244:理不尽な世界

 ロザリアの第6月11日。


 一連の式典を終えた美香はフリッツ達に後を託し、ヴェルツブルグを出立した。コルネリウスは、美香の直轄軍から旧第1大隊を中心に選抜した1,000の兵を率い、美香の乗る馬車を中心に据えて西へと進む。馬車にはレティシア、カルラ、マグダレーナが同乗し、騎乗したオズワルドとゲルダがその両脇を固めていた。


 西へと進むコルネリウスの下には、先行するホルスト、ユリウスからの伝令が次々と到着する。コルネリウスはオストラへと進む時間を無駄にする事なく、馬上で報告を聞くとすぐに次の指令を発し、その指令書を受け取った次の伝令が馬を駆ってホルスト達の許へと向かった。


 半月ほど掛けて一行がオストラに到着すると、そこにはホルストが率いる軍7,000が陣を張っていた。美香が馬車を降りると、数人の部下を伴った一人の偉丈夫が駆け寄り、美香の前で跪く。


「陛下、お足元の悪い中、この様な場所に足をお運びいただき、誠に恐縮でございます。道中御車に揺られ、さぞお疲れでございましょう。あちらに宿舎をご用意させていただきましたので、玉体をお労り下さい」


 美香は目の前で首を垂れる男に対し、穏やかに微笑む。


「ホルスト様、ご無沙汰しております。こちらこそ、この様な大変なお仕事をお願いして、申し訳ございません。皆さん、お体の方はお変わりございませんか?後ほど、皆さんにもご挨拶したいと思っておりますので、お時間をいただけますと幸いです」

「勿体ないお言葉。陛下の御言葉を賜れるのであれば、兵達もさぞ喜ぶ事でしょう。早速ご手配させていただきます!」


 ホルストは顔を上げ、美香の笑顔を眩しそうに見ながら答えると、背後で跪く部下に声をかけ、後方へと走らせる。僅か半年足らず前には、懲罰軍の司令官とその虜囚という立場の二人だったが、ともに過去の経緯に引き摺られる事なく、温かな会話を交わしていた。


 4ヶ月前、ヴェルツブルグの惨状を知ったホルストは自決を覚悟の上でコルネリウスに投降したが、コルネリウスは何ら咎める事なくホルストを美香に引き合わせた。そして、ホルストと初めて対面した美香も、過去を一切非難する事なく彼の手を取り、ヴェルツブルグの復興とこの国の建て直しへの協力を申し出た。その美香の純粋な想いにホルストは胸を打たれ、以来彼は美香の忠実な騎士として従い、軍を率いた。


 なお、美香は公式の行事を除くと、例え臣下が相手であっても礼儀正しく敬称を付け、丁寧な言葉遣いを崩さなかった。自分が例えこの国の頂点に立つ人物であっても、相手が確固たる地位の人物であれば躊躇いもなく「様」を付け、一介の市民であっても「さん」付けを心掛けた。その姿勢は、日本人としての謙虚さが「聖母」となった後もついに抜けなかったためであったが、人々は身分の低い自分達にも分け隔てなく気遣いを見せる美香の姿に感激し、彼女の行く先々で歓呼の声を上げた。


 美香がオストラに到着して2日が経過し、美香による兵への慰労が終わると、ホルストは兵3,000を率いてオストラを発つ。コルネリウスは5,000の兵と共にオストラに留まり、ホルスト、ユリウスと綿密に連絡を取り合いながら、国内西部全域に軍を展開する。当代随一の大将軍の軍略と、二人の優秀な指揮官に率いられた18,000もの兵の前に、盗賊達はまるで巻き網に掛かった魚の様に追い詰められ、次々に討たれ、捕らえられていった。




 ***


 ガリエルの第1月28日。


 緑の疎らな、土埃の舞う荒涼とした大地を、大勢の人々が列を成して歩いていた。人々は皆薄汚れた衣服を纏い、周囲の者と言葉を交わす事もなく、俯いたままひたすら歩を進めている。彼らの両手は体の前に差し出され、両手首を合わせて縛り付けた縄は前方を歩く者の腰に結びつけられていた。


