24 大団円

年が改まった1月1日

大和の橿原宮にて御毛沼ミケヌ神倭伊波礼毘古カムヤマトイワレビコと名を改め、初代天皇として即位し、大物主と勢夜陀多良の長女である伊須気余理イスケヨリが皇后に迎えられた。




高天原で“葦原中国実況鏡”を覗いていた天照を始めとする神々は、淡道の幽宮かくりのみやに住む伊邪那岐イザナギも招待して、大大宴会を行ったのは言うまでもない。


「いやー。伊邪那岐様から、『御毛沼の嫁にいい娘がいるよ』と綴られた手紙が届いた時は、一体、誰の事かと思いましたよ」


須佐之男スサノオ伊邪那美イザナミに頼んで、大倭豊秋津おおやまととよあきつから名を奪い、大物主オオモノヌシという名前にして、出雲に対して、無理に力を使わせているのに気づいたからね。てっとり早く神力を取り戻させるには、男女の交合しかなかったのさ。かといって、人間の女性では、大物主に触れる事さえできやしない。だから、八咫烏の娘をどうにか大物主の妻にしたくて、天照が一言主に持たせた手紙を入れ替えた。というわけさ。そして、丁度いい時期に、二人に娘が産まれたんだから。まさに私の思い通り」


伊邪那岐は、酒杯を片手にゆったりと寛ぎながら宣った。

それを聞いて、天照は、

「そうよね。私、あんな手紙を書いてないもの」

という。ずっと、何を血迷って、あんな言葉を書いてしまったのかを、密かに気に病んでいたのだ。


「でも、お前が八咫烏を祟ったのは、確かだろ」

伊邪那岐は、酒杯で天照を指す。図星を刺され、への字に口を結んだが、すぐに気を取り直し、

「そうよ。だって私、息子の結婚式も知らなかったし、孫の誕生も知らなかったんだもん。八咫烏にも、娘の結婚式に出したくなかったし、孫の誕生も知らない様に祟ったのよ。勢夜陀多良ちゃんは、まるでお父さんに捨てられた子の様な暮らしを強いた事が可哀そうだったけど、八咫烏にも私と同じ目に合ってもらわないと、どうしても気が済まなかったんだもん」


それを聞いた高木は、

「では、天照様の祟りはなされたわけですね。まぁ、八咫烏には天津神の眷属としてはお役御免です。これからは国津神として頑張ってもらいましょう」

と、起請文を懐から取り出した。


八咫烏の署名入りの起請文の最後の行には、

『起請文を人が破りし時は、眷属の魂を御使いとして寄越します』

と、書かれてあった。

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勢夜陀多良の茨姫 久浩香 @id1621238

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