閑話 朕は国家なり

(パトラッシュ。僕はもう疲れたよ)


…は?

パトラッシュとは誰だ?

大体、一人称が“僕”とは、なんだ。

大国主オオクニヌシ和魂にぎみたまにはなったが、あれの家来になったわけではないぞ。




(ジョゼフィーヌ。余は疲れておるぞ)


む…

一人称は正しい気がする…が…ジョセフィーヌとは、一体、誰だ?


…あ、なんか、無性に“”が食べたくなってきた。うむ。できれば“醍醐だいご”がいい。って、いや、別に腹が減ってるわけではないぞ。


疲れたのだ。


余に、最初に与えられた名は、大倭豊秋津おおやまととよあきつという。

伊邪那岐イザナギ伊邪那美イザナミにより産み出された“島”だ。

“島”というのも正しくは無いな。あれは、生み出された余の脱皮した後の皮だ。


余の本性は、龍である。

他の兄弟達の本性が何であるかは知らないが、余は龍であったのだ。

龍として生み出された余は、幾度も幾度も脱皮した。


とにかく大きくなりたかったのだ。

そして、脱皮する毎に余の核となる部分に、凄まじいエネルギーが蓄積されていった。

余が、余の核にエネルギーが満たされていく恍惚に溺れている最中、余が脱皮した後の、堆く積み上げた抜け殻が大倭豊秋津おおやまととよあきつと呼ばれる島となったのだ。


余は、名を失い、エネルギーの塊の龍となった。

名を失った事が原因なのかどうかは解らないが、余は眠りについた。



事の発端…

何故、そうなってしまったのかは解らない。

余は眠っていたのを、無理やり叩き起こされてしまったのだ。

余は、何かとてつもなく大きなうねりの様な物に絡み取られてしまった。

余は操られるかの様に、とある浜辺に向かった。

そこで私は、泣いている男に会った。

それが大国主である。


余は、大国主に自らを大物主オオモノヌシと名乗り、余を三輪山に祀る様に言った。


途中から意識がはっきりとしだし、

(む…?何故だ…?)

と、思わないでもなかったが、時すでに遅く、誓約がなされていた。


余は、「大物主」と、自ら名乗った時から、大物主という名になった。


誓約がなされた以上、余に拒否権は無かった。

大国主は余を三輪山に祀り、その対価として、余は、出雲を木々の茂る肥沃な大地となる様に、エネルギーを送り続けた。

しかしそれは、余自身を消耗させた。


エネルギーの塊であった余から、エネルギーが吸い取られ、身体は縮んでいった。

余は、再び脱皮を繰り返した。

普通、脱皮をすれば肉体は、脱皮前より大きくなるものなのだが、エネルギーを出雲に送り続けていた為に、余の身体は、脱皮毎に小さくなり、龍を象る事が出来なくなった。


しかも、余が過剰に脱皮を繰り返してしまった為に、出雲を除く大倭豊秋津の地中の密度が増し、不毛の大地となってしまったのだ。木々は根を地中深くに張る事ができず、地面を這う様に根を伸ばし、虫や小さき獣達も、土を掘り起こす事ができないでいる。



天津神の御使いと、大国主達との間で、【国譲り】が行われたと聞いた。

それが一体どういう意味を持つのかを、余は今、思考できる状態ではない。だが、一つだけ解る事は、余は、休む事ができるという事だ。


自分の脱ぎ捨てた皮が堅すぎて、大地に潜る事すら出来ないが、取り合えず、今は、眠りたい。

過剰に排出したエネルギーを回収をするのだ。

後の事は、目覚めた後に考えよう。





あ……醍醐食べたい。





Zzzz…

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