 彼らは両脇を歩く兵士達に監視され、前を歩く者の腰紐に引き摺られるかのように歩き続ける。その顔には生気と言うものが見当たらず、全てを諦め、ただ言われるままに行動する、生きた死人が行進をしているような光景が広がっていた。


 黙々と歩く人々の中で、一人の男が僅かに顔を上げ、茫々に伸びた髪の隙間から目を覗かせる。彼の霞んだ目の先には、彼の記憶とは似ても似つかない街の姿が広がっていた。


 …オストラ…。


 彼は濁った脳を動かし、自分の記憶を掘り起こす。何も無くなり、荒れ果て、傷だらけとなった彼の頭の中にただ一つ残っている、埃に塗れた小さな箱。彼が血で汚れた手を伸ばし、恐る恐る箱を開くと、中から光が燦々と輝き、一つの映像が浮かび上がった。


 それは、彼がかつて営んでいた宿屋の風景だった。宿屋は質素で、客層も裕福ではなく、彼の商いは決して順風とは言えなかったが、それでも彼の前に浮かび上がった映像は幸せに満ち溢れていた。飾り気のない板張りの部屋の中は光り輝き、二人の娘達が客室の掃除に汗を流す。妻は客からの久しぶりの料理の注文に腕を振るい、彼は厨房から漂う匂いに鼻をくすぐられながら、客の荷物を抱えて部屋へと運ぶ。妻も子供もへとへとになり、時折愚痴を言いながらも、客に笑顔を向け商いに励んでいた。


 突然映像が途切れ、彼は荒れ果てた荒野の中を歩き続ける自分の姿を認める。彼は、箱の中で見た全てを、失っていた。飾り気のない質素な板張りの宿屋も、煌びやかな装飾の代わりに汗と汚れに彩られた妻も、華麗とは無縁のお転婆ばかりが目立つ娘達も、何一つ彼の手元には残されておらず、彼は両手を繋がれ、絶望だけを胸にただひたすら荒れた大地を歩き続けている。そして、その行く先には、かつての故郷とは似ても似つかない世界が広がっている。素朴な家屋が連なっていた懐かしい街並は跡形もなく消え去り、全てを拒絶する様な頑丈な壁が、彼の視界を妨げていた。


 彼らは壁の前まで到着すると、兵士の厳重な監視の下、壁を回り込むように歩かされる。壁の周りには粗末な天幕が数多く張られ、多くの罪人達が座り込んでいる。罪人達は柱に手を繋がれ、兵士達の監視の下で、思い思いの体勢で裁きの時を待っている様に見えた。


 彼はやがて一つの天幕に連れて来られると、兵士達によって最寄りの柱に手を繋がれる。兵士達は彼に幾ばくかの食料を与えると、その場を離れて周りの罪人達とともに彼を監視し始めた。彼は汚れた手の中に納められた食料を眺めながら、小さく呟いた。


「…ドロテーア、ノーラ、ニーナ…もうすぐ、会えるからね…」




 ***


 彼が此処に来てから、3日が経過した。


 彼はその間、何をするでもなく、天幕の中で身を横たえたまま、その時を待っていた。彼の許には朝と晩の2回兵士が訪れ、幾ばくかの食料と水を置くとその場を離れていく。彼はトイレの時を除いてずっと柱に繋がれたまま、兵士達の監視の目を肌に感じながら、ずっとその時を待っていた。


 彼がぼんやりと眺める風景はいつまで経っても代わり映えしないものだったが、その中で罪人達だけが毎日変わっていった。罪人達は一人ひとり兵士に引き立てられ、順に壁の中へと入って行く。そして、壁の中に消えた罪人達は決して戻って来る事はなく、翌日には新たな罪人が居なくなった天幕の柱に繋がれた。彼は、罪人の出入りがなされる天幕が少しずつ彼の下に近づいて来るのを知って、家族との再会に胸を躍らせる。


