第45話 第一回 魔王軍幹部最強会議!
※
魔王軍の幹部たちは、それぞれが重要な仕事を割り振られており、国内だけでなく、国外に出ている人までいて、一箇所に全員が集まる機会がほとんどない。
しかし、年に数回だけ幹部たちが集まる機会がある。
それが――。
「これより魔王軍幹部最強決定会議を始めるのじゃ!」
ドンドンぱふぱふ。
ネロさんの宣言に合わせて、軽快な効果音が鳴り響く会議室。
円卓を囲っているメンバーを順番に紹介すると、アイリスさん、ネロさん、ゼディスさん、ディオネス、ギルダブの並びとなっている。
途中、空席が2つあるが割愛――最後に、なぜか僕が椅子に縄で括り付けられた状態で、メンバー紹介を終える。
「……あの、なんで僕がここに連れてこられたんですかね」
「それについては、私からご説明させていただきましょう」
と、メガネをクイッとあげたゼディスさんが口を開く。
「この会議は定期的に開催され、見事最強の座を勝ち取った幹部には、ボーナスが発生します」
「ボーナス……」
「ただ、毎度毎度話し合いだけでは、最強が決まらず。最終的にジャンケンで最強を決めていました」
「ジャンケン……」
「そこで今回から、第三者の意見を交えることで、最強を決めようじゃないか……そこで白羽の矢が立った人物こそ、クロ様なのですよ」
「帰っていいですか」
そう言うと、アイリスさんが「ははは」と笑った。
「まあ、そう言わないでくれたまえクロくん。君には、お嬢様のことで迷惑をかけているからね。無償でやってもらうつもりはない。ささやかながら、報酬を用意している」
「報酬ですか……」
「うむ。3万円だ」
「分かりました」
僕は即答で承諾した。
アイリスさんが満足げに頷き、ギルダブに目を配る。
視線を受けたギルダブは、コホンと咳払いしてから立ち上がった。
「それではぁ、僭越ながら会議の司会進行をわたくしぃ、ギルダブが務めさせていただきますぅ。でぇ、クロ様ぁ」
「なんですか?」
「クロ様はぁ、本会議初参加ということですのでぇ、軽く説明させていただきますぅ」
ギルダブは言って、会議の内容を説明してくれた。
簡単にまとめると、会議で1つテーマが出される。そのテーマに関して、幹部の中で最強を決める――ということらしい。
「ちなみにぃ、今回のテーマはぁ――『戦闘力』ですぅ」
ギルダブの言葉に、ゼディスさんを除いた3人が反応した。
「くくく……戦闘力ときたら、会議の必要もなし。なぜなら、魔王軍幹部最強の戦闘力を持っているのは、この私――ディオネスしかいない」
「おいおい、脳筋が喚くでないわ。このたわけ。ぬしは、物理戦闘力ならともかく、魔法戦闘力なぞからっきしじゃろうが! その点、魔王軍幹部随一の魔法戦闘力と、知力を持つわし――ネロこそが最強と呼ぶにふさわしい」
「はっはっは。魔道具製作において、君が天才的なのは認めるけど、おもちゃいじりと戦場での知略は別物だよ。その点、物理、魔法、知略……すべてにおいてトップクラスである私――アイリスが最強なのは言うまでもないんじゃないかい?」
「「「……」」」
3人は、譲るつもりがないみたいで円卓を挟んで、ばちばちと火花を散らしている。
そんな中――名乗り挙げるのが遅れたゼディスさんは……。
「あの……私も〜……」
「「「お前は黙ってろポンコツ」」」
「酷くないですか!?」
最強決定会議で蚊帳の外にされ、「うええ〜ん」と大泣きしていた。
僕はそんなゼディスさんを尻目に、この場を静観しているギルダブに尋ねた。
「ギルダブさんは、名乗りあげないんですか?」
「わたくしは結構ですよぉ。今回のテーマで最強は名乗れませんからぁ」
「というと……?」
「わたくしはぁ、執事としての能力には長けているのですがねぇ。戦闘力は、たいしたことがないのですよぉ」
「へー」
「まあぁ……ゼディス様よりかはマシですがねぇ」
「!?」
聞こえていたのか、ゼディスさんが涙目で僕を見てきた。
うん。強く生きてください。
さて、火花を散らす3人の方だが……。
「私が最強!」
「わしじゃ!」
「いいや! 私だとも!」
決着がつかなそうである。
ギルダブも同じ考えに至ったらしく、大きなため息を吐いた。
「それではぁ……予定通り、クロ様に決めていただきましょうかぁ」
「ええ……誰を選んでも、選ばなかった人から殺される未来が見えるんですが」
特にディオネス。
「まあぁ、そこまで気を張らずにぃ……クロ様の素直な気持ちで決めていただければ構いませんよぉ」
「素直ねぇ……」
順番に、3人を見てみる。
僕を恍惚とした表情で見てくるアイリスさん。
僕に懇願するような視線を向けてくるネロさん。
僕を睨みつけるディオネス……。
うん。決めた。
「じゃあ、ネロさんで」
「いよっしゃああああああなのじゃあああ!!」
「むう……まあ、クロくんの決定なら仕方ないか……」
ネロさんはガッツポーズをし、アイリスさんはもともと最強に執着していなかったみたいで、あっさりと引き下がる。
ただ、予想通りディオネスは僕の采配に不満があるみたいで……。
「おい! 貴様! なぜネロが最強なのか……理由を述べろ!」
「だって、アイリスさんとお前はなんとなく怖かったから」
「主観ではないか!」
「ぶわははは! なんじゃディオネス? 悔しいのか? ぷぷぷ〜。残念じゃったな! 今回はわしが最強じゃ!」
「き、貴様ぁ! 今ここでどっちが本当に強いかやってやってもいいんだぞ!」
うわぁ……結局こうなるのかぁ……。
僕は、身動きが取れない状態で逃げる術もなく……ただぼーっと、ネロさんとディオネスの醜い争いを傍観した。
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