何が一番の幸せか

『王様の耳はロバの耳』という外国の童話がある。

 王様の髪の毛を担当する床屋が、王様の耳がロバの耳であるという秘密を知る。口外してはならない。もししたら……

 床屋は、その秘密を自分だけが持ち続けることに耐えられなくなる。それでついに古井戸の底に向かって「王様の耳はロバの耳!」と叫ぶ。皮肉にもそれは町中の井戸と繋がっており、伝わってしまう。

 この物語は何バージョンもあり、秘密が伝わってしまう方法や結末にも違いが色々であるが、ここでそれは重要でないので紹介は割愛する。



 幸せとは何か。

 それはカバーする範囲が広く、一概には語れないだろう。切り取り方によっても、色々な『幸せとは~である』という言い方ができるだろう。腹いっぱい食えたら幸せ(ちびまる子ちゃんにそんなキャラいたな)とか。三度の飯より映画好きで、映画見てる時間が幸せ、とか。愛する人といるのが(愛する人がいるのが)幸せとか。

 今回、ある切り口であえて幸せとは何かを言ってみる。もちろん異論は認める。



●幸せとは、自分の内側に照らして外に出す言葉もある程度一致していること。

 正直であれること。



 もちろん、この世界に生きていて完全一致はあり得ない。

 かのイエス・キリストですら無理だったはずだ。心で素直に思ったこと以外の言葉を絶対に言わない、というのはこの世界に生きる限りどんな聖人君子でも無理。

 でも、無理だからといってユルユルガバガバでいいわけがない。誠実に生きる、ということは人として生きる上で欠かせない要素だ。完璧な正直はムリでも、そこにはやはり節度というか、限度というものがある。

 そこはいかんでしょ、というラインがあるのだ。



 筆者が小学生時代、政治のことはよく分かっていなかったが、ニュースで流れていて妙に心に残っていた言葉がある。

『記憶にございません』

 確か、昔の竹下首相が発言したものだと思う。大人って、そんな風に言えば責任を回避できるのか、と思ったものだ。記憶に残っているはずでしょ、と思えてしまうのにそう言われるとバカにされている気になる。

 政治家の会見、何か不祥事があった時の企業や芸能人の会見。これらみな、見ていて気分の良いもの(せめて気分が悪くはならないもの)というのはほぼない。船場吉兆という料亭の会見が思い出されるが、取締役の長男が言葉に詰まるのを、横から母(女将)がこう言いなさい、とばかりにささやいたが、マイクが高性能だったためそれが筒抜けで大恥をかいた。この場合、もしそれがばれなかったら我々は「本人の言葉ではないまったく抜け殻の言葉」を、人生の貴重な数分を使って聞かされたことになる。これは、他人の時間を無意味に奪う最悪の行為である。



●自分の本心という本質以外のものを守ろうと優先した言葉を放つことは、不幸の始まりである。



 うそつきは泥棒の始まり、という言葉があるが、あれと同じでひとたび自分に心のこもらない保身のためだけの言葉を語ることを自分にゆるしたなら、それは慣れとなっていつしか疑問を持たなくなる。ウソが息を吐くように自然になる。

 だから筆者は、いくら成功者でも金持ちでも政治家の大物でも、月平均にすれば月収10万円もない私よりもしんどい人生だと思うのだ。自分の立場を保つために、「王様の耳はロバの耳」であることを隠し通すために、心を殺すからだ。そして最初こそ後ろめたさを覚えていたものの、やがて立場を守るためなら何だってやってのける「人の皮をかぶった怪物」になり果てるのである。

 イエス・キリストも言っている。「いくら財を成しても成功を収めても、魂を失ったなら一体何の得があるだろうか」(筆者意訳)

 現在の筆者には「王様の耳はロバの耳」的な、守らなければ自分が危ないものなどなにもない。その分社会的立場も弱く収入も低いが、ホンネだけで生きられる今はストレスレスで幸せだと感じる。



 国葬の話題・旧統一教会関連の自民党との関りをめぐる話題では、今日のお話の実例に事欠かない。これでもか、というほどの自己保身劇のオンパレードである。世捨て人のような私にはどうでもいいことではあるが、それでもやはり見ていて悲しくはある。

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