「おい、貴様の番だ。立て」


 そしてついに、彼の出番がやって来た。




 彼が兵士に引き立てられ、壁の中に入ると、そこには格子状の柵が設けられていた。柵の向こうには空き地が広がり、その中に急ごしらえの木造の小屋が島のように纏まって設けられ、その小屋の間を兵士や労働者が行き交っている。人の数は疎らで、壁の中全体で見れば多くの人がいるにも関わらず、閑散とした雰囲気が感じられた。


 彼は柵に沿って歩き、罪人達が並ぶ行列の最後尾に並ばされる。彼の前には数人の罪人が列を成し、一回り大きな木造の家屋の扉が開くのを待っていた。彼の視界の先で扉が開き、二人の兵士が先頭に佇む罪人を引き入れると、再び扉が閉まる。彼は自分の行く末を想像する事もなく、ただ漫然と両手を縛られたままそこに並び、その時を待った。


 ついに彼の番となり、彼は兵士に引き立てられ、家屋の中へと入った。


 家の中は整然としており、飾り気はないものの清潔感に溢れている。彼は家の中で唯一汚れに塗れたまま、無感動に兵士に連れ添われて幅の広い廊下を進み、やがて先を歩く兵士が廊下の突き当たりに辿り着くと、目の前の扉をノックした。


「失礼します。次の者をお連れしました」

「どうぞ」


 中から女性のいらえが聞こえ、彼は二人の兵士と共に部屋の中へと入った。




 部屋の中は広く、20人程度は入れそうな空間が広がっている。その部屋には一つの椅子が置かれ、その向こうに四人の男女が居て、部屋の入口に立つ彼の姿を眺めていた。


 四人のうちの一人は黒髪黒目の大柄な男で、一人はその男よりも背の高い虎獣人の女。男は椅子に座る二人の少女の左側に立ち、虎獣人は少女の背後に立って、彼の姿を見下ろしている。その姿は一分の隙も見当たらず、危険と見ればすぐさま行動に移せるだけの緊張を孕んでいたが、部屋の入口に立つ彼を怯えさせないよう極力気迫を抑えていた。


 中央に置かれた二つの椅子には、二人の少女が腰を下ろしていた。彼から見て左側の椅子には黒髪の少女、右側の椅子には金髪の少女が座り、金髪の少女の座る椅子は黒髪の少女を補佐するかのように、斜めを向いている。彼の前で黒髪の少女が手前の椅子に手を差し伸べ、口を開いた。


「どうぞ、お座り下さい」


 誰に向かっての発言か判断がつかないまま、彼は背後に立つ兵士に連れられ、椅子に腰を下ろす。その兵士の動きは、この家に入る前の兵士とは打って変わり、丁寧なものだった。


 彼が椅子に座り、虚ろな表情を浮かべる先で、黒髪の少女が疲労の色を漂わせながら儚げな笑みを向け、口を開く。


「初めまして。私の名は、古城美香と申します。僭越ながら、この国では『ロザリア様の御使い』の称号をいただいております」

「…」


 反応を見せようとしない彼に構わず、少女の話が続く。


「昨年、リヒャルト王子とクリストフ王太子による権力争いが発生し、戦場となったオストラ並びに西部全域が、荒廃しました。王家は西部の惨状に気を向ける事なく争いを続けておりましたが、間隙を突いたガリエルの攻撃によりヴェルツブルグが陥落、王家は滅亡しました。遺された私達は悲嘆に暮れながらも抵抗を続け、今ようやくオストラの回復へと漕ぎついた次第です」

「…」

「この地に居を構える皆様は、大変なご苦労をなされた事と存じます。これらは全て、先の王家の不手際によるもの。災難に遭われた皆様に対し、おのが責務を忘れ、自滅の道を歩んだ先の王家に代わり、お詫び申し上げます」

