スピリチュアル・モニタリング

『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』という番組がある。

 筆者はテレビ番組をほとんど見ないが、唯一の例外がこれである。

 子どもが見ても面白いらしく、家族で見れる番組として重宝している。それ以外で家族全員の趣味が合う番組はない。先日記事で紹介したようなNHKの朝ドラは奥さんと私だけで、子どもは関心がない。



 この番組が好きではあるのだが、それでも時々疑問に思うことがある。

「これ、絶対分かってるやろ!」と。

 芸能人が、モニタリング(昔で言うドッキリ)される場合によく感じる。この番組は人気が出てそう新しいわけではない。息の長い人気の続く番組である。

 これだけ有名になったらば「これ絶対モニタリングやろ!」と気付くはずだと思うのである。モニタリングでは毎度おなじみのように騙されるターゲットになる芸能人が登場するが、そんなに何度もモニタリングされたらいい加減学習して「最初にモニタリングだと当ててしまう」ことがあってもいいと思うのに、毎回過去の記憶を消去でもしているかのように真面目に騙される芸能人がいて、ちょっと興ざめしてしまう。お前、それもう分かってて番組成立のために分からんフリしとるやろ! と。



 スピリチュアルの世界も、モニタリングのごとし。

 アセンション・陰謀論・宇宙人・大災害・ハルマゲドン・世界的秘密結社の暗躍、コロナは実は……とか。

 一般人の感覚だとぎょっとするような用語が飛び交う、一種独特な世界である。

 筆者が思うに、どハマリして頭が「宇宙の彼方に行っちゃってる」人はごく少数だと思う。で、残りのほとんどの人は「モニタリング状態」だと指摘したい。



●モニタリングで何度も引っ掛かっている芸能人が、引っ掛かるたびに初めてのような反応をするが、実は番組のためにあえてビックリしてみせている。

 スピリチュアルにおいても、大勢は言葉で言うほどのことは起きない(アセンションも陰謀論もすごい世の中の大変化も)とホンネでは思っているのだが、表面上すごいことを言って騒いでみせている。



 みんな、どこかで分かっていて醒めた部分があるのだろう。

 だからこそ、みんな楽しめるのだ。かつてノストラダムスの大予言というのがあって、世界の終わりが来ると話題になったものだ。

 もしみんなが本気で恐れていたら、もっとパニックになっていたと思うし、いざという時地球を脱出しようとする試みもなされたはずである。地球が爆発とかしないなら海底や地下に潜るという手もあるが。

 でも、ほとんどの常識的な人はちょっぴりは怖がりこそすれ、普通の日常を送り続けている。それはホンネで「そんなことはないだろう」と思っていたからだ。



●逆説的だが、ホンネではないわと思っているからこそ楽しめる部分があるのだ。



 スピリチュアルという分野では、常識的に現実的に生きている人から見たらぎょっとする内容をたくさん扱っている。中には、もうヤバイぞその日はもう近い! 的に煽るような情報もある。もしそれを本気で信じているならいつも通り仕事に行って、そのあとでカラオケ行ったりテレビ見てる場合じゃないのだが、スピリチュアル好きでも結構その日常はのほほんとしたものである。 

 危機を訴えている当の先生も、まめにツイッターやフェイスブック更新してアクセス数を上げる努力をしたりして結構余裕である。そっちよりもっと世を良くする具体的「行動」のほうに力をお入れになったほうがいいんじゃ?



 現在中高年のスピリチュアル好きは、自分が生きている間に世の大変革があるとはホンネでは思っていない。愛の時代が生きている間に来るとは思っていない。

 思っていないからこそ、楽しめるのだね。対岸の火事だから、結果がどうでも自分に責任はないし傷つかないわけで、安心して安楽椅子探偵(自分は動かないであれこれ推理して言うこと)ができる。

 こう言ったからといって、筆者は別に責めているわけではない。むしろ、それでこそ健全だとすら思う。なるわけないじゃん、スピリチュアルや陰謀論で言っているようなことに!

 この閉塞的な世界の中で、やり場のない感情のはけ口が欲しいだけ。ただそれだけのことを変なプライドが働いて、世界の裏にはこういう力が働いているだのみんなは愛が分かってないだの、そんな指摘をして憂さ晴らしをしている。で、ホンネではそれで実際に世が変わるとは思ってなくて、手段が目的化している。要するに言えりゃいいのだ。でももって大勢がそのSNSの投稿を読んで「イイネ!」してくれさえすればあとはいいのだ。

 それが人間ってものだと思うので、別にあきれはしない。筆者みたいな人間のほうが可愛げがなくてうっとおしかろうと思うので、逆に恐縮する次第である。

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