16 誓約の結果は絶対です
「さて、では
そう言うと高木は、例の手紙を手に取り、ぶつぶつと何事かを唱えた後、
「この者、名を八咫烏。娘の名は
そう言うと、八咫烏に手紙を渡し、
「さぁ。この手紙の文章を舐めて下さい」
「へっ。俺が舐めるのか」
「貴方以外に誰が舐めるというのです。さ、べろ~っと。文字、消えて欲しいんですよね」
「お、おう」
恐る恐る手紙を受け取ると、八咫烏はそれを両手で持ち、意を決して舌を出した。
が、
「あ、ちょっと待って下さい」
と、高木に止められた。
「危ないところでした。手紙は逆に持って下さい。文字が逆さになるように…」
八咫烏が、「え?」「お?」「こ、こうか?」と、高木に確認しながら、手紙を逆さに持つ。
「はい。そうです。では、はりきってどうぞ」
どこかからスポットライトを当てられそうな勢いで、高木に急かされ、八咫烏は、ベロ~~~ッと、手紙の文字を舌でなぞった。彼が舐めたせいで、全ての文字がどこか滲んでいる様だった。
これが消えている状態なのかどうなのか、八咫烏には判断できないでいたが、突如、彼の上に雨雲が出現し、彼の周囲でだけドシャ降りの雨が降り、すぐに止んだ。
止んだと思ったら、次は床の下から強風が吹きあがり、洗浄・乾燥がなされた。
八咫烏の目の前にいる高木は一切変化がなかったが、いつの間にか手袋をしていた。
洗浄したとはいえ、やはり人が舐めた物を持つのは嫌だったようだ。
高木は、「ふむっ」と、何やら考え込んだ。
手紙には、
『勢夜陀多良(18)は、ホトを矢に突かれて〇〇』
と、書かれてあった。
「う~ん。どうやら、矢に突かれてしまうのは回避不可のようですね。しかし、この〇〇というのは、何なんでしょうか。二文字の言葉を入れる事は、間違いない様ですが…」
高木は、何度かその〇〇の中に文字を書いたのだが、その文字は木板に定着しなかった。
その時、天照の声が高木の耳に届いた。
「あ~ん。寝ちゃったー。もっと動いてるトコを見たかったのにぃ。でも、寝てる姿もかわいー。癒されるーーー」
その言葉に、「そうか!」と言って高木は『寝る』と書いた。この文字は、元からそう書かれていたかの様に、定着した。
高木は満足そうに、手紙を八咫烏に戻すと、
「さぁ。これを持って
と言い、瞬く間に、“葦原中国実況鏡”に向き直った。
八咫烏は、もう自分の事など眼中に無い4人の背中を見つめた。
(そうだよな。曾孫の映像を見たかっただろうに、俺の娘の為に知恵を絞ってくれたんだ。感謝しなきゃいけねえな)
「ありが…」
と、感謝の言葉を紡ぎかけた瞬間、
「お~お~。これから、猟と釣りに向かうところですか。元気そうに陽に灼けてますねぇ。私も、せめて生まれた時から見たかったですねぇ。…さぁ。この白紙起請文に、何を書いてやりましょうかねぇ」
そこにまだ八咫烏がいる事に気づいていないのか、高木は不穏な笑みを浮かべて呟いた。八咫烏の背筋をゾクリと冷たいものが走りぬけていった。
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