5月14日 つまり、相思相愛?
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5月14日
〇生徒会に立候補しないかと先生に勧められた。昨年同様その場で断ったのだが、そばにいた穂村にクスクスと笑われた。それがなんだか気に食わなかったので、先生に穂村を絶賛して推薦したら、穂村は大慌てで拒否していた。
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夜、ベッドの上でゆうと並んで座って、一緒に読書をしていた。
私が自室で本を読んでいるとき、ゆうが私の本棚から適当な書籍を引っ張ってきて、こうして共に本を開くことがよくある。
彼女がどういう気持ちで私の読書に付き合っているのかは知らないが、私はその時間をかなり気に入っている。
そろそろ寝ようかと思った時、私の肩に側頭部を乗せたゆうが悩ましげな声を出した。
「お姉ちゃん、ちょっといいですか?」
深刻そうな声音で話し始めたゆうの手が、おもむろに私の太ももに置かれた。
その時点で何かおかしいと思ったが、蚊を叩く要領でゆうの手の甲をはたいたのは、その白く細い綺麗な手が太ももを撫で始めてからだった。
「痛いですよー」
「くすぐったい、このセクハラ娘め」
「違うんです、本当に真面目に考えてたことがあるんです」
「太ももを撫でることには何の関係もないでしょうが」
ゆうが頭をもたげて、人差し指を立てた。
「いえいえ、実はすっごく深いつながりがあるんですよ」
「しょうもない理由だったらどうしてくれようか、場合によってはお仕置きが必要かもしれない」
自信満々な顔をするゆうを、流し目で湿っぽく睨む。
すると、ゆうは両手を頬にあてて、目を爛々と輝かせた。口の端から変な笑いが漏れている。
「お姉ちゃんからのお仕置きですか?何をしてくださるんですか?」
ああ、この子はもう、いろいろと手遅れかもしれない。
ため息をついてゆうの額をコツンと小突いた。
「それで、考えてたことって何よ」
「はっ、そうでした!……えっと……も、もも……そう、桃太郎のことなんですけど――」
「ストップ。まさか、“もも”太郎だから太ももと関係あります、なんてしょうもないこと言わないよね?」
ゆうが顔をそむけて、目を泳がせる。
きつく結んだ薄桃色の唇がぷるぷると小刻みに震えていた。
「あなた、咄嗟に思いついたことを適当に口にしただけでしょう」
問い詰めながらゆうの柔らかな頬を突っつくと、繰り返し目をしばたたいた。
と、次の瞬間、ゆうの体が私の方へ倒れこんできた。顔を伏せたまま、「ただお姉ちゃんを触りたかっただけなんです」とあっさり白状したのだった。
しかし私としては、彼女にそれ以外の理由がなかったことは最初から分かり切っていたのでどうでもいいのだが。
もはや彼女の過剰なスキンシップに、慣れていないはずもないのだから。
倒れこんできたゆうの体を抱えつつ、背中をぽんぽんと軽く叩く。
「まあそれはもういいとして、桃太郎の続き話してよ」
「えー、お姉ちゃんの言う通りパッと思いついたことなので、しょうもない話しかできないですよ」
「いいよ別に」
「では……桃太郎のお供をした動物って、きび団子ひとつで鬼退治についていったわけじゃないですか。最後に財宝を手に入れるとはいえ、それって命をかける対価としてはすごく安いなあと思いまして」
本当だ、すごくしょうもない。
「そこで私は考えます。もしお姉ちゃんに『何かあげるから私についてきなさい』と言われたら、どんなものでも大喜びでついていってしまう、と」
そこで言葉を切ったかと思うと、倒れたまま突然私の腰に巻き付いて、
「むしろ何もなくても添い遂げたい!お姉ちゃんがそばにいてくれさえすればそれだけで私は!」
力強くそう言い切ったのだった。
悶えるようにじたばとした後、ピタリと動きを止めた。ゆうが仰向けになって、私の脚を枕にして顔を見上げてきた。
とろんとして熱っぽい視線が、ゆうをどこか妖艶にみせた。
「私の方からお願いしたいんです。お姉ちゃんがいてくれさえすれば幸せなんです。お姉ちゃんに求めるものはお姉ちゃんだけですから、それ以外は何もいりません。だからずっとお姉ちゃんと一緒にいさせてください、と」
ゆうの頬に手を添えて親指でそっと撫でると、くすぐったそうにして目を瞑った。
「それ、全部ゆうの得じゃないの、迷惑なお供もあったものだね」
小声で呟くと、ゆうは「んふふー」と口元を緩めた。
「でもでも、お姉ちゃんがどうしても何かくれるんだとしたらですねー……お姉ちゃんの髪の毛一本くらいでも何でも言うこと聞いちゃいますよ」
そう言って、手のひらを差し向けてきた。手首をつかんで無理やり引き下ろす。
「あげるからそれ以上近寄らないでください、って言おうかしら」
ゆうの前髪をあげて、露わになった額を指の腹でペチンと叩いた。
「あう」と声を漏らした後、ゆうはだらしなく顔をほころばせた。
「ゆう、だいぶ眠気きてるでしょう」
私の問いかけに、目を瞑ってコクコクと頷いた。
二冊の本を傍らに置き、リモコンで電気を消した。
私もベッドに横になると、薄暗闇の中でゆうが私の肩に額を寄せてきた。
「私、お姉ちゃんの愛がほしいです。くださいな」
毛布をかけようとした時、不意にそんなことを言われて、思わず笑いがこぼれた。
「もう結構あげてると思うんだけどなあ」
「えへへ、そうだったかもしれないです」
「そうでしょう」
「でしたら……私は、欲張りさんなので……私だけがいいな……」
ふにゃふにゃした声が、どんどん尻すぼみになっていく。眠りはすぐそこまできているらしい。
「そうねえ」
「私は……お姉ちゃんのものですか?」
ゆうの手に、服の袖をきゅっと掴まれた。
「どうかなあ」
「お姉ちゃんへの愛は、無限にあるので……」
「はいはい、ありがとう」
「だから……ずっと一緒にいてくれなきゃ、おこって、なきます……」
「おやまあ」
すぐに、耳元で寝息が聞こえ始めた。
顔を横に向けると、まだ随分と幼さの残るゆうの寝顔があった。
まったく、寝こけながらそんなことを言われたって……。
「泣かれるのは困りものだなあ」
自分でもどう処理をすればいいのかよくわからない感情を覚えつつ、眠気がやってくるまでゆうの寝顔を見つめていた。
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