第28話 テロリストな幼馴染
ギガラは僕を睨みながらドシンドシンと足音を鳴らして僕に近づいてきた。
そして、いきなりに僕の胸ぐらを掴んだ。
「てめえは……あの時! あの小僧といたやつだな⁉︎」
「違います」
「嘘つくんじゃねえ!」
シレッと嘘をついてみたのだがあっさりと看破されてしまった。
分かっているのなら最初から聞かないで欲しかった。
運がよければこのまま見逃してもらえそうだなぁ、とか考えた僕の希望を打ち砕かないで欲しかった。
ギガラは怒りの形相で僕の胸ぐらを掴んだまま体を軽々と持ち上げる。
「くそがっ! あのチビ小僧がコケにしてくれたおかげで俺はいい笑い者だ!」
「ははは」
「笑ってんじゃねえ! バカにしてんのか⁉︎」
笑い者だというから笑ったら怒られた。
と、ふざけている場合でもないみたいで今にもギガラは僕を殺しそうな目をしていた。
それに、今はギガラを相手にしている時でもない。
さっさとテロリストとやらを見つけてディオネスに丸投げした後――ルーシアと一緒に家へ帰りたい。
「ギガラ。ちょっと落ち着け」
「なんだと⁉︎ 生意気なこと言いやがって!」
どうしよう。さらに怒らせてしまった。
たしかに、我ながら怒らせるようなことを言ったとは思うけれど。
さて、どうやってギガラを治めたものかと周囲に目を向けるが他の闘技大会参加者たちは、ギガラがおっかないからか、はたまた無関心なのか目も合わせてくれない。
万事休すかと思われた矢先――凛とした声がした。
「あら、なにをしているの? じゃなかった……なにをしているんだ?」
間抜けなセリフとともに登場したのは少年の恰好に変装したルーシアであった。
「……試合。もう終わったのか」
僕がそう尋ねると、ルーシアは当然と言いたげな表情で肩を竦めた。
「当たり前だ。ボクを誰だと思っているんだ? それよりも……おい、お前。ボクのものに汚い手で触れるな」
「へぶっ⁉︎」
ルーシアは問答無用でギガラの頭部を殴り飛ばした。
こうして彼は再び地面に倒れたのだった……。
閑話休題。
「それでお前はこんなところでなにをやっているんだ? ここは選手控室だぞ」
「……なあ、ルーシア」
「その名前で呼ぶな。誰か聞いていたらどうする?」
それはそうだけれども。
ただ、僕はどうしても気になってしまいそのまま口を開いた。
「その口調やめてくれないか。なんかルーシアが男口調なのは気持ち悪い」
「ふむ。お前の口調を真似たんだが」
「キモい」
「……お前がそう言うならやめるわ」
なぜかルーシアは少しだけ肩を落として、しょんぼりとしてしまった。
「えっと、話を戻すけれど僕がここにいるわけはかくかくしかじかで」
僕はルーシアに、ディオネスに頼まれたテロリスト捜索のことを伝えた。
事情を聞いたルーシアは顎に手を当てて「ふむ」と頷く。
「なるほど。ペロリストが紛れ込んでいるのね」
「テロリストな」
「そうとも言うわね」
「そうとしか言わねえよ」
「別にペロリストだかテロリストだかどうでもいいけれど、それでお前はこんなところまでなにをしに来たのかしら? 私にわざわざ報せに来たの?」
「いや、この控室のどっかに爆発物が仕掛けられてると思って来てみた」
「たしかに、ここは闘技場を支えている柱があるものね。その考えは悪くないわ。相変わらず頭の回転は悪くないわね」
「それほどでも」
「私ほどじゃないけれどね」
「……」
否定はしないけれど、褒められた嬉しさが半減した。
「そんなことより、テロリストの目的ってあいつの退陣なのよね」
「え? あいつ? 誰?」
「あいつはあいつよ。魔王よ」
「可哀想だから、あいつはやめてあげようね……」
「いやよ。あんなやつはあいつでいいわ」
国のために文字通り身を粉にして過労死を繰り返す永久不滅の社畜マシーン魔王が、娘に「あいつ」呼ばわりされているのが不憫でならない。
「そんなことより、テロリストの目的があいつの退陣なら、テロリストに協力してあげてみても面白いわよね」
「やめてあげて」
魔王のやつが今度は過労死じゃなくてショック死しちゃうから。
娘がテロリストに協力とかシャレにならない。
僕が必死に説得するとルーシアは「クロがそこまで言うなら」とテロリストへの協力はやめてくれた。
「まあ、もちろん冗談よ。そもそも、テロリストのやり口が気に食わないもの」
「やり口……?」
鸚鵡返しに尋ねるとルーシアはやや眉尻をあげた。
「ええ。あいつを退陣させるのはいいけれど、そのために私の国民を人質にするなんて許されないわ」
「お前の国民ではないわけだが」
「とりあえず、そのテロリストの捜索。私もやってあげるわ。次の試合まで時間もあるし。ひとまず、控室の人払いをしましょう。その方が捜査しやすくなるでしょ」
ルーシアが協力――まさか彼女がそんなことを言い出すとは思わず僕は面食らってしまった。
それが不愉快だったみたいで ルーシアが僕の顔を見て眉根を寄せる。
「なにかしら」
「いや、だってさ。お前、こういう雑用っつーか……そういうの嫌いだろ?」
「まあ、お前の言う通りね。王女の私がやるべきことではないわね」
「そうだろ? それなのに、なんで協力してくれるんだ?」
問いかけると、ルーシアは「愚問ね」と勝気に微笑んで見せた。
「たしかに、テロリストの捜索なんてことは王女のやることじゃないわ。けれど、国民を守ることは王女の務めなの。今、国民の命が危険に晒されている。なら、それは私の仕事よ」
そう言った彼女の表情はとても眩しかった。
なんというか圧巻というか。
なるほど、ルーシアは生まれながらにして魔王の娘なんだなと圧倒されてしまった。
まったく……たまにこういうところがあるから、こいつのことを嫌いになれないんだよなぁ。
いつもは我がままばかりなお嬢様だというのに。
「あら、なにか失礼なことを考えていた気配がしたのだけれど?」
「いえ、なんでもございません」
ナチュラルに人の思考を読まないで欲しい。
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