1時間目 4
黒板に書いてあった『復讐』がもし村上栄の事だとしたら、今回の事件の犯人は彼の遺族や友人等による物なのだろうか?
遺族はともかく、村上栄に友人がいたかどうかは大塚たちは知らない。彼はいつも1人だった。
一応、他の教室も調べてみる事にした。3-Aの隣の3-Bの教室の戸は普通に開閉出来たし、窓だって同様だ。もっとも例によってそこからの脱出は考えない方がいいと思った。
2つ、3つと教室を確認していったが、どうやら多分ああも閉め切られているのは3-Aの教室だけの様だ。
時計を確認してみると、0時45分。あと少しで最初の1時間が経過しようとしている。
「大塚。俺トイレ行きてえんだけど」と、そこで杉田が言った。
「え?ああ…」
トイレか。一応自分もついて行こうか。トイレの窓からの脱出も多分無理だと思うが、と大塚は杉田と共に廊下に出て近くにある男子トイレに入った。
杉田は大だったのか個室に入った。
大塚には便意は無かったが、一応窓を開けて外を見てみた。やっぱり駄目だ。出られそうにない。大体トイレの窓は教室の窓よりずっと狭い。
大塚はふと物思いに耽った。今頃家では家族が自分が消えている事に気付いて慌てているのだろうか?それともそんな事は梅雨知らず眠っているのだろうか?
もし脱出出来たら、すぐに警察に知らせよう。既に2人も死んでいるんだ。
そう言えば、村上栄を自殺に追い込んだ高坂たちは全員退学になって数年間少年院に入れられたんだった。今の高坂の様子からすると、さほど目立った更生はしていない様だが。しかしかつての高坂はよく笑いながら悪さをしている奴だったが、今夜久々に会ってからは全く笑っていない。むしろ非常にイライラしてる感じだった。まあこんな状況じゃ誰も笑う奴などいないだろうが。
「……」
ふと大塚は気付いた。
個室に入ってから既に1分以上が経過しているが杉田がまだ出て来ない。
その時、彼の鼻が感じ取ったのは……
鉄の臭い
「!」
はっと気づいた。
個室の前の床に水溜まりが出来ている。
いや、暗くて色までは分からないがこれは水じゃない。
血だ。
「杉田?……杉田!」
大塚が声を上げた。裸足で血溜まりにぱしゃぱしゃと足を入れ個室のドアをドンドン叩く。
するとしばらくしてから中から錠が外されドアが内側にゆっくりと開いた。
そこにいたのは杉田。
だけじゃなかった。
「入ってま~す」
40歳位の男がそう答えながらこっちを見た。
その手には裁縫で使う裁ちばさみがあり、布でも切るかの様に杉田の肉体を切り刻んでいた。全身真っ赤に染まった杉田は最初に首を切られた様で、既に事切れていた。
「あ…ああ……」
あまりの光景に大塚は悲鳴も出なかった。
その男の名は檜山。10人を裁ちばさみで切り刻んで殺害しバラバラにした遺体をトイレに流してきた指名手配犯だった。
本当に殺人犯が校内にいた。
さっきまで一緒にいた元クラスメイトが目の前で無残に殺された。
「悪いけど、ここは使用中だから他所へ行ってくれよ。大丈夫。後で君にも同じ事してあげるから」
檜山はそんな事を平然と笑顔で言った。そしてまた作業に戻った。
気が付いたら大塚はトイレから飛び出して廊下に赤い足跡を付けながら全速力で走っていた。
必死だった為、自分が一体どこを走ってるのか分からなかった。
今まで感じた事の無い大きな恐怖が彼を苛んでいた。
故に彼は目の前に人がいるのが見えても止まったりよけるという事に頭が回らなかった。
彼は目の前に立っていた女にぶつかって尻もちをついた。硬い廊下の床から鈍い痛みがが伝わった。
ぶつかられた彼女も倒れたが、ぶつかられた事に怒ってはこなかった。
彼女は泣いていた。その目は大塚ではなく違う方向を見ていた。
その視線の先を見てみると…
女が2人死んでいた。全身を自らの血で赤黒く染めて。
その隣に立っている背の高い男が両手に持っている物は、金槌と木工やすり。両方べっとりと血が付いている。
男の名は神崎。
7人を金槌で殴ってはやすりで肌を削って殺害してきた指名手配犯だった。
「……」神崎は無言でこっちを見てきた。
逃げなきゃ。動け、足。そう思ったがなかなか体が素早く動いてはくれない。
神崎はすぐに死んだ2人の女に顔を戻して、まるで木工品をまだ磨き足りないと言わんばかりに頭を、耳を、首をやすりがけ出した。
大塚は涙を流して呆然としている女の手首を掴んで逃げろと小声で言い全身に力を込めて思い切り立ち上がりそのまま駆け出した。女を引きづる様に。
23-3=20(男12人 女8人)
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