07 一言主の誕生秘話?
もし
彼女は、今までそれを“神”というオブラートで包み、自制してきたのだ。
「うっふっふ~。まったくねー。どいつもこいつも色気づきやがってからに…私を何だと思ってんのかしらねー。いいのよ~別に。順番とか、礼儀とか、節度とか、恩義とか、そういう事を蔑ろにしない範囲なら、私だって別に…嫉妬してるわけじゃないしー。羨ましいなんて微塵も思ってないしー」
この場合、“どいつ”は
天照は、部屋の隅に設えられた神棚の上に、三方を置き、その上に細長い木の板を積み上げていた。今でいうところの手紙である。
三方は二つあった。
「僕の事、呼んだ?天照様」
やって来たのは5歳程に見える少年であった。小さな歩幅でてこてこと歩く姿は、なかなか庇護欲を刺激する。彼は、まだ神ではない。ふよふよと漂うモノが、なんとなく象られ、神気を浴びた末に、人の様な姿を取り、いずれかの神よってに名前を与えられた瞬間から、神の眷属となった。
「うん。呼んだよー。待ってたよー。
一言主と呼ばれた少年は、天照の傍まで駆けよると、ぺこりとお辞儀をして、えへへっ。と笑った。天照は、その愛らしい様子に、胸をキュンキュンさせた。
「あのね。おつかいを頼まれてほしいの」
まだ、彼には後の世で語られる能力は無い。彼が能力を身に着けるのは、まさにこの“おつかい”からである。
「おつかい~?」
「うん。あのね。手紙をね。
「手紙~?」
「そう。お手紙。大事な事を書いてるから、八咫烏本人に直接手渡してほしいの」
「…うん。わかったー」
一言主から了解を得ると、天照は彼のウエストポーチの中に、三方の上に置いていた手紙をせっせと詰め込んだ。思った以上に嵩張ったようで、天照は、少し考え込んだ。
「どうしたの?天照様」
一言主が、少し心配そうな表情で天照を見上げる。
「ん~。あのね。もし、八咫烏が手紙を受け取ってくれなかったら、一言主に読み上げて欲しい手紙もあったんだけど、これを、持って行ってもらうのは無理かなーって思ったんだよ」
それを聞いた一言主も、自分の、ギュウギュウに詰められ、もう一枚の手紙も入らないポーチと2つ目の三方の上に置かれた手紙の量を見比べ、確かに、これを持っていく事は無理だ。と、思った。
しかし、彼はまだ神の眷属になりたてで、精いっぱい、他の神様の役に立ちたいお年頃だった。しかも、自分に用事を言いつけてくれているのは、この高天原で一番偉い人なのだ。
「ねぇ。ねぇ。天照様。僕ねぇ。あと一枚だったら無くさないで持っていけるよ。八咫烏様が受け取ってくれるように、一言だったら伝える事ができると思うんだけど、どうかなぁ」
一言主の、いかにも一生懸命な頑張ってる感満載の提案に、天照はキュンと胸を高鳴らせ、「うん。採用」と、2つ目の三方の上に置かれた手紙の内、一番上の木板を取り上げると、一言主の手を握り、
「じゃぁ。お願いね。一言主」
と、彼の小さな掌に、手紙を握らせた。
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