06 八咫烏、お前もか
出雲に対しての国譲りの使者として、
道中、新婚の忍穂耳は、独身の八咫烏に対して、のろけ話を、これでもかという程、お見舞いした。それを聞いた八咫烏が、
「私も、嫁さん、欲しい」
と、考える様になってしまっても、仕方の無い事だろう。
出雲で民衆に拒絶され、
結婚したいボルテージMAXの八咫烏が、好みの活造り美女の卵を見つけてしまったのである。
八咫烏は忍穂耳の手をギュッと握ると、
「忍穂耳様。私。先程、運命を見つけてしまいました。ですので、私はこれから、運命をGETしに行かねばなりません。あ。
そう言うと、八咫烏は、鴉の姿に変化をし、ピューーーッと風の如き速さで
天照は、侍女達によって櫛笥られた長い漆黒の髪を、ぐしゃぐしゃと掻きむしった。
はっ?何?それ?
運命?
GET?
いや、好きに恋愛してくれていいよ。
そこまで束縛しないよ。
でもさ。
ちょっと自分の存在の始まりを考えよーよ。
宿命って解る?
運命より重いの。
八咫烏が
眷属なの。
終身雇用。
辞めたいから辞めるってわけにはいかないの。
私が呼んだら、絶対、来なきゃなんないの!!
「八咫烏君はさぁ。口説いてる最中で呼び出しを喰らっちゃたまらない。って、言ってたよ」
天照の心の叫びを聞いていたかのように、忍穂耳は能天気に呟いた。
(アハハハハッ)
心の中を、乾いた笑いが駆け抜ける。
天照は、ふと疑問に思った。
少し、冷静さを取り戻したようだ。
「ねぇ。忍穂耳。あんた、やけに八咫烏の事情に精通してない?」
「え?」
あからさまに忍穂耳は動揺していた。腹芸などという器用な真似は、彼には一生できないだろう。
天照は、静かに立ち上がると、裳をパンパンとはたき、忍穂耳に向かって、にっこりと微笑んだ後、彼の両肩に手を乗せた。
「あんた。まだ、私に言ってないことがあるんじゃない?ほら、言っちゃいなさい。お母さん、あんたには、もう怒らないから」
(怒らない。と、言って、本当に怒らない人は、あまり見た事がないよな)と、思いつつ、ここで言わずにおいて後でバレたら、洒落にならない程怒られると思ったので、忍穂耳は口を割った。
「…えっと、八咫烏君が
「へぇぇ。私が呼ばれていない結婚式にも、娘さんの誕生祝いにも、あんたは呼ばれたのね。ふーーん」
忍穂耳の肩に乗せられただけだった指先は、次第に、忍穂耳の肩に爪を食い込ませていった。
顔はにっこりと笑顔を保っていたが、ギリギリと肩に食い込んでくる母の爪に、忍穂耳は、自分と八咫烏に対する母の怒りが沸点をはるかに超えてしまっているのだと察知し、ゾクゾクとした寒気が、背骨を通過していくのを感じていた。
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