閑話 ぴろ~と~く

初めて契りを交わした夜は焦った。

塗矢から人型に変化し、勢夜陀多良ヤセダタラに触れた瞬間、妻は失神してしまった。


今思うと、それは、当然といえば当然の事だった。


私は、伊邪那岐イザナギ伊邪那美イザナミという夫婦審から生まれたバリバリ直系の神であり、力が弱まっていた。この身体が力を求めている以上、触れた生命の力を、我知らず吸収してしまう。


妻が、塗矢の余を、不用意に持った上、スカートの中に隠して、この部屋に運んできたので、そういう事が起こる危険性を、余もすっかり失念してしまっていたのだ。


余は妻から吸収したエネルギーを、口移しに返す事にした。

一気に与えれば妻が壊れてしまう。と、慎重の上にも慎重に、ゆっくりと戻したのだ。


そして、その時に解った。

妻は、人間と神の眷属のハーフだと。


それは余にとって、言葉にしようが無い程の僥倖だった。

妻に不用意に触れてしまった時、彼女がもし完全な人間であったなら、おそらく干からびて死んでしまっていただろう。

余の神力は、それほど強力なのだ。



目覚めた妻との初めての契り。

それは、神力の爆発的膨張ビッグバンであった。


余は、余らの褥を囲む環濠の辺に茨の木を生やし集落を覆い、このドームの中の余ら以外の時間を止めた。自然の摂理に反する事である事は理解していたが、そうしなければ、大倭豊秋津おおやまととよあきつを消滅させてしまっていただろう。


あまりの破壊的神力に、その全てを余の体内に納める事ができなかったのだ。

しかし、妻は、その中心にいながら、ただ破瓜の痛みに頬を濡らしていた。


余らは、それから互いのエネルギーを高め合いながら交合を行っている。

初めは痛みを訴えていた妻も、やがて余以上に快感を享受し白い肢体をくねらせている。

その姿は、例えようも無い程美しい。


やがて余の体内には、エネルギーが満ち溢れ、余の住処である三輪山を中継地点に、大地を肥やしていった。肥沃になった大地に、人間達が集まり、集落をこしらえている。


初めての契りから、一体、どれ程の季節が巡ったのかは解らないが、もうそろそろ、このドームを開放しても良い頃だと思う。


「なぁ。勢夜陀多良」


「はい。大物主様」


「そろそろ…子供、つくろうか…」


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