第45話 第一回 魔王軍幹部最強会議!


 魔王軍の幹部たちは、それぞれが重要な仕事を割り振られており、国内だけでなく、国外に出ている人までいて、一箇所に全員が集まる機会がほとんどない。


 しかし、年に数回だけ幹部たちが集まる機会がある。


 それが――。


「これより魔王軍幹部最強決定会議を始めるのじゃ!」


 ドンドンぱふぱふ。


 ネロさんの宣言に合わせて、軽快な効果音が鳴り響く会議室。


 円卓を囲っているメンバーを順番に紹介すると、アイリスさん、ネロさん、ゼディスさん、ディオネス、ギルダブの並びとなっている。


 途中、空席が2つあるが割愛――最後に、なぜか僕が椅子に縄で括り付けられた状態で、メンバー紹介を終える。


「……あの、なんで僕がここに連れてこられたんですかね」


「それについては、私からご説明させていただきましょう」


と、メガネをクイッとあげたゼディスさんが口を開く。


「この会議は定期的に開催され、見事最強の座を勝ち取った幹部には、ボーナスが発生します」


「ボーナス……」


「ただ、毎度毎度話し合いだけでは、最強が決まらず。最終的にジャンケンで最強を決めていました」


「ジャンケン……」


「そこで今回から、第三者の意見を交えることで、最強を決めようじゃないか……そこで白羽の矢が立った人物こそ、クロ様なのですよ」


「帰っていいですか」


 そう言うと、アイリスさんが「ははは」と笑った。


「まあ、そう言わないでくれたまえクロくん。君には、お嬢様のことで迷惑をかけているからね。無償でやってもらうつもりはない。ささやかながら、報酬を用意している」


「報酬ですか……」


「うむ。3万円だ」


「分かりました」


 僕は即答で承諾した。

 アイリスさんが満足げに頷き、ギルダブに目を配る。


 視線を受けたギルダブは、コホンと咳払いしてから立ち上がった。


「それではぁ、僭越ながら会議の司会進行をわたくしぃ、ギルダブが務めさせていただきますぅ。でぇ、クロ様ぁ」


「なんですか?」


「クロ様はぁ、本会議初参加ということですのでぇ、軽く説明させていただきますぅ」


 ギルダブは言って、会議の内容を説明してくれた。


 簡単にまとめると、会議で1つテーマが出される。そのテーマに関して、幹部の中で最強を決める――ということらしい。


「ちなみにぃ、今回のテーマはぁ――『戦闘力』ですぅ」


 ギルダブの言葉に、ゼディスさんを除いた3人が反応した。


「くくく……戦闘力ときたら、会議の必要もなし。なぜなら、魔王軍幹部最強の戦闘力を持っているのは、この私――ディオネスしかいない」


「おいおい、脳筋が喚くでないわ。このたわけ。ぬしは、物理戦闘力ならともかく、魔法戦闘力なぞからっきしじゃろうが! その点、魔王軍幹部随一の魔法戦闘力と、知力を持つわし――ネロこそが最強と呼ぶにふさわしい」


「はっはっは。魔道具製作において、君が天才的なのは認めるけど、おもちゃいじりと戦場での知略は別物だよ。その点、物理、魔法、知略……すべてにおいてトップクラスである私――アイリスが最強なのは言うまでもないんじゃないかい?」


「「「……」」」


 3人は、譲るつもりがないみたいで円卓を挟んで、ばちばちと火花を散らしている。


 そんな中――名乗り挙げるのが遅れたゼディスさんは……。


「あの……私も〜……」


「「「お前は黙ってろポンコツ」」」


「酷くないですか!?」


 最強決定会議で蚊帳の外にされ、「うええ〜ん」と大泣きしていた。

 僕はそんなゼディスさんを尻目に、この場を静観しているギルダブに尋ねた。


「ギルダブさんは、名乗りあげないんですか?」


「わたくしは結構ですよぉ。今回のテーマで最強は名乗れませんからぁ」


「というと……?」


「わたくしはぁ、執事としての能力には長けているのですがねぇ。戦闘力は、たいしたことがないのですよぉ」


「へー」


「まあぁ……ゼディス様よりかはマシですがねぇ」


「!?」


 聞こえていたのか、ゼディスさんが涙目で僕を見てきた。

 うん。強く生きてください。


 さて、火花を散らす3人の方だが……。


「私が最強!」


「わしじゃ!」


「いいや! 私だとも!」


 決着がつかなそうである。

 ギルダブも同じ考えに至ったらしく、大きなため息を吐いた。


「それではぁ……予定通り、クロ様に決めていただきましょうかぁ」


「ええ……誰を選んでも、選ばなかった人から殺される未来が見えるんですが」


 特にディオネス。


「まあぁ、そこまで気を張らずにぃ……クロ様の素直な気持ちで決めていただければ構いませんよぉ」


「素直ねぇ……」


 順番に、3人を見てみる。


 僕を恍惚とした表情で見てくるアイリスさん。

 僕に懇願するような視線を向けてくるネロさん。

 僕を睨みつけるディオネス……。


 うん。決めた。


「じゃあ、ネロさんで」


「いよっしゃああああああなのじゃあああ!!」


「むう……まあ、クロくんの決定なら仕方ないか……」


 ネロさんはガッツポーズをし、アイリスさんはもともと最強に執着していなかったみたいで、あっさりと引き下がる。


 ただ、予想通りディオネスは僕の采配に不満があるみたいで……。


「おい! 貴様! なぜネロが最強なのか……理由を述べろ!」


「だって、アイリスさんとお前はなんとなく怖かったから」


「主観ではないか!」


「ぶわははは! なんじゃディオネス? 悔しいのか? ぷぷぷ〜。残念じゃったな! 今回はわしが最強じゃ!」


「き、貴様ぁ! 今ここでどっちが本当に強いかやってやってもいいんだぞ!」


 うわぁ……結局こうなるのかぁ……。


 僕は、身動きが取れない状態で逃げる術もなく……ただぼーっと、ネロさんとディオネスの醜い争いを傍観した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る