「…」


 彼の目の前で、黒髪の少女が深々と頭を下げる。その流れ落ちる黒髪とともに遅れて彼の脳に届いた謝罪の言葉が、彼の死んだ心を揺さぶった。少女が顔を上げ、言葉を続ける。


「この災難の中、皆様は生き延びるために、地獄を味わい、望まぬ事に手を染めた方もいらっしゃるかと存じます。私は、滅亡した王家に代わって新たにこの国を統べる者として、宣言いたします」




「――― 私は、今日この場において、あなたの持つ一切の罪を、不問といたします」




 表情を固めたまま顔を上げた彼の耳に、少女の言葉が流れ込んで来る。


「私はえて、あなたのお名前をお伺いしません。その上で、どうか、私と共に此処オストラの街の再建に、力を貸していただけないでしょうか。この街であなたが生活するのに必要な最低限の物資を、ご用意いたします。この街を建て直した暁には、その労務に見合う対価を支払った上で、あなたの自由を認めましょう。故郷へ戻るのも良し、新天地に向かうのも結構です。ですので、それまでの間、この街の再建に力をお貸し下さい」


 そう答えた黒髪の少女は、彼に向かって再び頭を下げた。




 少女が頭を上げ、彼の顔を見つめる。彼は少女の視線にも構わず、動きを止めている。


 やがて彼は、唇を震わせ、戦慄くように声を上げた。




「…何故だ?…何故、今更、そんな事を言うんだ!?」




 彼は両手を縛られたまま身を乗り出し、目の前に座る黒髪の少女に向かって灼熱の言葉を叩きつける。彼は背後から二人の兵士に腕を掴まれ、黒髪の男と金髪の少女が間に入って庇う中、男女に隠れるように顔を伏せる黒髪の少女に向かって怒声を浴びせた。


「あ、あ、アンタ達お偉方は、いつもそうだっ!俺達の事なんか一切構わず、好き勝手して、結果だけを押し付ける!アンタ達のおかげで、俺の家族がどうなったのか、知っているのか!?ノーラは荒くれ共に犯され、連れ去られた!ドロテーアとニーナは、俺の目の前でハヌマーン共に首を刎ねられ、死んだんだぞ!?そ、そ、その俺に対して、偉そうに『罪を赦す』だと!?アンタに何が分かる!?生きるために、この手で人の首を絞めた、この俺の気持ちの何が分かる!?まだ、この掌に残っているんだよっ!あの女の息遣いが、首筋で脈打つ鼓動が、この掌に残っているんだよっ!アンタはそれを聞いても、偉そうに『罪を赦す』と言うのかっ!?」

「ご主人」


 少女に向かって泣き喚く彼の前で、男が黒い瞳に決意の光を湛え、決然と立ち塞がる。


「あなたのお気持ちは、察するに余りある。だが、どうか此処は堪えて欲しい。それ以上無礼を働くと、我々もあなたを罰せざるを得なくなる。どうか、抑えてくれ」

「ご…ごめんなさい…」


 男の威圧と共に、少女の震えるような懺悔の言葉が彼の耳元に漂って来る。男の気迫に呑まれ、やりきれない思いの行き場を失った彼に、金髪の少女が言葉を被せた。


「陛下の御言葉を、もう一度申し上げます。あなたの過去の一切の罪を赦し、オストラの街の再建への協力を要請します。後は、兵士達の指示に従って下さい。以上!」


 金髪の少女の言葉とともに、彼は二人の兵士達の手によって立ち上がらされ、入ってきた扉とは別の扉から部屋を出て行った。




 ***


 部屋を出た彼は、二人の兵士に連れ立てられ、やがて建物の外へと出る。そこは、先ほど見た柵の内側になり、目の前には大勢の人達が取り囲んで、彼の姿を見つめていた。


 二人の兵士は彼の両手を縛っていた紐を切ると、外に居る兵士へと引き渡す。兵士達は彼に対し、声をかけた。


「あんたのやり切れない思いは、良く分かる。だが、此処は陛下を立て、耐え忍んでくれ。陛下はご自身の責任ではないのにも関わらず、ああやって一人ひとりに頭を下げ、あんた達に再建の機会を与えてくれているんだ。そんなあんたを、俺達は罰したくはない。どうか今は堪え、人生をやり直してくれ」

