九節 緋色の閃光
様々な色に変化するダイヤモンド・ダストのような見た目である。
「あがぁあっ!」
ボルドウ輸送警備小隊の生き残り五名が同時に叫んだ。
「ぅおっ!」
ツクシは脳を裂くような頭痛に襲われた。
「うぐがぁっ!」
ゴロウが野獣のように吼えた。
「ぎゃっ!」
ヤマダが身を丸めた。
「
頭を抱えたニーナが両膝をついた。
「ヌウッ!」
顔を歪めたリカルドは片膝をついた。
「――ウジュ、ジュルル、何度やっても同じだ!」
屍鬼の魔導師が怒鳴った。
「この錫杖は生者に術がかからん。作った屍鬼の意識も再生できん。おのれ、イデアめ、この道具はやはり不完全。あの狡猾な骸の女め。この俺を騙したな――ああ、ぼくは騙された。あの悪い女王に、あの悪い骸の女王に騙されたんだ――いや、少なくともこれで俺の兵隊は増えた。この手勢であの小うるさいドブねずみどもを皆殺しだ。そのあとであの忌々しいイデア・エレシュキガルに必ず吠え面をかかせてやる。俺は天才だ、時間さえあれば必ず骸の女王を超えられる、俺は
狂気の絶叫を合図に屍鬼の群れが進撃を始めた。
頭痛から回復したツクシは目を見開いた。
ツクシは死者を見上げていた。
チムールとヤーコフが屍鬼となって立ち上がりツクシを見下ろしている。
ゴロウもヤマダも言葉を失った。
ボルドウ輸送警備小隊の生き残りが、
「あひっ、撃ったのは謝る謝るから、こっちへ来ないで!」
その声に反応したのか、他にも理由があったのか、それはわからない。
チムールとヤーコフの光を失った目は魔導の沼を這っていた予備役兵へ向いた。
「は、発砲を命令をしたのは、あいつだ、あの豚だ。グレゴール・ボルドウだ、襲うならあいつを襲ってくれ!」
死者に懇願するその予備役兵は馬のような顔つきだった。それが大口を上げて叫ぶから顔が余計に長く見える。チムールだった屍鬼とヤーコフだった屍鬼が馬面に飛びかかった。押し倒された兵士の腰がガクンガクン跳ね上がる。馬面はそこで食い殺されているらしい。魔導の沼のなかで起こっていることだから断末魔の声は聞こえない。
ツクシは冷めた気分でその様子を眺めていた。
表情を見る限り、ゴロウとヤマダも似たようなものだ。
「あの豚野郎、上がり階段へ逃げたぞ!」
「ハンス副隊長! 俺たちを助けてくれ、見捨てないでくれえ!」
叫んだ生き残りの予備役兵二名は元同僚の死体に襲われていた。サーベルで抵抗しているが、元予備役兵の屍鬼は鉄カブトを頭に乗せている。サーベルで頭蓋のなかにある屍鬼の結晶を砕くのは難しい。階段前広場で斧槍を片手にハンスがうなだれていた。その肩の後ろで逃げるボルドウ小隊長の尻が見える。
「ひっ、
「助けて、神様、助けてっ、たすけ、ああっやめ――」
震えて祈りを捧げていた兵士の二人へ屍鬼が群がった。
自ら手を下す必要無しと判断したのだろうか。
屍鬼の魔導師は黒い霧を押し広げながらその場に浮遊しているが、屍鬼の群れはツクシたちの目の前にまで迫っている。
「――とうとう来たか」
ツクシの右手が腰の刀の柄へ伸びた。
「チムール、ヤーコフ、悪趣味すぎるぜ、おめェらよォ――」
ゴロウが鉄の錫杖を構えて腰を落とした。馬のような顔の予備役兵を絶命させて、チムールとヤーコフだった屍鬼がゆらりと身を起こした。
両方ともその顔が鮮血で濡れている。
「僕が矢をちゃんと当てていれば――」
ヤマダが足元に転がっていた十字槍を拾い上げた。
「みんな、私たちがそこへすぐ行く、行くから!」
ニーナは何とか先へ進もうと頑張っている。しかし、すぐバランスを崩して膝をついてしまう。屍鬼の魔導師が展開する魔導の沼は強い効力をまだ発揮していた。
「死して尚、安らぎを与えられぬとは、
