何度でも君に恋をする

千歳飴

第1話

──昔、本当に気が遠くなるほど昔の話だ。

私には仲の良かった少女がいた。

黒い髪が美しい優しい優しい少女だった。


彼女は忌み子、と言われていた。

生まれて直ぐに親族が次々と死んでいき

それを彼女のせいだとされ迫害されていた。

幼い彼女がいじめられて泣いている時に

同じく幼く能天気な私は近付き仲良くなったのだ。

声をかけると顔を上げて、

「私と遊んでくれるの?」

とぱぁっと泣きながら笑った。

恋に落ちたのだ、彼女のその笑顔に。

それから人の目を盗んで会いに行った。

彼女は私が会いに来ると、

「私に会いに来ちゃダメだって言ったでしょう

貴女まで色々言われるわ」

と決まって言った。

私はやはり能天気に

「なんでー?

君が好きだから君に会いに来るの

迷惑かなぁ?」

とか言っていた。

彼女はそれを聞くと少し困ったように、

でも、少し嬉しそうに笑うのだ。

一緒に森で遊んだり私が本を持ち込んだりもした。

そんなささやかで幸せな生活が続いた。

ある日いつもの様に遊びに行くと

彼女は泣きはらした顔で私を迎えた。

その時私たちは15歳だった

慌ててわけを聞くと、

彼女は生贄として捧げられるのだと呟いた。

泣きながら彼女はぽつぽつと経緯を話した。

そんな彼女の体を抱きしめながら聞いた。

「昨日、村の人が来て私に言ったの、

雨が降らずに作物ができないのは私のせいだって。

それを償うために生け贄になれって....。

なんで...私何も悪いことをしていないのに....。

村の人はなんで私をここまで嫌うの!!

私は、私は!!!!

ただ、普通に過ごしたいだけなのに...!」

彼女は泣きながら痛々しく叫んだ。

私はいてもたってもいられなくなって

気づいた時には薄くかたちのいい唇に口付けをしていた。

彼女はびっくりしたように目を見開いた。

「な、なんで」

「逃げよう!

私も一緒に逃げるから、

2人でこの村を出て遠くに行こう」

私がそう言うと彼女はますます目を丸めて、

でも直ぐに泣きながら笑った。

「うん、うん...!逃げよう」

私はそのまま彼女の手を握ってもう一度抱きしめた。

夜になり私はいつも通り家で過ごした。

母や父の声がこだまする家。

私が彼女に出会った時に彼女と遊ぶと言うと顔を顰めて怒鳴りつけた両親の声が、

私の心を真っ黒く塗りつぶしていく。

きっと彼女が贄として捧げられることも

両親は知っているのだろう。

...何故こんなにも普通にしていられるのだろうか。

いつもより早く寝ると告げ、自分の部屋に入る。

両親の顔は見ることが出来なかった。

夜中両親が寝静まったことを確認し家の食料を少しだけ拝借して逃亡の準備を整えそのまま家を出た。

彼女の家に行くと彼女は緊張した面持ちで座っていた。

周りを確認し声を潜めて、

「さ、逃げよう」

と言うと彼女は言った。

「本当にいいの?

家族に会えなくなっちゃうよ。

ほかの友達だって、村の人にも会えなくなっちゃう。

もし見つかったら、貴女だって殺されるかもしれない....」

私を巻き込むと考えているのだろう

顔は恐怖を浮かべ、体は震えていた。

そんな彼女の体を抱きしめると、

「いいよ、君がいれば

私、君のことが1番大好きだから。

ほかの友達も君と仲良くできないんだもん。

そんな友達も、家族だっていらないよ1人も」

と彼女の耳に囁いた。

彼女は私の背中に腕を恐る恐る回すと、

「ありがとう、ごめん、ごめんね」

とまた泣いた。

彼女の暖かい涙を優しく拭うと

その何倍も優しくキスをした。

唇を離すと2人で家を出た。

村の人は絶対に近寄らない森の中を通った。

彼女は迫害され続け、村にいるより

森にいる方が長かったので森を知り尽くしていた。

森を抜けると長ーい間歩き続けた、

足は痛いしお腹はすくし、なかなかに辛かったが、彼女と励まし合いながらひたすら歩いた。

夜になると林に身を隠しながら眠る。

彼女は眠る前に決まって小さな声で私に

「ごめんね、巻き込んで」

と謝り続けた。

その度に抱きしめてキスをした。

「逃げようって言ったのは私だよ

だから謝らないで」

と言うと彼女はほっとしたようにコトンと眠るのだ。

そんな生活が10日も過ぎたよく晴れた日だった。

少し休憩をしてる時に追手に見つかってしまった。

私は彼女の手をとって逃げ出した。

怒号と共に後ろから足音が沢山追いかけてきた。

めいっぱい逃げた後に私たちは顔を見合わせると頷き近くの林に飛び込んだ。

村の人達は一瞬怯みそれでも追いかけてきた。

林を抜けるとそこは大きな崖だった。

私たちは足を止め振り返る。

村の男の人が

「お前達の逃げ場はないぞ。

早くこちらに来るんだ。

お前は生贄の脱走の手伝いをしたが、

まぁいい、咎めはなしにしてやろう」

と下品に笑いながら私たちに近づいてきた。

村の人もニヤニヤといやらしく笑っている。

──その中には私の知ってる人も、

親族だっていた。

私たちは崖に体を向けると、手を握り合い崖に近づいた。

止めようとする村人達を無視して彼女の顔だけを見つめる。

そのまま彼女の手に口付けをして、

「来世は幸せになろうね」

と言った。

彼女は優しく優しく微笑んで

「うん、絶対よ。

来世でもそのまた来世でも絶対私を見つけてね。

私も貴女を探すから」

と言って一筋涙を落とした

そして2人で1歩踏み出して

崖から飛び下りた────


ぱちり。

目を開けると外が明るい。

懐かしい夢を見た。

隣に感じるあたたかい温もり、恋焦がれた彼女が今隣で寝ている。

あの時のような林じゃなくて、誰にも邪魔されない私の家でだ。

今世でも彼女と出会いそして晴れて恋人同士になれた。

(何度も何度も生まれ変わってきたなかで

いつもいつも人生の中にこの子がいたし

いつでも結ばれてきたけれど

でもこんなことは初めてだなぁ)

そう思いながら彼女の頭を撫でる。

彼女は薄く目を開けるとふにゃりと笑って、

「おはよお」

と気の抜けた声を出したあとにまた眠ってしまった。

愛おしくて額にキスを落とすと、

「好きだよ」

と声をかけた。


(好きだよ、ずっとずっと、なんど巡っても

たとえ君に記憶が無いとしても、ね)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

何度でも君に恋をする 千歳飴 @chitoseame_zyaga

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