虫
俺達は不死蝶のいる地点まで徒歩で向かっている。
片道役6キロはある。
『文句を言うわけじゃあないんだがね…何故徒歩なんだね?』
文句だろうが、すでに滝の汗じゃないか。
『生態系に影響があるので、車両は使えません。電気自動車とスタンド設置してくれます?』
俺が言うと
『……検討しとこう。』
期待はしていない。
そもそもスタンドなんか建設不可だ。
エバーグリーンの植物は全て灰色とアイボリーの中間の様な不健康な色合いである。
植物は生きてはいるが酸素を排出せず、代わりに毒素を出している。
ここに生息する生き物は主に虫や菌類のみだが生態は謎が多く残る。
よって、この役人のおっさんを安全に「お散歩」させるのも楽ではない。
『おいそこっ、なんか動いたぞ!』
おっさんが怯えた声をだす。
『大丈夫です。なんかしらの虫はいますが雀蜂みたいに襲ってくる虫はほとんどいません。』
スイが説明した。
『君を怪我させたのは?』
『でっかいカマキリの様な蝦蛄の様な虫です。前脚で突かれました。あれ強いんです。』
おっさんは不安が隠せていない。
『そうゆうのが出たらどうするんだね?銃火器なんかも持ち込みは禁止だろう?』
『はいその通りです。刃物はオッケーなんですがね。大体は殴って気絶させますね。殺すと「上」がうるさいので。…あ、そうゆう意味じゃないですが。』
スイはおっさんの手前気を遣ったらしい。
『構わんよ。特定絶滅危惧種の保護についてはねぇ、まあ私の力及ばずと言ったらあれだが、やっぱり有害生物指定が許可されないんだなこれが。まあ頭が固いんだよ政治家は。』
俺はそこらへんの事には疎いしよく分からない。
が、実際はたまにまかり間違って殺してしまうことも多い。
その事実は外部に漏れることもないし、漏れたからとて問題になるわけがない。
例えば(あり得ないが)俺達がエバーグリーンにてある種の生物を根絶やしにしてしまったとする。
しかし問題にはならない。
何故ならエバーグリーンに生息する絶滅危惧種で外部が把握しているのはほんの2割程度だからだ。
『カガミさん!!』
スイがおっさんの名を叫ぶ。
木の根に腰を下ろしたおっさんの手を強引に引き起こす。
『乱暴な!なんなんだ!?』
『絶対植物の上に「座らない」で下さい!!危険ですから!』
『何があると言うんだね!?』
『虫によっては防護服に穴を空ける力があるものもいるので!』
『……すまなかった。』
おっさんは急にしおらしくなった。
『いえ、私も。すみませんでした。一応お尻のあたり見せて下さい。』
スイはおっさんの尻を調べた。
案の定「付いて」いた。
『なんだ、何かついてるのか?』
『ええ、テントウムシが。』
『テントウムシ?それがなんだ?』
『これはアカダマテントウと言って潰すとすげー甘い匂いがするらしいんです。人間や我々サイボーグには分かりませんけど。その匂いで強い虫を呼び寄せて寄生して暮らす習性があるんです。』
俺はざっくりと説明した。
『ほらきた。』
『ッッ!!!あっ!あっ!あっ!あれはなななな何何なんなんだ!?』
茂みから現れたのは体長3メートル弱のバッタだった。
それが「二足歩行」しているのだから大抵の人は腰を抜かす。
『兵バッタって呼んでます。』
と、スイ。
『追い払え!!!』
『じゃあ俺が。』
兵バッタは甘い匂いの元を目指しておっさんの体に飛びつこうとする。
兵バッタの右脇腹に跳び蹴りを入れる。
兵バッタは「キュイキュイ」と泣き、横倒しになる。
立ち上がると面倒なので畳み掛ける。
俺は右手で兵バッタの右前脚を取り背後に周り左手で触覚を掴む。
俺の両足はがっちりと兵バッタの胴を抑えている。
これがMMAなら右腕を折るかチョークスリーパーに移行して落とすかして終わりの型だ。
『キュキュキュキュキュキュキュキュ!』
『わりいな。一本貰うぜ。』
触覚を一本抜く。
『キー!キー!キー!キー!キー!』
痛がっている。
『ごめんな、こっちも一本貰うわ。』
抑えていた右腕を背後に捻り、もう半回転捻った。
ホグゥッ
と言う音がして、関節を破壊した。
俺は兵バッタを解放する。
『やったのか!?』
『いや─』
兵バッタはヨロヨロと、森に消えていった。
『大丈夫か?』
おっさんが声を掛ける。
『なんも問題ないっす。毎日こうです。』
『君、上背はあまりないのに凄い力だな。』
俺は身長168センチ。スイとはなるべく並びたくない。
『はあ、まあ。これでも体重は150キロあるんすよ。』
『なに!?君は私とそんなに背がかわらんだろう?』
『俺の体は機械の割合が8割なんで。こいつは半分くらいですけど。』
スイを指差す。
『ははぁー…。そうなのか。』
『さっ、いきましょう。』
そこからしばらく歩いた。
20分くらいだろうか。
『カミヲくん。おかしいね。』
スイが小声で話しかけた。
『だな。集まってるな。』
『おい、内緒話はやめてくれ。どうしたんだ?』
『羽虫系の何かに囲まれてます。たまにあるんです。』
『はぁ!?』
おっさんはまた汗が噴き出ている様子だ。
『大丈夫です。さっきみたいにデカくないです。』
スイが答える。
『ほっ…なら─』
『ただ数が、2、30いますね。』
『なんだそりゃあ!?ピンチなのか!?まずいのか!?』
『いや、多分大丈夫です。ただ、数が数なのでカガミさんはカミヲくんと先へ進んで下さい。羽虫は僕が処理します。囲まれると守り切れないので2人は先を進んで下さい。』
『行きましょう。』
俺はおっさんの腕を掴み小走りする。
『おっ、おいおい。』
スイは手を振る。
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