リカルドが天を仰いで神を呪った瞬間だった。
「――辺境伯、その役割は僕が預かりましょう」
背後で声だ。声の主は魔導の沼地を平然と歩いてきた。その足元から金色に煌く導式陣が展開されている。声の主の胸元に下がった導式具がその足元にある導式陣と共鳴しているのが、リカルドの瞳に映った。
「な、何とそなたは!」
「えっ、えっ、えぇえっ!」
リカルドがニーナが素っ頓狂な声を上げた。
父娘ともに目が皿のようになっている。
その大声に気づいて後ろに目を向けたゴロウが、
「き、奇跡だ、奇跡が起こったぜェ!」
「あの赤いコートの男はネストへ入る前に見たな――」
ツクシが眉根を寄せた。
「み、三ツ首鷲の騎士がどうしてここに!」
飛び上って驚いたヤマダが十字槍を取り落とした。
三ツ首鷲の騎士は頭に緋色の鍔広帽子を乗せて、華麗な意匠を凝らした赤茶色の革鎧を身に着けていた。その上に緋色の王国陸軍外套を羽織って、足元は白銀の拍車のついた乗馬ブーツだ。腰の剣帯に金色のバックルがついていた。そのバックルに三つの首を持つ鷲の紋章が刻まれている。
緋色の騎士は腰から刃を引き抜いた。
これもまた豪奢である。
翼を模した鍔がついた金の柄に青く輝く刀身の刺突剣。
半身の構えを取った緋色の騎士は刺突剣を水平に突き出して、
「導式陣・
緋色の騎士の全面に真紅に輝く導式陣が形成された。
緋色の騎士が刺突剣で導式陣を突くと、その剣先が奇跡の力で緋色の閃光へ変わる。チムールだった屍鬼とヤーコフだった屍鬼の頭部を緋色の閃光が貫いた。チムールとヤーコフはそこでようやく安らぎを得て、魂が失われた肉体を地面へ横たえた。
緋色の騎士は宙を斬る音を鳴らして刺突剣を振るい続ける。
緋色の閃光が大坑道に群れた屍鬼を蹂躙し始めた。
これに当たるとたぶん即死である。
赤い閃光がビュンビュンと飛ぶ真っ只中で突っ立っていたツクシが、
「おい、ゴロウ。これは動かないほうがいいよな?」
ツクシは後方からくる射線の邪魔にならないよう壁を眺めていた。ツクシに迫った予備役兵の屍鬼が緋色の閃光に頭をブチ抜かれて崩れ落ちた。かぶっている鉄カブトにコイン大の穴が開いている。背後から狙撃銃を連射されているような体験だ。
そのツクシと向かい合わせになって突っ立っていたゴロウが、
「ああよォ、ツクシ。騎士様の手元が狂わないように祈っとけ。いや、冗談じゃあねえぞォ、マジでよォ――」
顔を強張らせたゴロウの胸元を緋色の閃光が掠めた。その閃光は大坑道の奥から走ってきた屍鬼の額へ風穴を開けた。ゴロウは指一本動かさなかった。今ちょっとでも動いたら確実に死ぬような気がする。
「しゅごい、しゅごい、これが、タラリオン王国軍最強の局地戦闘力っすよ!」
ヤマダは頬赤らめ眼鏡を曇らせ右の拳を突き上げた。
「ヤマさんは随分と根性が据わっているな――」
呻いたツクシの鼻先を緋色の閃光が掠めた。
「ヤマ、興奮するのはいいがなァ。その場から動くなよ、死ぬぞ、本当に死ぬぞォ――」
ゴロウの顎の先を緋色の閃光が掠めて赤髭が宙に舞った。
「ウィリアム・テルの息子になった気分だぜ――」
ツクシの顔が完全に引きつっていた。身を屈めることを躊躇うほど緋色の弾幕が濃いのだ。ニーナは赤い弾幕を作る緋色の騎士の横で顔を真っ青にしていた。リカルドは「ウム、見事、見事な導式剣術よなあ――」としきりに頷いて感心をしている。緋色の騎士が刺突剣の先を地面へ向けると緋色の閃光は消えた。大坑道に群れていた屍鬼はすべて活動を止めている。
「あ、足が軽くなったっすよ。魔導の沼、消えたのかな?」
ヤマダがその場で足踏みをした。
「あの紫ローブの屍鬼もやられたか?」
