Ⅵ
クラスメートと同じ手順で同学年まではプレゼントを聞き出せた。なんだかんだいっても、各クラスに知り合いの三人や四人はいるんだから、そこから口利きしてもらえばいいと割り切れればあとは早かった。問題は聞き出す相手が他学年に及んだ時だ。そりゃもう、骨が折れたよ。年上相手には委縮しそうだからってことで、安易に一番下の学年から慣らしていこうっていうのが間違いだったかもしれない。この学年ともなると幼稚園から出て半年が過ぎた程度というのもあって、聡い子とあまり頭があまり回っていない子の両方がいる。前者であれば比較的はきはきと質問に答えてくれたりもするが、後者はそもそもちゃんとした会話をこなすのが困難な子もいた。言語能力や物心の付き方にも問題があるんだろうな。それでも、休み時間に低学年の教室に行って根気良く聞き出してみようとしたんだ。頭の良く回る子供達は自由研究だという表向きの説明をすると予想通りすぐに察してくれたが、ぼんやりとしている物心が付いているか付いていないのか曖昧な子供達は、一から十までゆっくりと説明しても、なかなかちゃんとした答えを返してはくれなかった。もちろん、俺の説明があまり上手くなかったのもあるのかもしれない。正直、途方に暮れたよ。そこで思い付いたのが、サンタさんから何をもらいたい、という質問から、もっと単純に、今欲しいものは、という簡潔な言い回しだった。こういう質問の形態にすれば、なにか言ってくれるだろう。その目論みは見事に的中して、ぽつりぽつりと語ってくれるようになった。プラスチックのロボットの人形や戦隊物の変身ベルト、魔法のステッキや小さな指輪、なんてものを聞き出すことができるようになり、ほとんどの一年生からプレゼントを聞き出せた。その一つ上と二つ上からもほぼ同じ手順で聞き出すことによって、効率良く後輩達の欲しいものをメモすることができた。まあ、中には生意気にも意地でも喋らないなんてのたまっていた子供いた。こちらの言っていることをしっかりと理解しつつも、なぜ答えなきゃいけないのか、などと融通の利かない態度を示して、口を閉ざしたりした。こんなこともある程度予想をしていたが、目標に対する障害であるのは変わりがない。だから、俺は根気良く話を聞きつつも、いざ、ダメだとなると教師に頼ったね。クラスメート達に説明した自由研究を口にすれば、割と素直に協力してくれた。それこそちょっと年上の知らない顔よりも、遙かに年上ではあるものの、常に面倒を見てくれる人の台詞というのは効果抜群のようで、ある子供はぺらぺらと、またある子供は渋々といった体で話をしてくれたんだ。そうやって教師が聞いてくれた情報をしっかりと書きこむことができて、なんとか、欲しいもののリストを埋めることができたんだ。
後輩が終わればいよいよ後回しにしていた一つ上と二つ上の先輩たちからの聞き取り調査だった。これは予想通りの根気がいる作業だった。多くの温厚な年上の生徒達は、丁寧に答えてくれたよ。だが、頑固な人間は年期を積んだら更に頑固になっていたりすることもあって、低学年の口を割らなかった後輩達とはまた別の苦労があった。両者とも意地を張っているという点ではそれほど差はなかったが、後輩達の意地がいきなりやってきた知らない上級生の自由になるのは面白くない、という単純極まりない発想から来ているのに対して、先輩達の意地というのはもう幾分か入り組んでいた。なぜ、年下の言うことを無条件で聞かなければならないのか、という考えに加えて、人によってはそんな時期から自由研究をするという行為が気取りに見えることもあるらしかった。更に、下の学年よりもサンタクロースの存在を信じていない人間も多く見受けられた。黒子さんには前もって、両親からプレゼントをもらうと考えている子供からは聞かなくていいと言われてはいたものの、俺はそこに小さくない寂しさを感じたね。こういう考えをするようになったのは本物のサンタクロースがいるのを見ているから、というのもあるんだろうな。これもまた、先生の力を借りるべきかとも考えたが、下の学年とは違い多くの人間の頭が回るようになっているのもあって、聞き手であるこちらに、面白くないという感情を抱くだけに留まらず、なんらかの形の報復があるかもしれない、と思った。だから、俺は根気良く向かい合うことにした。粘り強い交渉に加えて、質問をした人物の言うことを聞いたりした。買い物や掃除を代わりにこなしたり、時には先輩達の外遊びに付き合って身体がボロボロになったこともあったな。それでも、やると決めていたのもあって、苦しさや疲れはそれほど感じなかった。きっと、目的がはっきりしていたせいだろうな。それに後輩達と違って話自体が通じないという事態が起こらなかったのも大きい。こうして、身体の筋肉が張ったり、眠りが深くなったりはしたものの、俺は自分の小学校の子供達からプレゼントを聞き出すことに成功した。
俺がうちの小学校の子供達が欲しい物を記したメモを持っていくと、黒子さんはいつも通り、ありがとう、と感謝を述べながら、自分の手元にある作業に戻っていった。暗い部屋の中に目が慣れてくると、後ろにはプレゼントの山ができあがっているのが見えた。かなり早いペースで仕上げているらしく、無秩序に積まれた大小の箱の山は、その背をかなり高くしていた。一つ一つのプレゼントを仕上げるごとに律儀に包装をしているらしかったが、まだ、うちの学校の人間の全てを伝えたわけではないので、まだ、これでも途中だといえた。しかし、この段階でこの量だというのを考えれば、いずれは部屋が埋まってしまうんじゃないだろうか。そんな危機感を持って、彼女に聞いてみると、しれっとした様子で、大丈夫大丈夫、毎年この小屋で十分に足りるから、なんて気楽に答えてみせた。その時は疑っていたけど、後々もたしかにプレゼントは増えているはずなのに、不思議と部屋が手狭になった気がしなかった。どういう原理かはよくわからない。ただ単に彼女が片付け上手だったという可能性も捨てきれないし、あの小屋自体が外観や内部の見立ての広さよりも遙かに広い不思議空間だったかもしれない。ただ、黒子さんは自分で決めたと思しき休憩時間に煙草を吹かしながら、こんな風に説明していたな。
深い理由なんて考えたら負けだよ。それこそ、サンタクロースがなんでいるか、っていう問いかけと同じようなものだしね。
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