5月2日 秘密
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5月2日
〇ゆうがうちに来て一か月が経ったらしい。早いような遅いような。
〇私を知っていたわけをゆうは何故か話してくれなかった。明日からゆうの実家にお邪魔するが、何かわかるだろうか。
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「お姉ちゃんに問題です、今日は何の日でしょうか?」
朝食をとっていると、唐突に彼女が問題を出してきた。
しかし問題はそこではなく、答えがさっぱり分からないことである。
分からないことがなぜ問題なのかというと、彼女の無邪気に餌を待つ子犬のような表情もあわさって、下手な回答が許されない緊張感があるからだ。
いい加減な回答をすれば、彼女は頬を膨らませて瞳を潤ませることだろう。
私はそれにめっぽう弱いのだ。
五月二日は祝日でもないし、誰か知り合いの誕生日というわけでもない。
ではいったい何の日だというのか。
彼女がこんなにも物欲しそうな顔をして、わざわざ回りくどく質問をしてきているのだ。であれば、少なくとも彼女か私か、もしくは二人ともに関係のあることで……。
そこまで考えて、私は思わず、ああ、とひらめきと同時に声を漏らしていた。
「ゆうと初めて会ってからもう一か月か」
早いようにも感じるし、まだそれだけしか経っていないのかと拍子抜けする感情もある。
それだけ彼女との毎日が色濃かったということなのだろう。
彼女はパッと表情を明るくして、両手を合わせた。
「大正解です!ひと月前のあの日、私はお姉ちゃんにようやくお会いすることができて、夢のような思いを抱いていました。それから今日までずっと夢が続いているようです」
うっとりとどこか遠い目をして、両手で上気した頬を包み込んでそう言った。
「大げさな」
「大げさなんかじゃないです。お姉ちゃんと一緒にいると、ふわふわして地面に足がついていないような気持ちになるんです。まるで……」
そこで一旦言葉を切り、彼女が握りこぶしを作って力強く頷いた。
「そう、お姉ちゃん成分を摂取しすぎてお姉ちゃん中毒なんです!」
どうしてそういう表現になってしまったのか……。
しかし彼女の中では、これが冗談でもなんでもないから恐ろしい。
もはや慣れたが、彼女の私への愛はどれだけ深いところまで根っこを伸ばしているのか、甚だ疑問に思うところだ。
「なんか危ない気がするから、これからは少し距離を置こうか」
呆れ気味にそう言うと、彼女は目を見開いてあからさまに焦りをみせた。
「おおおお姉ちゃんがいないと体が震えて……」
何とも言えない表情を浮かべて、両手で自らを抱き締めながらか細く呟いた。そんな彼女に、私は思わず笑ってしまった。
しかし次の瞬間、彼女はハッとして顔を紅潮させた。
「なんだかさっきのお姉ちゃんの台詞、恋人同士みたいでしたね」
絶望したり顔を赤らめたり、忙しい子だ。
しかしあれだ、この丁度いい機会に、気になっていたことを訊いてもいいかもしれない。
そう思って、依然だらしなく頬をゆるめている彼女を見つめると、彼女は目をぱちくりとさせて首をかしげた。
「どうしたんですか?」
「あのさ、ゆうってどうしてここに来たの?」
「お姉ちゃんに会いたかったからですけど」
他に理由などあるはずもない、とでも言わんばかりに、彼女がきょとんとする。
私が馬鹿な質問をしたみたいになっているのは何故だ、腑に落ちない。
「私に会いたいって、それ以前に私のこと知ってたの?顔を合わせたことなんてなかったでしょう」
すると、彼女は気恥ずかしそうに顔を俯けた。
「それは……色々あって……秘密です。ただ、ずっとお姉ちゃんのことは見てましたから」
「なにそれ怖い」
彼女が頬を掻いて「えへへ」と笑う。
いや、えへへ、と可愛く言われても困るのだが……これ以上は話してくれないつもりなのだろうか。
あまり踏み込みすぎるのもよくない気はするが、なにぶん思いっきり私に関係することなのだから話してほしい気持ちもある。
彼女の照れ臭そうにもじもじとしている反応を訝しく見ていても、何かを察しろという方が無理な話だ。
思えば、初めて会った時の彼女の言動は、私のことを前々からよく知っていたからこそのものだったのだろうか。
頭の中だけでぐずぐずと考えても、彼女のいまいち捉えどころのないテレテレした表情の意味を解くことは困難に思えるのだった。
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