつい興奮しちゃって、痛かった?」

「ふっ、余を嘗めるでない、格上との戦闘など慣れたもの、父上がご存命だったころには良く袋叩きにされたもの、ヒットポイントをずらす術など、骨の髄にしみ込んでおるわ」

「ふえー、なんだか分からないけど、ロラン君が無事でよかったよー!」


 マコはそう言うと、再びローランドを抱きしめたのだった。

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