第3話

ゆきが赤ちゃんを産んでその子たちを人間が連れてってっていうのをもう何度も繰り返したころ、もこちゃんがこの家から出ていくことが決まった。もこちゃんはお母さんを引退して新しい飼い主を探してもらうんだって。ゆきのお母さんもお母さんを引退してこの家を出ていったんだってこの時初めて知った。もこちゃんは、いい人に出会えるといいなぁってうきうきしながらゆきと離れ離れになることを寂しがってくれた。もこちゃんとはずっと一緒にいられるんだと思ってたのになぁ。


ゆきちゃん、私たちは人間の言う通りに生きていかないといけないの。もう会うことはないと思うけど元気に生きてね。


もこちゃんはお別れの日、むかし誰かに言われたような気がする言葉を涙目のゆきに言ってくれた。ばいばいもこちゃん。



もこちゃんのお別れしてから、またれおくんと一緒に過ごす日々が始まった。もうふたりとも慣れっこだから気まづい空気は流れない。ゆきのお腹に赤ちゃんがいるとわかったとき、お世話係がこれで最後だからがんばるのよ、って頭を撫でてくれたの。でもこれが最後ってことはゆきももこちゃんやお母さんみたいにここを出ていくんだ…


出産のぴりぴりした感じには何回経験しても慣れない。それに今回は今後のことが気になって気になってものすごく疲れてしまった。

ふと、産まれたばかりの赤ちゃんに見ると一番下の男の子だけやけに弱々しく小さく見えた。この子、こんなに弱っちくて生きていけるのかな。いい人間ばかりでないことはこの家からでたことがないゆきにだってわかる。もしこの子がひどい人間の元に行くことになって、ご飯もろくに与えられず、酷い目に合わされてしまったら、そんなことを疲れきった頭でぐるぐる考えていたら、突然視界が真っ白になってしまった。


気がつくと弱々しくかわいらしいゆきの赤ちゃんが血まみれで目の前にいた。ゆきはお母さんと同じことをしてしまったんだ。この子は生きていけない、死んだ方が幸せなんだって勝手に決めつけてしまった。ごめんなさい、ごめんなさい。ダメなお母さんでごめんなさい。


すぐに赤ちゃんの遺体はなくなりゆきはいつも通り子育てを続けたけれど自責の念がいつまでも心に残っていて眠る前にはいつも赤ちゃんにごめんなさいって謝った。そして、ゆきのお母さんにどうして妹をたべちゃったの?なんて軽率に聞いて傷つけてしまったことも謝りたくて仕方なかった。


最後に生まれた赤ちゃんのうち、1番上の女の子だけこの家に残ることに決まって、ゆきは飼い主さんを探すためにペットショップに行くことになった。もうあしたにはこの家ともお別れみたい。最後にゆきの役目を引き継ぐ娘に言わないといけないことがある。


お母さんね、あしたにはこのお家を出ていくの。人間のためにお前たちを産んだけれども、かわいい子供たちのこと誰ひとり忘れたことなんてないの、あなたにもきっといつかわかる日がくるわ


ゆきがお母さんに言われたことをそのまま娘に伝えた。何を言ってるのかわからないって顔してる娘が愛らしくて、なんだかんだここにいられてよかったのかもしれないとも思えた。お母さんゆきね、お母さんの気持ちが少しだけ分かるくらいには大人になれたよ。

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