神の眼差し

 回転寿司のスシローで起きた一連の迷惑動画に関する報道に触れて、回転寿司屋にもう行きたくなくなった、と感じた人がいるかもしれない。あの事件のせいで、悪い印象を持ってしまったことでそうなるのだろう。

 でもそれは、スピリチュアル民が好きな「より良い生き方・在り方を選ぶ」「幸せをつかみ取る」という観点からすれば、実にダメダメなことだと思うのだ。はっきり言って、今回の一件で今まで大好きだった回転寿司に一転して嫌悪感をもつような人は、幸せになるのがヘタな人たちだからだ。


 

 たとえば、あなたに古い付き合いの親友がいて、あることをきっかけに相手への評価が悪い方に変化し、絶交し逆に敵になったという場合。

「あんなやつとは思わなかった」とあなたは言うかもしれない。自分はあくまで被害者であり、相手の落ち度を根拠に自分は悪くないように言うが——



●残念なのは、むしろそういうあなたのほうである。

 なぜなら、長い年月あなたは怠慢だったからである。



 私が人間関係で心がけていることは何か。

 それは、「今の相手への評価や認識が、絶対的な決定版と胸を張れるか。そして何が起きてもその評価は揺るがないか」を常に問い続けることである。そのためにも常にアンテナを張り、新情報を取り入れ、データベースを更新し続ける。

 多くの人は、他人に対していったんある評価に落ち着いたら、そこで満足(安心)しきって、それ以降のパッチあてをしない。この人はこういう人(いい人・イヤな人)というデータベースをずっとそのままにしておくのだ。

 そんな風にだらけきっているので、ある日突然あなたの認識を裏切る現象があった時にすべてが崩れる。私は、「この人はこんな人と思わなかった」という言葉を言える人は恥ずかしいと思う。それはまさに、自分の怠慢を棚に上げた責任転嫁である。

 このように言うと、詐欺にあった人は怒るかもしれない。悪いのは騙すほうであって、私がなぜそんな風に言われなくちゃいけないのか、と。



●あなたの罪は、世界が自分に良くしようとしてくれていると信じたい余り、あえて様々な検証を怠ったことだ。悪いのは確かに騙すほうだが、騙された人が自分でそれを言っていたら、その人はまったく成長しない。



 地球にいる人間一人一人の価値は、揺るぎないものとしてある。

 我々は弱いので、そのやったことや自分にとって助けとなる人かそうでないかで価値が常に変動し上下する。あれ、おかしいな。人の価値って、時により見方により都合により変化するものなんだ? 皆さんにとっては。

 私にとっては、同じである。時間により、やったことにより変わらない。ただし、その答えというものは絶対ではないし、この私だって自分のもつ他者への評価は完璧でないと分かっている。でも、私は常にこれでいいのかと問い続けることで、絶対な正解には至れないが、ある程度いい線にはいく。

 何かのことで嫌な印象を受けても、その事件の前と後でその相手の本質は何も変わってはいない。変わったのはただこちらの感情であり、それは多分に「都合」というくだらない要素がもたらすものだ。



 回転寿司屋は、それが生まれた時から今この瞬間まで同じで、変わっていない。

 ただ、ユーチューブを始めとした動画配信が当たり前になった世の中で、これまで知らされることのなかったごく少数の不届き者の行為が、人目に触れる機会ができてしまっただけである。嫌なことを言うが、あなたが知らないだけでこれまでにもそういうことはあったはずである。

 でも、それも含めてのこの世である。人が集団で生きるということは、それらを丸ごと覚悟して抱くことである。悪いことをゆるすとかどうでもいいという低次元な話ではなく、不完全な人間という生き物とそれが作る世の宿命を静かに直視し、それでも生を放棄せず生きていくという選択を厳かにすることである。

 世をよくするとか、皆が良い人間になるとか、そういう方面からのアプローチや努力はよく失敗する。むしろ逆で、人は当たり前に間違い、愚かなことをするという前提と覚悟をベースに向き合っていく方が、結果的に良くなる。



 突然起きた何かのことで、何かへの評価がいちじるしく変わるということを体験するなら、その人は人生を漫然と生きていたということの証であるから、他者を責める前に恥じ入りなさい。

 覚醒者とは、何かの対象に対する認識が、それを取り巻く幻想上の事件や自分の都合で変わらない人のことである。人間だから百歩譲ってその認識が甘かったり、予想を裏切られることもあるが、それでも自分のデータベース更新が不十分であったことのほうを反省し、相手に責任転嫁しない者である。

 外のことで他者への評価が常に変動的になる人は、背骨のない軟体動物のような人で、軸がなく常に振り回されて生きる。そんな人の手からは、つかめるはずの幸せもその指の間からすり抜けていく。

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