一番やっかいな人の弱さ

 ニュースで、小学校の女性教諭が宿題を忘れた子どもに「地球から消えて」と言ったことが報じられていた。結果、その子どもは不登校になったという。

 これだけ切り取れば、この教師最悪やん、とか先生の質も落ちたなぁ、いくら人手不足でもこんなん先生にしたらあかんやろ、とかいくらでも批判が出てきそうだ。

 ただこの問題は先生の説明と子どもの説明に食い違いがあり、どちらが間違っているのか(あるいはウソを言ってるのか)現時点では不明な部分もあり、調査中だということだ。あまりにも言うことを聞かない子どもに、先生もどうしたらいいか分からなくなって弾けて出てしまった言葉かもしれない。

 まぁそれでも口にして出したら負けな言葉には違いないので、子どもたちのほうに実は問題があったとしても事実上の先生の責任である。まるで、サッカーで「オフサイドトラップ」で点を取られるみたいで気持ち悪い。もっと言えば、バスケでボールをドリブルしている敵を大勢で取り囲んでプレッシャーを与え、焦らせてトラベリングを誘発するのにも似ている。

 勝負とは本来気持ちよく勝つためのもので、ズルして勝つものではない。大人に大して子どもとしての立場の強みを生かして大人をハメる、なんて子どもはいくら時代とはいえ登場してほしくない。

 でも今回の記事の趣旨は、どちらが悪いかなどという話は関係ない。



●人の弱さとは、落ち着いて考えたら責任を持てないと分かる言葉を、雰囲気や勢い、もっと言えば感情に押し流されて言ってしまうところにある。

 この世界の悲劇の半分以上は、そこから生じている。



 大昔のマンガで、売れない漫画家が人生がうまくいかない腹立ちまぎれに「こんな世界、お魚に食べられちゃえ」と口にしたら、その願いに応えるために本当に怪獣のような空飛ぶ魚が都心部で暴れる、という筋書きのものがあった。

『三つの願い』という外国の童話でも、何を願うかでもめた老夫婦が言い合いになって、腹立ちまぎれに相方に「鼻にソーセージがくっついてしまえばいい」と言ってしまったばかりにその通りになってしまう。

 今挙げた二つの愚かな言葉の特徴は、以下である。



●感情的になって言っているが、本当はそうなることを望んでいるわけではない。

●本当にそうはならないとたかをくくっているから言える。

●万が一本当にそうなってしまったら、一番困るのは自分である。

●つまり、言葉に責任を持っていない。



 愚かな特徴の言葉は、万が一にも実現してしまったら困ったことになるところに特徴がある。心の底で「絶対にそんなことにはならない」という自信と確信があるからこそ、そんな甘えた失礼な言葉が吐ける。

 こどもが親に腹を立てた勢いで「お母さんなんかいなくなっちゃえ」とかひどいときは「死んじまえ」なんてことを口にするとき、もし本当に叶ったらその子はその後どんな人生を送るのだろう?

 私たちがお店で「これください」という時、店員は「ほんとうは欲しくないのでは?」などと考えはしないだろう。そうか、と言ってその商品を包んで渡すだろう。つまりは、あなたの「欲しい」という言葉を素直に受け取って、願いを叶える。

 もしですよ、この宇宙が店員だったら? あなたの言葉に「ようござんす。叶えましょ」と宇宙エネルギーが気まぐれを起こしたら? それが実現してしまった時、考えなしに言葉を発したあなたは途方に暮れるだろう。

 冒頭に紹介した女性教諭は、人としてアウトとは私は思わない。人間だもの、感情の針がふれてしまえば思わずそういう言葉を口にする過ちは仕方がない。仕方はないけど、愚かだとは思う。

 子どもは発達段階なので仕方がないが、大人は言い訳できない。特に今の時代、政治家や世をけん引する立場のものには心してほしいのだが——



●その言葉を言う前に、本当に言葉の通りになった場合も考えて、責任を取る覚悟はできているか。言葉の通りになって本望、と腹を括っているか。



●いっぺん立ち止まる冷静さをもつ。今口にしようとしたその言葉、もしかして自信をもって言える言葉なんじゃなくて、感情が私を乗っ取って言わせている「とんでもない内容」なのではないか? と気付ける心の余裕を育てる。



 問題の女性教諭も、まだこれから先の人生長いはず。

 社会的問題にまで発展して、さぞかし自分が悪いとはいえ辛かろう。

 今回のことを学びとして、以後言葉というものに気を付けられる人になれば、きっとまた今が幸せだなぁ、と思える日々が巡ってると思う。

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