せめて足並みをそろえて
爆笑問題の太田光が所属する芸能事務所『タイタン』が、所属芸能人に対する誹謗中傷(特にSNS上での)などには厳しい措置を取る、悪質さによっては法的対応も辞さないという声明を公式サイトにて発表した。
テラスハウスという番組で自殺者が出た一件以来、視聴者の意見や批判、お叱りの声などは職業姿勢としては向上のために参考にはするが、アドバイスや叱咤激励の域を超えたものに対してはいくら視聴者(お客様)といえども黙っていない、というスタンスを芸能界側は取る傾向にある。
筆者は、それは当然の権利と考える。それで何の問題もないと思う。ただ、私が少々違和感を感じるのは、事務所に守られる側にある爆笑問題の太田光氏の態度だ。
たとえば、子どもがケンカして相手にけがをさせた。親と一緒に相手宅に謝りに行かされ、「うちの子も大変反省しておりますので、どうかこの度のことは……」と菓子折りまで持参でゆるしを乞うているのに、当の子どもが「ヘン、オレはちっとも悪いとは思っちゃいないよ。ザマァ、いい気味だっていのうがホンネなんだよ!」なんてアッカンベーをしたらどうなるだろう。そりゃぁ、自分のホンネを飾らなかった、正直に生きたという点でだけは評価できるかもしれないが、この世界が一定のルールに則ってプレイするべきゲームだと考えたら、総合的に子どもの取った態度はアウトである。
●いくらホンネで生きろ、ウソはつくなって言ったって、お前は一人で生きているわけじゃない。親に食わしてもらっておいて、その親の立場が苦しくなることをするオマエって、すごいでちゅねー自分に正直でちゅねーって称賛されるとでも思っているのか? 単なる愚か者である。
山本有三の 「かりんとう」という短編小説がある。学校の国語の教科書にも載っていたので、知っている人も多いかもしれない。
ある男の子が、地元の有力者の子どもとケンカした。明らかに、悪いのは相手である。でも、その有力者ににらまれたら一瞬たりとも生きていけない雇われ労働者の父は、息子を連れて謝りに行く。
徹頭徹尾、うちの子が悪いんです……とペコペコ頭を下げる父に、自分が悪いとは思えない男の子は悔しさをかみしめる。その帰り道、父親が食えと口に押し込んできたかりんとうの甘い味が、目の涙とともにじわっと広がった。そんな内容だ。
この小説のキモは、世は理不尽だというところにはない。「それでも人は前を向いて生きていかなくちゃならない」ということに力点がある。
そう。自殺したり事故や病気に襲われない限り、長い人生が続いていくのだ。それを生き抜くということは、立場によってはきれいごとでは済まないのだ。
太田光氏は、今紹介したこの父親の心が分かっているのだろうか。
せっかく、所属する芸能人をまもろうと事務所のタイタンが「誹謗中傷はお控えください! 過去にはそれで人一人自殺しているんですよ」と真剣な姿勢を見せているのに、一方の太田氏は世に向けてこんな一言を言ってしまった。
●ふざけんな馬鹿野郎。痛くもかゆくもねぇぞ、あんなこと(誹謗中傷のことを指す)言われたって。
※そのあとも、もっとかかってきやがれ、その程度の言葉じゃオレを傷つけることなんかできないぞ、もっとすごいこと言えないのか的なあおり言葉が続く
さっきのたとえ話で言う、親が守ろうとしているのに当の子どもはそれが無意味と化すような台無しな行動をすることに当てはまる。
守ろうとしても、当の本人は「痛くもかゆくない」と余計な一言。本当にこの太田という人は、芸人としては一流でおもしろいが、こういう点がお子様である。
本当に親(守ってくれる事務所)を思うなら、子として足並みをそろえるべきである。事務所が所属芸能人を守る声明を出したのなら、察してそのあたりは挑発せずに黙っておくとか。「やはり僕も人間だから、人格を否定されるようなことを言われたら傷つく可能性があるし、みんなそうでしょう。だから、建設的なご意見ならいくらでも聞きますが明らかな人格攻撃はやめましょうね」くらい言えたら満点である。
その点、太田氏の取った言動は0点である。
●ホンネが言える、ということは確かに大事なことではある。
でも、時と場合を考え、賢くなるべきである。
イエス・キリストも聖書の中で言っている。「蛇のように賢く、鳩のように素直であれ」 その程度の悪口じゃオレはビクともしねぇぞ、と感情的に言い返したい気持ちは分かるが、個人レベルのケンカじゃない。大勢の生活や事務所が今後よそとの関係を良好に保って続いていくかどうかもかかっている。太田は、そのへんもちゃんと考えてあの発言をしたのだろうか。ファンは良い風に捉えてしびれるかもしれないが、あれではアンチに余計な波風を立てるだけだ。
彼は「頭がいい」とファンからは評価されているが、こと今回のことで言えば一言余計だった。兄弟げんかと一緒で、大人に止められる前に最後にこっちが手を出したので終わりでないと気が済まないというアレだ。こっちの攻撃で終了すれば勝ち、みたいな。
太田光は、営利目的の仕事をしている。そこを間違えてはいけない。
賢者テラは、そもそも儲けがゼロの可能性も受け入れて活動をしている。したいようにした結果1円も儲からなくても構わないという覚悟で日々書いている。
だから、そこまで覚悟した者にだけ、本当に言いたいことだけを言っていられる資格がある。たとえ千円であろうが、人様に気に入ってもらって対価としてのお金を払ってもらおう、メシを食おうというのなら、義務が生じる。それは、視聴者の期待に応えなくてはならないという義務だ。その視聴者には好意的なファンだけでなく、潜在的に今後ファンになってくれるかもしれないその他大勢に対しても義務を負う。
その点で、今回の太田氏の「痛くもかゆくもない」「もっとすごい言葉もあるのに、アンチは発想が貧困だな」的なあおりは、やはり賢くなかったと言える。
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