直撃して聞いてみたら?

 とあるリサイクルショップの楽器コーナーで、ある特定の同じギターが多数並んでいる状況を見た人が、その画像をSNSに投稿した。

 その特定のギターとは、最近大ヒットしたアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の中で、主人公の後藤ひとりが使用していたのと同じもの。ロックバンドを結成した女子高生が、バンド活動を通じて成長していく姿を描いた作品で、若者の間でバンドブームをもたらしたとも言われているほどだ。

 この作品を通じて影響され、ギターを始めてみたはいいが、難しくて習得に挫折し、結局このように「リサイクルに売り払われ、同じギターが店頭に並ぶことに」なった。そのような考察がなされやすい。誰でもそう思うだろう。

 実際、筆者もギターをかじり、Fコードなど特定のコードをちゃんと押さえるのが「超苦痛」で、その壁を乗り越えられず挫折し、ギターはかつて石田純一がイメージキャラを務めた『良品館』に売り払ったという苦い過去がある。



 しかし、推測はたとえそれがどんなに「ふつうどう考えてもそうだろう」と思えるものでも、推測はやっぱり推測の域を出ず、真実ではない。実際に、そのリサイクルショップで店長さんの話を聞くと、ぜんぜん想像と違う答えが返ってきた。



『これは、一般のお客様が売却されたものではありません。そういうケースは今のところ、ほとんどありません。ぼっち・ざ・ろっく!もアニメが第二期の制作が決まり、人気はまだまだ衰えないとふんでいます。なので、これはフアンの方々のために私どもがあえてたくさん仕入れて置いてある、というのが本当のところです。

 決して、飽きて大量に売られたとか売れ残っているとかいうことではありません。実際、常に展示品は入れ替わっていて常に在庫は売れ続けています』



 私たちは日々忙しい&怠け者なので、聞いた情報をそれ以上追わない。

 TVやマスコミが報じたら、だいたい「へぇーそうなんだ」で終わる。もちろんTVや新聞社などは、万が一にも事実誤認やうそがあってはいけないので、それなりに吟味された情報が流れるので、そこまで恐れたものでもない。

 でも、最近になって問題なのは「ネット情報」である。ネット環境さえあればいつでも誰でもどこででも情報を発信できてしまうので、裏が取れていないような情報でも、ある程度の影響力のある人が言い放ってしまうと、そのファン周り(信者)が信じ、拡散されてしまう。コロナ禍で猛威を振るった「陰謀論」なども、そうやって広まった。



 あなたの中で、「これはどう考えてもこうだろ」と、検証すら必要ないと思っている確定情報というものがあるだろう。でも、確たる証拠がないのなら、それは「未処理棚」に分類するのがよかろう。

 万が一それで誤認があれば。とりわけ他者への評価に関わることなら。あなたは失わなくていい友を失ったのかもしれない。偏見なくその人物と親交を深めていれば手に入ったであろう「宝」のような時間をドブに捨てたのかもしれない。

 労力としては、そう大したものでもない。聞く労力よりも、その行為を起こせる「心の中の勇気」を出すことの方が大変である。でも、その勇気を今こそ出すべきである。

 なぜなら、それによって取り戻すことができる「失った過去」があるかもしれないからだ。覆水盆に返らずで、まったく同じに取り戻せはしないだろうが、少なくとも「修復」は望めるはずだ。

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