23 マシンガントーク

妻からの、突拍子の無い質問に、八咫烏は生唾を飲み込んだ。

「な、何故それを」


伊賀古夜イカコヤは、それすら何てこと無い事の様に、

「どうりでおかしいとは思っていたんですよ。まだ七つの私にプロポーズして、お父様に『童女趣味ロリコンか!』と怒鳴られながらも、集落の一員として真面目に働いて、私が年頃になるまで待っていてくださってる間も、貴方ったら若いままですし、貴方と結婚した後は、私も、なんだか変わらないですしねぇ。神様でしたら、それも当然といえば、当然ですわね」

と、コロコロと笑って言った。


あまりにあっけらかんとした反応で、八咫烏はぽかんとした。


「そうそう。勢夜陀多良のお婿さんも神様でしてね。その方に教えて頂いたんですよ」

「は?」

「大物主様っておっしゃるんですけどね。三輪山にお住まいでね。ウフフ。あなた、もう、お爺ちゃんなんですよ」

「は?」

「孫娘は、伊須気余理イスケヨリっていうんですけどね。子供の頃は、富登多多良伊須須岐ホトタタライススキって呼んでたんですよ」

「は?」


八咫烏は、最早、「は?」しか言えなかった。伊賀古夜は、今まで、ずっと言いたかった事を、機関銃の様に喋り続けた。


「でも、娘になってから自分の名前が恥ずかしいなんて言っちゃってねぇ。名前を変えたんですよ」


「ちょちょちょ…ちょっと待て」

ますます、ヒートアップする伊賀古夜を八咫烏は静止した。


「なんですか?」

「いや、『なんですか?』じゃなく、娘の夫が神様って」

「はい。三輪山に御住みの神様ですよ」


まるで、当たり前の事の様に伊賀古夜はケロッとした表情で言った。


「貴方、出ていく前に仰ったじゃないですか。『娘を矢に近づけるな』って。お言葉通り、矢に近づけなかったんですけどね。あの子ったら、“矢”がどんな物か知らなかったそうなんですよ。それで。娘に一目惚れした大物主様が、矢に化けて、あの子のホトを突いたそうなんです。そしたら、あの子ったら、『あんまりにも綺麗だったから持って帰っちゃった』んですって。本当にねぇ。知らなかったんですから、仕方ないですよねぇ」


姿形は娘だが、中身はしっかりお婆ちゃんである。見た目の年齢の女性なら、恥ずかしくて、とても口には出せない『ホト』も、平然と口にする。


「大物主様もねぇ。娘に一目ぼれして、どうしようかと迷っていたら、お父様から必勝法を授けて貰ったそうですよ」


「大物主様のお父様?」


伊邪那岐イザナギ様と仰るそうですよ」


伊邪那岐の名前が出て、八咫烏は、がっくりと肩と頭を落とした。








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