ツクシが大坑道に視線を巡らせた。死屍累々である。地面は元屍鬼だったものの死体で埋め尽くされていた。その死体に囲まれてボルドウ輸送警備小隊の生きのこり二名がぽかんと突っ立っている。自分が生きているのが信じられない、そんな顔だった。胸が悪くなるような死臭が鼻をつくが、それでもツクシは深呼吸をした。
「まァ、あの杖を持った野郎がこれで無事とはとても思えねえよなァ――」
ゴロウが太い眉から落ちる汗の玉を親指で弾き飛ばした。
「――どうも、怖い思いをさせてすいませんね」
そんな挨拶をしながら緋色の騎士が歩み寄ってきた。
ツクシも、ゴロウも、ヤマダも緋色の騎士を見つめた。
赤い鍔広帽子の下にある顔はまだ若い。茶色い瞳の目は細く掘りの浅いさっぱりとした顔つきだった。黒い眉尻が下がっていて地で困ったような顔でもある。
一見すると、緋色の騎士は気のよさそうなお兄ちゃん風の青年だ。
「お陰で助かったが、もう死ぬとも思ったぜ。あんたは無茶苦茶な野郎だな?」
ツクシは恨みがましい口調で感謝した。
「お、おおっ、しゅごい装備だ、首元も手首も導式具だらけっす。剣も革鎧も全部しゅごい。導式革鎧なんて僕は初めて見ました。しゅごい、これはしゅごいっす――」
ヤマダは鼻息も荒く緋色の騎士の武装装飾を観察している。
「おめェらよォ、そんなに馴れ馴れしくするなよな。このお方は騎士様だぞ。王国軍の司令官とかをやっている、すごく偉いお方なんだぞォ――」
背を丸めたゴロウは困り顔だ。
「ああ、いえいえ、いいんですよ。実際、僕はタラリオン王国陸軍第一軍集団長補佐なんですよ。補佐ですからね。やっている仕事は使いっ走りと変わりません。うちの騎士団長は若いひとの使い方が荒くて荒くてね。何度、戦場と王都を往復すればいいのか――」
緋色の騎士が笑った。
タラリオンの軍はこんな頼りない若造が司令官なのか――。
ツクシは緋色の騎士の顔をじっと見つめた。若者の目の下が紫色になっている。寝不足のようである。
見た感じ、そこらのお兄ちゃんと何も変わらんが――。
ツクシが首を捻ったところで、「ツクシ!」と駆け寄ってきたニーナがガシャンと抱きついた。ツクシの全身の筋骨が悲鳴を上げる。
これが導式鎧のパワーである。
「ぐぁあっ! ニ、ニーナ、俺を殺す気か!」
ツクシが叫んだ。ニーナは流線型の兜の面当てを上げて美貌を見せているのだが、しかし、その鎧は屍鬼の返り血や返り肉を浴びてどろどろだ。この若い美人の熱烈な抱擁は身体が痛いし血生臭い。ゴロウとヤマダと緋色の騎士が顔を強張らせて、ツクシに抱きついたニーナを見つめている。
その視線に気づいたニーナは、はっと頬を赤らめて、ツクシから離れつつ、
「――あっ、ごめん、ごめんね、ツクシ――みんなは大丈夫?」
視線を落としたニーナは乙女が恥じらう様子を見せた。
クソ、本当にすっトボけた女だ。
この革鎧を着ていなかったら全身の骨が粉砕されていたかも知れん――。
自分の胸元にべっとりとついた体毛が混じる腐った肉片を眺めながら、ツクシは顔面を痙攣させている。
「皆が無事とはいかなんだが――生き残った者がいるだけでも良しとすべきか。感謝をするぞ、三ツ首鷲の騎士よ」
遅れて歩いてきたリカルドがいった。
「ああ、いえいえ、アウフシュナイダー辺境伯。僕は当然のことをしたまでです。これが仕事でもありますからね。さて、まだ仕事が残っているな――」
緋色の騎士が大坑道の奥を見やった。そこに黒い霧が密集している。それは地面に突き立った黒い繭のように見える。ひとが何人かすっぽり入りそうな大きさの黒い繭である。
「――ウジュルルル! おのれ、よくも、俺の兵隊を!」
黒い霧の繭が唸った。
