第51話 閑話のネコ剣士とマゾ竜人
「それじゃあ、あとは頼んだわ」
東南砦の門口でアスタリアは豪華な馬車の窓から顔を出し、跪くベルベットとロータスに言った。
「えー? 本当にお一人で行くんすか〜? 護衛としては心配なんすけど」
「しばらくすれば、城に帰っているギルダブと合流するから大丈夫よ。私のことよりもあなたはあなたの任務を果たしなさい」
「まあ、アスタリア様がそうおっしゃるなら……了解っす」
「任せたわよ」
彼女はそう口にして、御者に言って馬車を出させる。
六本足の馬が「ヒヒーン!」と鳴き、ゴロゴロと馬車を動かして出発。
残ったベルベットとロータスは、馬車が豆粒くらいの大きさになるまで、その場に膝をついて頭を垂れて、アスタリアを見送った。
「さ〜てと。アスタリア様が行っちまったっすねー」
「そうですね。さあ、私たちも戻りましょう。これからやることが山積みですから」
「そうっすねー。いや〜それにしても、あの奥手なクロっちがついに重い腰を上げたんすねー。めでたいことっす」
「……」
飄々とした態度のロータスをベルベットは尻目に捉える。
その時、ロータスに変わったようすはなかったが――目の見えないベルベットだからこそ、ロータスの僅かな変化に気がついた。
「本当にめでたいことだと思ってませんよね? ロータスさん」
「いやいや、そんなことないっすよ? ルーシアお嬢様が意中の相手と結ばれるのは、とってもめでたいことっすよー? それに、クロっちが婿になってくれるのは俺ら幹部からしてもありがたいっすから」
「……」
ロータスの言っていることは、嘘偽りない本心ではあるのだろう。
しかし、それが上辺のものであることをベルベットは看破した。
「このベルベットの前で嘘は通用しませんよ。いえ、嘘ではないのでしょうけれど。しかし、ベルベットの盲目の瞳の前では、あらゆる嘘も、上辺だけの言葉も、全て意味をなしませんよ」
「およ? こりゃあ相手が悪かったっすか〜」
ロータスはあからさまに、「あちゃ〜」と態とらしい演技を見せる。
「ロータスさんは昔、お嬢様に助けられて以来お嬢様のこと――」
「おっと、そこから先を口にしないで欲しいっすね! たしかに、俺はお嬢様のことをアレっすけど、それを言ったらベルベットも同じっすよね?」
「え? いえ、どういうことですか?」
「アイリスあたりはからかってるだけっすけど。たしかベルベットも数年前、クロっちに助けられてから本気でクロっちのこと――」
「あああ!? わあああ!! うわあああ!?」
ベルベットはロータスが言わんとすることを察し、一瞬で顔を真っ赤にして殴りかかった!
「え!? い、痛い!? え!? い、いた――いた……き、キモていいいいい!!」
ベルベットが恥ずかしさで殴り続けたことでドMモードになったロータスは、幾度となく「気持ちいい!」と叫ぶ。
「い、今の絶対に! 誰にも! 言わないでくださいね!? でないと、殴りますからね!?」
「あはん! あはん! もう! 殴ってるじゃ! ないっすか! あキモていいいい!!」
と、そこへクロとルーシアが通りかかった。
「ん? ベルベットさんとロータスさんだ。なにやってるんだろう」
「あら、楽しそうね。クロ。私たちもあれと同じことを――」
「やだ」
そんなこんなで、魔王を目指すことにした平凡な少年クロの新たな受難は――まだまだ始まったばかりである。
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