01 岩戸隠は結婚式

事の始まりは、出雲いずもを治めていた大国主オオクニヌシに国譲りを認めさせた後、 天照アマテラスは、忍穂耳オシホミミ葦原中国あしはらのなかつくに大王おおきみとして、派遣しようとした。しかし、彼は、高木タカギの娘の万幡豊秋津師ヨロヅハタトヨアキツシと結婚し、瓊瓊杵ニニギを儲けてしまっていた。


自分の与り知らぬ所で、長男が結婚していた事にショックを受けた天照は、半ベソで訴えた。


「なんで~。なんで結婚して孫までいるの~。お母さん、知らないよ。酷いじゃない。私、あんたのお母さんだよ。なんで、お母さんを結婚式に呼んでくれてないの~。普通、呼ぶでしょ。ってか、先ず、お母さんに報告するもんでしょー!」


駄々っ子の様に喚く母親アマテラスに向かって、忍穂耳は、キョトンとした表情をした後、

「え?何、言ってるの?母さん。母さん、ちゃんといたじゃない。僕らの結婚式」

と、事もなげに、ニコニコと笑いながら言った。

「…ってか、主役の僕らより目立ってたよね。でも、出し物としては最高だったよ」

と、サムズアップして、ウィンクした。


「へ?………ソレハ、イツノコトデスカ?」


天照は、それまでジタバタと振り回していた腕をピタリと止めて、首をコテンと横に傾げた。何となく、自分の息子が馬鹿な思い違いをしている気がしたのである。自然、言葉もカタコトとなり、目は点になっている。そんな母親の異変には微塵も気付かずに、忍穂耳は、彼が結婚式だったと思っている宴会の様子を語った。


「でも、やっぱり母さんがサプラ~イズって感じで、岩の屋戸から出て来た時が一番盛り上がったよねー。主役の僕たちをほったらかしにして、皆、母さんの方にいっちゃったけど…大丈夫だよ。僕たち、これっぽっちも怒ってないから」


高天原では【岩戸隠れ】といわれている事件である。


その後、忍穂耳は、聞かれてもいないのに、万幡豊秋津師との馴れ初めから、初めて天安河原あまのやすがわらでデートした時の事などを、嬉しそうにしゃべりはじめた。


「…それからさー。なんか知らないけどー、ずーーっと暗かったからさー。ついつい万幡豊秋津師とさー…そのー…やっちゃったんだよねー(キャッ💗)」


忍穂耳は、照れくさそうに、初めてCした時の事を、足のつま先で雲の地面をほじりつつ語り始め、「やっちゃったんだよねー」に至っては、顔を覆い隠して、いやいやをする様に首を左右に振った。


照れながらも(いかん、いかん。真面目に話さなきゃ)とでも思ったのだろう。本人的には、すぐに平常心を取り戻した風に、


「そしたらさぁ💗。まぁ、彼女が身籠っちゃってぇ💝。僕もさぁ。ほらー。男だからねー。(責任とらなきゃ)って思ったしぃ💗、(急いで結婚しなきゃ)って、思ったんだよねぇ💗💗💗」


と、語り始めたが、いかんせん妻との結婚を決めた時の話である。今でも蕩けそうな程に可愛い妻が、更に可愛すぎて「殺す気か!」と、叫びたくなる程、可愛かった時の思い出である。自然、ハートマークを林立させても仕方がない。


「で、母さんが何処にいるか解んなかったから、彼女のお兄さんの思金オモイカネに報告にいったんだよねー。そしたらさー。なんか最初は、『今、それどころじゃない!』って、凄い形相で言い返されたんだけど、すぐに何かを思いついたらしくって『よし!大宴会をしよう』って、どっか行っちゃったんだよねー」


その時の事は、忍穂耳にとって理解の範疇外だったらしく、何故、母親の姿が見えなかったのか?とか、義兄に置いてけぼりを喰らったのかは、今でも解っていなかった。


「よく解んなかったけど『大宴会』って言ってたからさ。(ああ。僕達の結婚式をしてくれるんだなー)って思ってさ。そしたら、本当に凄い『結婚式』だったじゃない?いやー。嬉しかったねー。出来ちゃった婚なんて、絶対、お小言を喰らうと思ってたからさー。まさか母さんが、あんなにノリノリで出し物をしてくれるなんて思いもよらなかったよ」


頬を紅潮させ、当時の事をキャッ。キャッ。ウフフと嬉しそうに話す息子に対し、天照は、顔をアングリとさせるしか無かった。

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