04 いざ!天孫降臨
彼は、
最も、八咫烏が「辞めます」と、言ったところで、天照は、それを「はい。そうですか。お疲れ様でした」と、聞いてあげる事などできないのだが、肝心要の本人がいないのでは、今日のところは、どうする事もできない。
「ちょっ。どーすんのよ。
「お取込み中の所、申し訳ございません。天照様に申し上げます。先程、天浮橋の向こうにて不審な人物がおりましたので
天照が、ゆっくりと天宇受売のさらに後方を見ると、瓊瓊杵を始めとする降臨組は、すっかり支度を終え、更にその向こうにある天浮橋から葦原中国に向かう為の最初の分岐点の手前には、見知らぬ者が頭を下げ、彼等の旅支度が整うのを待っている様だった。
天照は、先ほどまでの癇癪を鎮める為に、コホンと一つ咳払いをすると、
「ま、まぁ。そうなの。それは良かったわ。道先案内人をかって出てくれるなんて有難い事。そうね。あまりお待たせしては失礼ね。出立を許可します。気を付けて行ってらっしゃい」
天照は、忍穂耳の頭頂部にぶち当てた
「はっ。では、行って参ります」
天宇受売は天照に礼をすると、すくと立ち上がり、三方を掲げ持ったまま早足で降臨組に合流した。瓊瓊杵が剣を受け取ると、
彼等が猿田毘古に挨拶をし、彼の先導で更に進んで行く頃には、天照は天浮橋の欄干から上半身を乗り出して、大きく手を振って見送った。
彼等は皆、神の血統であったり眷属であったりするのだから、これが今生の別れというわけではない。瓊瓊杵が葦原中国を平らかにし、自分を祀る場所を確保してくれれば、
天照は、必死で目をこらして天降る一行を見据えた。
孫と交流できる時は僅かばかりしかなかった。また逢えると解ってはいても別れはつらく、滲んで見えなくならない様に、泣く事を我慢した。
「ん?」
その時、一行はあり得ない場所で、ありえない方向にかくっと道を曲がった。
一口に葦原中国と言っても広い。本来、彼等が進むべき場所は、出雲のある
しかし猿田毘古は、どういう理由か、
筑紫の日向は、天照の故郷である。
この時はまだ、猿田毘古の粋な計らいとして、瓊瓊杵の治めるべき世界を観光させる為なのかもしれない。と、思い込もうとした。
だが、天照の微かな希望を打ち砕く様に、彼等はそのままUターンする事なく日向に向かい、高千穂の峰に降り立ったのだった。
天照は、一行が峰に降り立ったのを見届けると、ゆっくりと欄干から身を離し、くるりと忍穂耳に向き直り、
「で?八咫烏が、なんだって?」
と、静かに問うた。
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