6月16日 可愛くなくて可愛すぎる、とは
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6月16日
〇穂村と美弥子がうちにきた。特段の用事はなかったらしく、適当におしゃべりをして時間が過ぎていった。
〇今日の出来事のせいで、ゆうがお茶を淹れるたびに観察してしまうようになった。ゆうは「入れるときはちゃんと宣言しますから」などと言っているが、それはそれでどうなんだ。
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日曜日。
穂村と美弥子がうちにやって来ていた。何なんだこの集会は。
美弥子はまだ穂村に慣れないようで、穂村の隣で顔を赤くしてもじもじとしている。
穂村は穂村で、腕を組んであぐらをかいて、どうしてそんなに偉そうなんだと問いたくなるような態度だ。
みんな見事にバラバラな性格だなあ、などと思っていると、一番面白い(おそらく良い意味で)性格をしたゆうが部屋に入ってきた。
お盆に湯飲みを乗せて、そろそろと歩いてくる。
「お待たせしましたー」
そう言って、絨毯に膝をついてお盆をテーブルに乗せた。
「はい、みなさんどうぞ。はい、お姉ちゃんのにはとっておきの私の愛を入れました」
私は手渡されたそれを持って、すぐに立ち上がった。
「ちょっと淹れ直してくる」
すると、ゆうが両手を大きく広げ、大慌てで制止してきた。
「あっ、何もしてませんから! 嘘です、普通のお茶です!」
「本当に?」
ゆうの顔を怪訝に見下ろす。ゆうはわざとらしく顔を俯け、恥じらう素ぶりを見せた。
「えへへ、もちろん愛情はたくさん入れましたよ」
「やかましい」
ゆうの頭に湯飲みの底をコツンとあてる。ゆうは「あう」と声を漏らして、両手で頭をおさえた。
涙目を向けてくるゆうをよそに、私は腰を下ろして湯飲みに口をつけた。
たぶん普通のお茶だ。たぶん。
「もう、お姉ちゃんったら、ほんとに何も入れてませんよ。というか、お姉ちゃんは一体何を想像しているんですか?」
そう言われると、反応に困る。
ゆうならば、おかしなものを何でも投入しそうだし。それはさすがに言いすぎか。
ゆうを気にしつつ、また湯飲みに口をつけて傾けた。その瞬間、
「ゆうちゃんのよだれとかな」
その言葉には合わない、異様に静かな声で言ったのは穂村だった。
思わず、口に含んでいたお茶をうまく飲み込めずにむせてしまった。
両手で口を覆って何度も咳をしていると、ゆうは何故か両手を合わせて瞳を煌めかせていた。
「全然可愛くない咳をするお姉ちゃん、可愛すぎます!」
意味が分からない……。
穂村がお腹を抱えて笑い声をあげる。
「ゆうちゃんは相変わらず限界突破してるなあ」
大笑いする穂村の隣であわあわとしていた美弥子が、そっとティッシュ箱を渡してくれた。
ああ、ここでまともなのは美弥子だけだ、いてくれてありがとう。
心の中でお礼を述べつつ、ティッシュで口をぬぐった。
依然として大笑いする穂村と、鬱陶しいキラキラした目を向けてくるゆうに対して、あてつけに深いため息をついてやった。
「ひどい目にあったわ」
「あれくらいで大げさだろ」
「お姉ちゃんものすごく可愛かったです!」
美弥子が申し訳なさそうに肩をすくめ、上目遣いに私を見る。
美弥子はこの空間における唯一の良心だなあ……はあ。
「で、ゆうちゃん、入れたの? 入れてないの?」
「入れるわけないじゃないですか!」
ゆうが顔を真っ赤に染め上げて穂村に言い返した。よかった、この反応は入れてないな。
すると、顔を赤くしたまま、握りこぶしをつくって、
「もし入れるとしても、ちゃんとお姉ちゃんに認識してもらったうえで飲んでもらいます! でないと意味ないです!」
と言った。
ああ、ゆうはこういう子だったな。
たった数分のうちにどっと疲れた気がする。
というか、本当にどうしてみんな集まったんだろう。
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