何だそうか！ 悟り発見伝

素直な言葉を使う練習

　国会中継で、岸田首相が旧統一教会問題に関して野党から対策を問われた時、このように言っていたのを聞いた。

●そのことに関しましては、被害に遭われた方、家庭に問題が発生した方や宗教二世の方々の現状も鑑み、現行法（憲法・刑法）の範囲でできることを、誠心誠意最大限に行ってまいります

　この言葉を聞いてただ「岸田首相偉いなぁ」と思う人はよほどのお人よしか根の単純すぎる人である。いつか詐欺やマルチ商法に巻き込まれないかと心配になる。

　上記の言葉からある言葉を抜くと、もしそれが本気であれば素晴らしいものになる。それが以下だ。

●そのことに関しましては、被害に遭われた方、家庭に問題が発生した方や宗教二世の方々の現状も鑑み、できることを誠心誠意最大限に行ってまいります

　これを首相が国会で言ったなら「素晴らしい」と拍手する。国会で言った以上、それは視聴した全国民に言質を取られたことになり、もしそうしなかったら「言ったよね？」と追及されることは必至。それを分からない首相ではないはずだから、言った以上そこにはやる覚悟があるということになる。

　でも、次の言葉がさりげなく盛り込まれることで、正反対の意味になる。

●現行法の（ゆるす）範囲でできることを

　旧統一教会の問題は、日本のこれまでの法体制では手に余る、かつて経験していない難しいケースだ。これまでの枠組みの中でできることなどほとんどない。ゆえに、法の改正や海外のカルト対策法に学ぼうという意見も出てくるわけだ。

　つまり、岸田首相の言葉は翻訳したほうがすっきり分かりやすくなる。

【翻訳】めんどいので、現行法の中で無難な範囲で対処します。気の毒だとは思うけど、自民党は他にもやりたいことあって忙しいんだもん。まぁ最低限の誠意は見せるから（とりあえずやれることやってみっから）、それで手打ちにしてくんねぇ？

　要は、現行法を変えてでも旧統一教会という巨悪（肝心の本人たちは１ミリもそう思っていないけど）をゆるさない、日本をよくしたいとは思っていないということである。日本じゃなく、自民党という組織が得をすればあとはいいということである。面倒なことは、それをする価値（自分にとってのメリット）がない限り動かないのだ。ただ、素直にそう言うと子どもじみていて恥ずかしいから、一見当たりの良い言葉にカモフラージュする。

●現行法の範囲で精一杯やる → 現行法だとできることはそうないので根本的解決は望めない → 本腰入れて何とかする気まではない

　日本人の日常には、こうした素直に言わない面倒に裏がある言葉が横行している。

　たとえば——

●前向きに検討します → なぜ今決断できない？ → 今はっきり断ると気まずいから、あとで断るために今はお茶をお濁す

●「～やってくれない？」「そのうちにね……」→ 今はやりたくない

　京都で「家に上がってお茶漬けでも食べて待っててください」は「はよ帰れ」という意味だというようなことがある。今現在ではほぼ使われないだろうが。

　人はええ格好しなので、とりあえずの体裁をよく保ちたい。そのために有効なのが、ストレートに言ったら悪印象を与えかねない言葉を、きれいに言い換えた表現なのである。

　筆者は、そんな言葉を日常使い続けていると、人としてポンコツになると思っている。だから私は、可能な限り素直な表現で言おうと心がけている。

　イヤなものはイヤ。今したくないことには「いつか」「そのうちに」なんて言葉で逃げない。はっきり今したくないと言う。

　もちろん、素直に言うことで角が立つこともある。でも、長期的視点に立てば、お互いにプラスになっていることのほうが多い。逆に逃げを打った無難な言葉は、その時は互いに傷つかずいいように思えるが、長期的にはそのことに関して互いの関係が「停滞」、悪くて「悪化」していることが多い。

　政治家のようなものの言い方が当たり前になると、人として大事なものを失っていく。やがて、失っていることにも気づかなくなる。

　そうならないためにも、自分の気持ちをできるかぎり正直に言えることが大事と考える。また、人によっては「素直にものが言える相手がいない・そういうことのできる人間関係を築けていない」ことがあるので、まずは素直な気持ちを言える相手をつくることが先になる人もいるだろう。

　どちらにせよ、健闘を祈る。