「俺を馬鹿にしやがって。馬鹿どもが、俺を、馬鹿に。我慢できない、我慢できない――馬鹿どもが俺の邪魔をする、天才の足を引っ張る。やっかみだ、妬みだ、
己の人生を呪う慟哭が
「あの死体野郎、まだ生きているのか?」
ツクシが黒い霧の繭を睨んだ。
「あれは屍鬼だから死んでるんだろォ?」
ゴロウが鉄の錫杖で地面をドスンと突いた。
「しぶとい奴っすね。頭を完全に砕かない限り終わらないのか――」
ヤマダは取り落とした十字槍を、もう一度、拾い上げた。
「今から私が粉々にしてやる!」
憤ったニーナが腰の幅広剣に手をかけた。
「ニーナよ、その怒りは父にもわかる。だが、ここは彼に任せるのがよかろう」
リカルドが緋色の騎士の背中を見やった。
緋色の騎士が呪詛を吐く黒い霧の繭へ歩み寄ってゆく。
「ふぅん、魔導の沼の効果を一点に集めて、僕の刺突を捻じ曲げたのか。ああ、そうか、屍鬼は呼吸をする必要がないから沼のなかでも窒息しないんだ。沼の効果が及ぶのは生物のみ、だったよな。なるほど屍鬼の魔導師ならではの発想ですね。これには感心しました――さて、それでは貴方の名前を僕に教えてもらいましょうか」
緋色の騎士が刺突剣の切っ先を繭へ向けた。
「ウジュルルルルゥ――いいアイディアなのは当たり前だ、俺は天才だからな――まずは貴様から名乗れ。礼儀を知らんのか?」
黒い霧の繭が唸った。
「ああ、これは失礼。僕はタラリオン王国の三ツ首鷲騎士団の騎士、ジークリット・ウェルザーというものです」
緋色の騎士――ジークリットが革の手袋をはめた左手で帽子の鍔をちょっと上げて顔を傾けると、黒い繭が解けだした。
「魔導式陣・
屍鬼の魔導師が解けた黒い霧の繭の中心で叫んだ。その全面に紫炎に揺らぐ魔導式陣が発現している。ボルドウ輸送警備小隊を壊滅させた魔導式陣だ。
「おい、あいつはまたアレを撃つぞ――」
ツクシが呻いた。
「騎士さんはまだ準備が!」
ヤマダが両方の拳を握りしめてまた十字槍を取り落とした。
「まァ、大丈夫だろ、たぶんなァ――」
ゴロウは顎髯を撫でつつ冷静だ。
「平気よ、きっと」
ニーナもゴロウと同じ意見のようだ。
「ツクシ、ヤマよ。案ずるでない。あの男は――」
呟くようにいったリカルドが目を細めた。
ジークリットの足元に真紅の導式陣が発現してそれが散る――。
――三ツ首鷲の騎士、ジークリット・ウェルザーは、カントレイア世界でも屈指の海運会社――ウェルザー海運商会の会長を務めるトルエーノ・ウェルザーの五人目の孫に当たる人物である。ジークリットには兄が三人いて、その兄は幼い頃から良く学んで良く遊ぶ、金持ちの息子として良くできた――世俗の垢に塗れることを喜びにする商売人向きの性格だった。ジークリットの兄三人は現在、それぞれウェルザー海運商会の重役につき海運の世界で辣腕を振るっている。
そんな兄弟の末っ子だったジークリットは、幼い頃から物品や金に執着心を見せず泰然自若とした様子だった。幼きジークリットの周辺にいたものは家族も親族も全員生き馬の目を抜くような商戦の世界で生きるひとだ。
「ボンヤリとしたこの子は、商売人に向いていないようだが――」
揃ってジークリットの将来を心配したらしい。
ジークリットの才能が顕著になったのは年齢六歳から十八歳まで一貫して有償教育を行う王国の教育機関――
周囲が戸惑うなか、ジークリットの才能は加速する。
