終末のワルキューレ

『終末のワルキューレ』というタイトルのマンガがある。アニメ化もされて、現在第二期までが公開されている。

 お話は、単純には「神 vs 人間」のバトルである。

 神は人間界を観察し、どうしても愚かなままなら人間の世を終わらせようと考えていた。そしてついに千年に一度開かれる「人類存亡会議」にて、人間世界の終わりを決定したが、一人が反対。天界の法律にある「超特別条項」に書かれてあることを盾にして、「神々の代表 vs 人類の代表」による最終闘争(ラグナロク)にて、もし人類側が勝てば終末は取り消されるということに。



 普通、神と人間が戦うなんて勝負ならないと考えるだろう。神のほうが圧倒的だと。まぁ常識的な発想ではそうだ。

 このマンガでは、そのままだと神 vs 人間は勝負にならないので、人間側には「神器」、つまりは当たれば神の体を傷付けることができる武器が貸し与えられる。

 それでもやっぱり神のほうが強いんじゃ? と思ったそこのあなた。



●外側の条件を同じにして戦った場合、人間の方が強い場合がある。



 特に、このマンガの「ヘラクレス vs ジャック・ザ・リッパー」の戦いを見てもらえばわかりやすいが——



①神は間違えない。間違えないということは逆に、もっとも合理的かつ的確な攻撃しかしない。イコール真面目過ぎて攻撃は強くても単調


 → 人間は間違える。気まぐれ。必ずしも合理的な動きをしない。つまり完璧な存在からしたら信じがたい動きをすることがある。



②神は駆け引きをしない。ブラフ(はったり)を使わない(使えない)


 → 負けているような演技、こっちだと思わせて実は狙いはまったく別とか、そんなことを瞬時に考え自然に実行できるのは、「弱い」からこそ知恵を使って生き抜く必要のある人間の専売特許



 人類存亡会議において人間の味方をした神は、言う。

 人間が神に勝っているものがひとつある。それは悪意よ、と。

 神に悪意はない。

 ここで言う悪意とは、普通連想される「悪いことをする悪い意志・心」のことを言ったものではない。物事を素直に見ず信じず、ああではないかこうではないかと様々な推測をした挙句、自分を守るためにあらゆる手を打とうとする、その先回りの知恵のことである。絶対的強者や完璧な精神性をもつ者は、それをする必要が普段ないため、欠落している精神機能である。

 そうは言っても、なんだかんだ神は強い。マンガの中で神と人間の攻防は一進一退を続け、すぐには勝負が決まらない。



●人間は、形を変えた神である。

 一見弱いが(実際弱いが)実は神にはできないことが出来、神が持たないものをもつ。その意味では人間は神をしのぐ存在でもある。



 先のマンガでは、人類が神に勝っているのは「悪意」と表現していたが、筆者は「感情」であると表現しよう。感情とは喜怒哀楽であり、それを引き起こすのは「今自分が幸せか不幸か(快か不快か)」という知的認識である。

 神には、悪がない=善悪という基準そのものがない。動きはすべて一面的となる。

 だから、自分だけでは満足できなくなったのである。完璧な上位存在は、あえて「欠点」をもつ存在を創造し、エンターテイメントはそこに委ねた。それが我々人間だ。この宇宙だ。

 人間は自分たちのもつ「愛」を、その由来が創造主である「神」にあると考え、神を完璧な愛の存在と考えてきた。特に宗教はその傾向が強い。でも違う。



●神に愛はない。ないからこそ人間に持たせた。

 その点で、人類は神に勝る。



 愛は、いやな言い方をするが「愛でない」と思えることが世界にあるおかげで、対比して「愛」だと認識可能なのだ。幸福も同じで、不幸が世にないなら人間はそれと判断し味わったりできない。この世界が愛だけ、光だけになるというのは、そう考える気持ちはきれいだと思うが頭は悪いと思う考え方である。

 人間は、その醜さと汚なさ(もちろん本当に醜く汚いというより、そのように思うことが可能というだけの話)を引き受けることで、その代償として愛と幸福を得た。そして笑いと快楽も得た。不快や苦痛が存在しないと快楽も分からない。



 負の部分ばかり強調されやすいがゆえに、この人間界は良くばかりは言われない。どっちかというと、人類は醜い怖い幼いまだまだであるとか色々マイナスが取り沙汰されることのほうが多いかもしれない。

 でも、人類は神(上位存在)がもたないすごいもの(特に愛と呼ばれるもの)を持っているのである。諸刃の剣ではあるものの、うまく使えば最高の体験がこの宇宙で可能なのだ。

 だから、胸張って生きよう。欠点も、もっと素晴らしいお宝を内に持つからこそ。これからも、人間を楽しもうじゃないか。

  ちなみに、『終末のワルキューレ』で筆者がこれから見ようとしているお話には、ついに人類代表として、私の好きな新選組の沖田総司が登場するらしいので楽しみである。(今期ではまだ戦わなさそうだけど)

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