「…」


 彼は、これまで見た事もない兵士達の目に浮かぶ柔らかい光に、驚く。彼の知る兵士達は威丈高で、横暴で、彼の苦労を察する事なく一方的に命令するばかりだった。その兵士達から出た自分を気遣う言葉が信じられず、彼が呆然と兵士達の顔を眺めていると、背後から彼を呼ぶ声が聞こえた。




「…お父!」




「…え?」


 彼は、背中に投げかけられた言葉が信じられず、恐る恐る後ろを振り返る。彼の彷徨う視線が、一人の少女の姿を捉えた途端、急停止した。


 少女は粗末な衣服に身を包み、薄汚れた姿で佇んでいた。その顔はやつれ、常に何かに怯えているかのように不安気な表情を浮かべていたが、その中から僅かに喜色めいた光が顔を覗かせていた。少女は喜びではなく、恐怖から逃げ出すために涙を流し、彼の許へと駆け寄っていく。


「お父!」

「…ノーラぁ!」


 少女は、膝をついて戦慄く彼の懐に飛び込むと、胸元に顔を埋め、激しく泣きじゃくる。彼は、驚愕の表情を顔に貼り付かせたまま、少女の体を力一杯抱き締めた。


「お父!お父!」

「あ…あ…あああああぁぁぁ…」


 彼は、何もかも失った。親から譲り受けた質素な家も、生活の糧も、妻も、下の娘も、何もかも失ってしまった。


 だが、全てではなかった。たった一つ、上の娘だけは、戻って来た。


 荒くれ共の慰み者となり、娼婦に身をやつし、かつての笑顔を失いながらも、上の娘だけは彼の許に戻って来た。もう、かつての幸せは戻って来ない。でも、ボロボロになりながらも手元に残った最後の一つのためなら、自分はまだ頑張れる。


 …ドロテーア、ニーナ、すまない。もう暫くの間、我慢してくれ…。


 彼は、黒髪の少女に投げつけた罵声を忘れ、目の前で泣きじゃくる上の娘を力一杯抱き締めたまま、天国にいる妻と下の娘に詫び続けていた。




 ***


 日が沈み、燭台に灯る炎が部屋を覆う暗闇に必死に抵抗する中、レティシアがネグリジェ姿でティーカップに紅茶を注いでいる。やがて彼女は紅茶を湛えた2杯のティーカップを両手に持つと、ベッドへと歩み寄り、サイドテーブルにティーカップを置きながら、声を掛けた。


「ミカ、紅茶が入ったよ。飲まない?」

「…」


 レティシアの言葉に、美香はベッドの上に座り、視線を合わせないままかぶりを振る。レティシアはベッドに上がり、背中を向けたままの美香の首に手を伸ばし、艶やかな黒髪に指を差し込んで梳き始めた。


「…ねぇ、レティシア…」

「…何?」


 薄明りと静寂が漂う中、髪を梳くレティシアの前で、美香が振り返る。彼女はレティシアの返事を待たずに腕を伸ばし、レティシアの慎ましやかな胸に顔を埋めながら呟いた。


「…抱っこして…」

「…ええ、いいわよ」


 レティシアは両手を広げ、自分の胸の中で蹲る美香の頭を抱え込んで頬ずりをする。レティシアの腕の中で美香がもぞもぞと動き、やがてレティシアのネグリジェの襟元に腕を差し込むと、胸元をはだけさせた。美香は慎ましやかなレティシアの膨らみに顔を寄せ、乳飲み子の様に吸い付く。


「…んっ…」


 レティシアが胸元から伝わる刺激と憐憫に身を捩らせ、乳飲み子を抱く腕に力が入る。そのまま二人は燭台が齎す淡い光の中で動きを止め、ただ壁に映し出された一つの影だけが、揺らいでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る