学会入学当初、ジークリットは商人の息子として人文学系コースに在籍していたが、すぐ総合導式コースへ編入させられた。そこでもジークリットが才能を持て余しているのを認めた教官たちは王国軍西方学会、その特別仕官コースへジークリットを送り込む。その結果、ジークリットの同級生はほとんどが貴族の子供になった。ジークリットは豪商の息子でその階級は大市民階級――有力貴族のパトロンに当たる階級だ。しかし、大市民階級は表面上、貴族のひとつ下である。貴族の子供たちは王国のエリート・コースへ特別扱いで割り込んできた庶民の子ジークリットを面白く思わない。自分たちが生まれついて特別だと思い込んでいる貴族の子供は上流階級専用道路から、ジークリットを追い出そうと考えた。ジークリットは中背で痩せ気味の、黒い下がり眉の、弱々しい印象の少年だ。これを潰すのは楽勝だろう、貴族の子供たちは笑い合った。だが、しかし、である。ジークリット少年は売られた喧嘩を片っ端から買い上げた。
同級生を血の海に沈めたジークリット少年の口元に冷えた微笑みが浮かぶ。
ここで、ジークリットの新たな才能が開花した。
王国軍西方学会を主席で卒業したジークリット青年は、タラリオン王国陸軍へ入隊を希望し、当時に新設された導式機関仕様重甲冑装備機動歩兵部隊――通称で重装歩兵隊へ配属された。そこでもまだ戦いの才能を持て余していたジークリット青年は三ツ首鷲の騎士団、その騎士団長の目に留まって見習い騎士に登用される。タラリオン王国とエンネアデス魔帝国の間で戦争が始まると三ツ首鷲の騎士団に欠員が発生。その穴を埋める形で、ジークリットは市民階級出身者としては初めて、三ツ首鷲の騎士団の正式な騎士となった。このとき、ジークリットは若干二十五歳。タラリオン王国軍において三ツ首鷲の騎士は軍の司令官に当たる立場である。
現在、北方第一軍集団長補佐を勤める若き騎士ジークリット・ウェルザーは騎士団の同僚と軍の関係者から、こう渾名されている。
戦争の申し子――。
――屍鬼の魔導師と、ジークリットとの間にあった距離は、通常の人間の歩幅で二十歩ていど。ジークリットはこの距離を三歩で駆け抜けた。一瞬で敵を間合いに捉えたジークリットが刺突剣を跳ね上げると、屍鬼の魔導師の左肘から先が切断された。その先で生成された魔導式陣・魔烈弾は起動する前に大気へ散った。ジークリットの刃は、そのまま斜め下へ動き、袈裟懸けに胸部を両断、ついでとばかり跳ね上がって右肩から先を切断、最後に真横へスライドし、その首と胴体を二つに分けた。ジークリットの刺突剣に口を貫かれた屍鬼の魔導師は、その頭だけ地面への衝突を免れた。
ジークリットが刺突剣の先にある屍鬼の魔導師の頭へ告げた。
「僕は
「ウジュ、ウジュ、ジュ!」
屍鬼の魔導師は口に差し込まれた刃をガチガチ噛んだ。胴体から切断され首だけになった状態でも頭蓋の内にある屍鬼の結晶を破壊しない限り屍鬼は活動を停止しない。そうしたくてもできない――。
「――貴様はルーク・イド・ドラゴウンだな?」
ジークリットが訊いた。
「ウジュルル――」
屍鬼の魔導師の頭が呻いた。
「骸の女王陛下が探していたぞ。もっとも、女王陛下は貴様のような小物に大して興味はないそうだ。骸の女王も僕も用があるのは、お前が盗んでいった、その
下がり眉を益々下げたジークリットが、
「――まあいい。ここで貴様はこの世から消え失せろ。礼儀知らずで低能なむかつくゲス野郎は、そうあるのが必然だろう」
ジークリットが真上へ刺突剣を跳ね上げた。刃からすっぽ抜けた屍鬼の魔導師の首が上へ飛ぶ。首は自由落下してくる。落ちてきた首を刺突剣の刃が二つに割った。
ジークリットの好青年風の風貌に冷えた微笑みが浮かんでいる。
こうして、屍鬼の魔導師――かつてルーク・イド・ドラゴウンと呼ばれていた魔人族の男の魂は冥府へ散失した。
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