第5話 女神は修羅場がお好き

はあ、すっきりした。初日から働き過ぎかと思ったがいい事かと思う。以前の俺なら放課後はやることが無くて、家に帰ってゲームしたり、ゲーセンに入り浸ったり、リア充の靴に画鋲しこむとか陰湿な嫌がらせをしたりとかしてなかった。

生き甲斐や好きなことがある生活というのはいい物だ。今回はあの女神様に感謝だな。

「お、噂をすればアンナから」

この短い着信音はアンナ専用の着信だ。えーと、今回は

『こんばんは、爽。あんた随分と暇そうじゃない。』

暇じゃない。断じて暇じゃない。

『そんなあんたに依頼があるの』

へえ、追加か。まあいいけど。

『このメールの下の方に添付されてる地図、そこが指してる場所へ向かって頂戴』

地図?・・・げ、ここ家から1キロ離れてるじゃん!

『ここの亭主が不倫をしているの。修羅場らせて、別れさせなさい!』

うええ、面倒臭えな。ま、依頼だし、やるけどさ。

その前にメールで一応確認しとくか

『しっかし、なんでこんな事をするんだ?』

よし送信!って返信早!?

『簡単よ!私が修羅場好きなの!』

昼ドラ好きな奴かよ。

『分かった。任せろ。報酬はインビジブルパーカー着てる間声が分からなくなる道具な。』

送信完了。なんか焦ったメッセージが帰ってきた気がするが、見なかった事にして。

さあ、お仕事の時間だ。




「うふふ~、孝弘さ~ん」

「なんだい、美雪」

うわあいい年した男女がイチャついてやがる。気色悪いな。

(えーと、『恋愛年表』によると、ここの亭主たる孝弘さんは10年前に一恵さんと結婚したものの、最近元カノの美雪さんとよりを戻していて、ちょうど一恵さんが出張中ってわけね。)

いやマジで昼ドラじゃん。嘘だろ、こんなに適合する人初めて見たぞ。

(とりあえずは一恵さんを帰って来させないと・・・)

この場合に一番いい能力ちからは・・・

(よし、『運命改変チェンジ・デスティニー』っと)

これで、いけるかな?

「む、大変だよ美雪。一恵が帰ってきてしまう。」

「ええ!?出張中じゃ無かったの!?」

(俺がそれをねじ曲げてんだよ!観念しろ!俺は早く寝たいんだ!)

とにかくさっさと帰って来てくれ一恵さん。あなたが帰ってこないと俺の仕事が終わんないんだ。

「ただいまー」

よし帰って来た!!これで、俺は寝れ

「まずい!!美雪、そこのクローゼットに隠れてくれ!」

嘘だろぉぉぉぉ!!隠れんな馬鹿あああ!!

「お、お帰り一恵」

「ただいま。・・・ねえ何か隠してない?」

ナイス一恵さん!そこだ、そこのクローゼットだ!この残業を終わらせてくれ!

「やだなあ、俺がそんな事する訳ないじゃないか」

やってんだろ。現在進行形で!!

「変ねえ・・・。甘い匂いがするのだけれど・・・」

「ははは、香水だよ。今日ちょっと仕事の都合で香水を付けたから、まだ匂いが残っているんだろう」

孝弘さん、声が震えてる。これはもうバレても仕方ない。

「あらそうなの。なら先に言って頂戴」

一恵さぁぁぁぁぁぁん!!気づけよおおおお!!

(ああ、残業がさらに長引く・・・)

社畜とはこんな感じなのだろうか。とにかく家に帰りたい。

(はあ、どうしようかな・・・。動物がいないから『動物活性化アニマル・アクティベート』は使えないし、自白させるにしてもどう言わせたもんか・・・)

ここで一恵さんがコートをクローゼットに直し・・・ん?クローゼット!?

「あ」

「あら?」

「あっ・・・」

美雪さんと一恵さん、遭遇エンカウント

孝弘さんの顔が見る見るうちに青ざめる。

「ちょっとあなた、どういう事!?」

「あちゃ~、バレちゃいましたか」

「ち、違う!誤解だ!」

あっ(察し)

これ、もう終わったな。



(で、約10分経った訳だが、)

なんで和解してるんだよぉぉ!!

孝弘さんの巧妙な話術と美雪さんのポーカーフェイスで見事騙しきりやがった!!

ええい!!どないせえっちゅうんじゃ!!(似非関西弁)

いきなりの短い着信。アンナ、見てるなら助けろよ・・・

『頼まれてた道具、作ったわ!そこのURLからダウンロードしなさい!』

お、マジか!!

『あとアレ、使いなさい。』

マジか、使用許可が下りたぞ。

それじゃあ、お邪魔します。



速攻でピッキングで鍵を開け、家の中に侵入。この鍵、古いタイプだからすぐ開けれるな。交換をお勧めしよう。

今回追加された道具は「ミュートスピーカー」。なんでも足音や叫び声を全て自然音、要は風の音や猫の鳴き声とかに変えるわけだ。

しかも、孝弘さん、一恵さん、美雪さんは談笑タイムに突入してる。

よし、やるか。

スマホを操作し、横にスライド。これはある意味「最終兵器」。基本的には使ってはいけないが、許可さえ下りればいくらでも。

(う・・・やっぱり重いな、『縁斬之剣エンギリノツルギ』)

一振りの日本刀。この縁斬之剣エンギリノツルギは、二人の間に働く縁を断ち切る。持った時に見える赤い糸が目印だ。

(よっこら、しょ!!)

孝弘さんと一恵さん、美雪さんの間の糸を切る。

「・・・やっぱり許せないわ。離婚ね」

「私とこの人、どっちが大事なんですか!?」

「あ、あうう・・・」

はい、これでこの三人の仲は崩壊した。



『ご苦労様。今日はぐっすり寝なさい』

「はいどーも。ったく、手こずらされたな。」

なかなか面倒な依頼だったな。まあでも、これも仕事の一環か。


ちなみに次の日は寝不足と筋肉痛で酷い目にあった。やっぱり平日の夜更かしは良く無いな!!

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