05 これは策略?それとも天然?

「ねぇ、忍穂耳オシホミミ。私の見たものが確かなら、あの子ニニギ達は、日向の高千穂に降ったと思うのだけど、見間違いかしら?」


にっこりと微笑む天照アマテラスに、忍穂耳は、母がマジで切れる直前である事を察知した。自然、言葉使いが、ありえない程、丁寧になる。


「いえ。お母様。彼等は間違いなく、日向の高千穂に天降りましてございます。…いやぁ。良かったですねぇ。無事、葦原中国あしはらのなかつくにに到着できたようですよ。…いやー。良かった。良かった」


天照は、そう言いながら後ずさる忍穂耳の胸倉を掴むと、唾の届く距離まで彼の顔を引き寄せると、


「ざけんじゃねーぞ。コラッ。かんっぺきに道、間違えてんじゃねーか。なんで日向に行ってんだよ。何のために、出雲に国譲りさせたんだよ。あそこが一番、栄えてるから拠点にしろって事だったんじゃねーのかよ。あん」


そこまで言うと、天照は忍穂耳の胸倉を掴む力が抜け、忍穂耳の胸から腹へと指先を辿らせながら、大きなため息をついてへたりこみ、ブツブツと独り言を言い始めた。


「やられた。国津神にしてやられた。くそっ。あいつら、瓊瓊杵ニニギを日向に足止めして、その間に、国譲りを有耶無耶にするつもりでいやがる。ちっ。猿田毘古サルタビコが国津神だと聞いた時点で疑うべきだった…」


忍穂耳は、どうにか天照から距離を取ろうと試みたが、それを許してくれる天照ではなかった。


天照は、息子の気配を察知すると、

「まだ、話は終わってねぇ」

と、息子の腰帯をギュッと握り、

「それもこれも全部、八咫烏ヤタガラスお前オシホミミにふざけた伝言を頼んで、勝手に職務放棄したせいだ。おらっ。言ってみろ。八咫烏は、なんでまた『退職します』なんてくだらない事をのたまったんだ?」


忍穂耳は、母の剣幕に押され、全て洗いざらい告白する事に決めた。

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