期待は才能を潰す

 昨日もジブリ映画の話題だったが、今回もそのジブリの親玉格の宮崎駿監督のお話である。彼へのインタビューで、スタジオジブリ作品への世間の期待について話が及ぶと、宮崎は(例えば自然保護に熱心なジブリなどの)期待に応えようとしてはいけない、一回期待を持つと、その期待を変えようとしないからと返答した。



●期待は、時として才能を潰す。



 天才の人生は、前期と後期に分けて語ることができる。



【前期】


 世間にその才能が認知されておらず、家族や親しい友人、学校の先生程度の狭い関係の中でだけその才能が使われている状態。非常にもったいないとは言えるが、天才本人にとっては実に伸び伸びとできる、人生で二度とない最高の時期である。


【後期】


 きっかけは、本人が望んだのかもしれないし、「姉が勝手にジャニーズに応募しちゃいました」という感じで他人が勝手に天才の才能を広めてしまったのかもしれない。いずれにしてもその才能を隠しておくことができず、世間が認知してしまった状態が後期である。

 世間はありのままの天才・同じ人としての人生・生活がある天才としては見ることができず、人ではなく「才能が人のカタチをしているもの」として認識する。

 そのため、天才に期待するのだ。こんなことしてくれないかなぁ、あんなことも実現してくれるはず、と。前期と違うのは、その期待が天才に手かせ足かせをはめてしまう点である。



 天才が潰れるかどうかは、天才の性格による。

 空気が読めて、人に合わせようとするタイプの者なら潰れやすい。自分を守る以上にその期待に応えようと頑張ってしまうため、オーバーヒートする。

 まれに、オーバーヒートすることでその才能が「消滅」してしまうこともある。そうなると期待していた世間は「なぁんだ」と彼(彼女)を捨て、見向きもしなくなる。芸術家や作家・漫画家などに多く起きる。

 先日紹介したマンガ『響~小説家になる方法~』の主人公は、周囲の期待などまるで関知しない。どうでもいい、といわんばかりに勝手なので、その才能に仕事をしてほしい人たちは思い通りにゼンゼン動かない主人公にやきもきすることになる。

 そういうタイプの天才なら、周囲の期待に潰される心配はない。心配なのは人格的に円満で「優しい」天才である。いい子ちゃんの天才である。



 天才には、自分の表現したいものとタイミングというものがある。

 無名な時代は、経済的困窮がない限りそれは好き勝手にできるため、のびのびしている。しかし、世間に認知されてその動向が注目されるような有名人になれば、周囲がその利害関係によって天才に対し「才能の発揮の仕方やその時期」にまで注文を付けてくるようになる。また、天才と同じ目線に立てないくせに世間は「批評」というものを加えてくる。ネット(情報)社会となった今では、耳をふさいでもそれらの声は聞こえてくる。

 無理をすれば、当然いいものはうまれない。宮崎駿監督はそれがよく分かっていて、「一度ヒットして高評価を得た作品は徹底して否定にかかる」という作業をするそうだ。そうしないと、次作が傑作にならないんだそうな。なぜなら、成功したら周囲は期待する。「これ以上のものを作ってよ!」と。でも、天才が「これ以上、のこれ」を意識すると、才能が隠れて出てこなくなる。その結果、世間の評価を気にした、どこかで見たような売れている何かをなぞったような、無難な作品が出来上がってしまう。

 周囲の期待にあえて応えようとしない、という姿勢こそ天才が天才でいられるための、唯一の防衛策なのかもしれない。



 要するに、双方とも賢くなればいい。

 天才は、周囲の期待など適当に受け流し、あくまでも自分のペースで無理なく才能を発揮し続けていけばいい。世間も、働き方改革だとか何だとかいうなら、アーティストも肉体を持った人間なんだと考えて、あまり矢継ぎ早に作品の発表を期待しないでほしい。

 筆者もこんなことを言いながら、鬼滅の刃のアニメ化がゆっくりなのを「まだ続きが出ないのか」と思ってしまったり。「SPY×FAMILY」や「Dr.STONE」の続きも早く見たい! とも思う私は、漫画家さんやアニメーターの方にも疲れがあって休みが十分要ることを分かってない。でも、ふつうそんな感じでしょ。

 期待されない。期待しない。

 案外、そういうユルい在り方がゆるされる社会に移行する方がいいのかも。今はとにかく、落伍者が出ても停車しない急行列車に世の中はなってしまっているんで。

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