承・南米のマフィアは血気盛ん!?

 半年後、俺たちは大金持ちになっていた。

 世界中を自家用ジェットで旅して回りながら、毎晩ドンペリやらシャルルマーニュやらと大騒ぎ。


 俺たちがやっていることは単純だ。

 まず、大富豪のターゲットを決める。そして俺がその大富豪の家に忍び込んで家中の金品やら貴重品やら美術品やらを未鑑定状態に変えるのだ。

 俺の力を持ってすれば忍び込むのは容易かった。なぜなら電子錠や監視カメラは俺が触れば未鑑定状態に変わり、機能しなくなるからだ。

 そして数日後、大富豪が家中の物、特に美術品や貴重品が未鑑定状態に変わったことに焦っているところへ相棒が向かい、それらを鑑定する代わりに口止め料込みで多額の謝礼を受け取ってそのまま雲隠れするのだ。

 何を口止めするのかって?それは美術品や貴重品を鑑定したという事実だ。美術品や貴重品を扱えるような高位鑑定士はほぼ全て鑑定士協会に所属しており、彼等は高価な物を鑑定した時には保証書を作り協会のデータベースに保存するのだが、協会は月に一度、保証書を発行したものが無事か確認に来るのだ。もし無事じゃなかったら保証書は剥奪されるし、仮に未鑑定状態になってしまったそれらをもう一度鑑定してもらったとしても、協会は俺のような未鑑定状態に変える存在を規定していないので、本物であるという保証書を剥奪してしまうのだ。

 大富豪にとってこれは一晩のうちに自身の財産の大半が本物から偽物へ、つまり消滅したことと等しい。そんな所へフリーランスの高位鑑定士が協会に内密で鑑定してくれるという。財産が取り戻せたのなら多額の謝礼くらいどうってことは無いのだから、その程度でいいのなら…とそのフリーランスに鑑定を依頼するのだ。


「かァー、堪んねえなァ。ヒック。濡れ手で泡とはこのことよォ。ヒック。」


「まさしく。あなたを誘った半年前の私は間違っていなかったようですね。まあ飲んで飲んで。」


「資金繰りからターゲットの選択まで、ヒック、全部お前に任せっきりで最高だぜ。ヒック。」


「ええ、任せてくださいよ。あなたはただ忍び込んで、高そうなものに触るだけでいいんです。ふふ。」




 さらに半年後、俺たちは世界を、ぐるっと一周した。

 中国の成金やインドのIT社長に中東の石油王、それからヨーロッパのなんちゃら王家や世界的自動車メーカーの創業者一族、アフリカの国民的英雄に南米のマフィア、果てはアメリカのシリコンバレーの巨人たちまで食い物にした。

 個人的には南米のマフィアが1番大変だった。奴らは拳銃とか殴り合いとかとにかく血の気が盛んだし、裏社会に暮らす鑑定士も数多く居たので恩を売りにくかったのだ。

 まあそんなこんなでとにかく俺たちは世界中の大富豪から金を巻きとってきたが、相棒によるとそろそろ潮時らしい。ってのも、どうやら俺たちのやってきたことが大富豪達のネットワークで広まりつつあるらしく、自前の鑑定士を用意した大富豪が増えているらしい。


「相棒、明日で最後の仕事にしましょう。」


「あァ、そうしようや、ヒック。任せとけ、電子錠を突破するのは俺の十八番だァ。ヒック。」


 俺達が最後の仕事に選んだターゲットは上野博物館、日本で1番デカい国立の博物館だ。

 ククッ、楽しみだぜ。






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