第2話

  私は一人でハワード侯爵家に乗り込んだ訳ではありません。

 ハワード侯爵領出身の娘を筆頭に、傭兵団から護衛を連れて来ました。

 魔獣を狩れるような猛者は同行させず、傭兵団に残しました。

 魔獣狩りが傭兵団の収入源です。

 私の護衛程度のために、彼らを連れてくるわけにはいきません。


 だからと言って、私に付いて来てくれた者達が弱い訳ではありません。

 男死病が流行する前の、男全盛時代の騎士が相手でも負けない力量です。

 いえ、負けないと言うのは謙遜です。

 男騎士を圧倒する強さです。

 まして今のような弱弱しい男どもなど、者の数ではありません。


 彼女達を女騎士や戦闘侍女に任じて、身の安全を図りました。

 まあ、私一人でも、今のハワード侯爵家の騎士や兵士程度なら、正々堂々と正面から戦うのなら、後れを取る事はありません。

 問題は毒殺などの暗殺を仕掛けられた時です。

 食べなければ死んでしまいますし、眠らない訳に行きません。


 不寝番を務めてくれる者が必要ですし、毒見をしてくれる者も必要です。

 そんな役目を務めてくれる、信頼出来る女達を連れて来たのです。

 彼女らは護衛を務めてくれただけではありません。

 領内各地を巡検してくれるのです。

 ハワード侯爵領から逃げ出して傭兵団に加わったデリラを中心に、代官の不正を正して回ってくれたのです。


 そんな私の行動を、当代のハワード侯爵は黙ってみていました。

 私のやり方が正しいと思ってくれているのか、それとも、文句を言って逃げ出されたら困ると思っているのか、本心は分かりません。

 ハワード侯爵がどう思っていても関係ありません。

 私の信じる方法で領地を治めるだけです。


 ですがどうしても互いに引けないことがあります。

 ハワード侯爵は、貴族の跡継ぎは貴族同士の間に産まれた者でなければならないと、生き残った豚のような貴族と私の婚約をすませていたのです。

 この言い草は絶対に認められません。

 認めたら、庶子であった祖父や、平民上がりの傭兵だった父を辱める事になってしまいます。


 断固として断りました。

 極端に男の少なくなった世の中で、種馬のように生きている貴族と契るなど、虫唾が走ります。

 それに私には心に決めた相手がいます。

 幼い頃から共に学び、共に剣の鍛錬をしたマイケルです。


 本当はマイケルに一緒に来てもらいたかったのですが、複数の魔獣を同時に相手出来るほどの手練れを、傭兵団から連れて来るわけにはいきませんでした。

 寂しい事ですが、仕方がない事です。

 ですが私の結婚相手はマイケルだけです。

 だからハワード侯爵が決めた婚約は破棄しなければなりません!

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