02 天孫降臨…(キョロキョロ)…あれ?

【岩戸隠れ】の事を持ち出されると、天照にとっては、少々、分が悪い。

「情緒不安定に陥り、仕事を放り出して引きこもってしまったせいで、皆様方には多大なるご迷惑・ご心配をおかけしてしまいました。これよりは、解任・更迭せずにいて下さった皆様方の御厚意を無駄にせぬ様、精進させて頂きます」

と、真摯に頭を垂れるしかない。


しかし、自分の息子が、あの時の事を自分オシホミミ達の結婚式だと思っていた事に愕然とし、膝を折らずにいた自分を、心の底から褒めていた。


天照は、

(こんな馬鹿な子を葦原中国あしはらのなかつくにの大王にしては、すぐにコケる)

と判断する事で気を取り直し、まだ幼い孫の瓊瓊杵の可能性に期待する事にした。


天照は、とても過保護だった。

先ずは瓊瓊杵の名前である。


「普段は、賑やかを意味する瓊瓊杵って名乗っていいけど、やっぱり名は体を表すんだから、それだけじゃ駄目よね。…そうね。天邇岐志アメニギシ国邇岐志クニニギシ天津日高アマツヒコ日子番能ヒコホノ瓊瓊杵ニニギノミコトにしましょう」

と、婆馬鹿を全開にした名前を与えた。


天照の嫡流男子で、高天原に関わりのある、天にも地にも親和的な、稲穂が賑やかに成長する事を表現した名前である。


つまり、このニニギに何かすれば、天も地も黙っちゃいねーぞ。一粒の米も食わせず飢え死にさせてやるから、そー思え!という名前である。

(注:作者解釈)


天孫降臨の日。

所謂、天津神と呼ばれる者達は、機織女に至るまで全員、天浮橋に勢ぞろいした。

三種の神器は、三方に載せて神棚に置いてある。


実際に降臨する候補の者達には、事前にある程度の通達がなされていただろうが、そのメンバーはギリギリまで厳選され、今日になって初めて、瓊瓊杵と共に降臨する従者の名前が、天照によって次々と発表されていく。


三種の神器のうち、天叢雲剣あめのむらくものつるぎは、彼女アマテラスにとって頭痛の種でしかなかったスサノオから献上された物だからどうしようも無いが、残りの二種の神器の制作者である玉祖タマノオヤ伊斯許理度売イシコリドメ、彼女と連絡を取る為の通信技師である天児屋アマノコヤネ布刀玉フトダマ、民との交流ツールとして踊り子の天宇受売アメノウズメ、攻守の警護兵である手力男タヂカラオ天石門別アマノイワトワケ。そして、瓊瓊杵の外伯父で、高天原一の知恵者とされる思金オモイカネである。


【岩戸隠れ】で活躍したメンバーと概ね重なっているが、決して、無理やり社会復帰させられ、長男がそのドサクサで結婚していた事を恨みに思った左遷ではない。


「それでは最後に、道先案内人には八咫烏ヤタガラス


と、栄えある降臨組最後の一人として、八咫烏を指名した。


しーーーーーーーん。


それまでのメンバーは、呼ばれるとすぐに返事をして、前に進み出てきた。しかし、彼の名前を呼んだはいいが、どこからも、何の反応も無かった。


天照は、ずらりと勢ぞろいさせた自分の部下達の中に、目当ての影を探して、キョロキョロと首を振った。彼の衣服は目立つ。金・銀・白を基調とする高天原において、真っ黒な衣を身に纏っている者は少なく、見過ごすわけがない筈だった。


「八咫烏ー。いたら、返事しなさーい」


天照は、もう一度、彼の名前を呼んだ。




しーーーーーーーーーーーん。




長い、ながい、ながーーーい沈黙。


(ん?)


天照は、首を横に傾げた。


(え?どういう事?今日は、大事な日だから、絶対、何があっても、ここ天浮橋に集まる様に、指示したよね?まさか、いつも道先案内人をしてる八咫烏が、今日に限って道に迷っちゃったなんて事…ない…よね)


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