何だそうか！ 悟り発見伝

必要でないならそこに居ない

『信長協奏曲』（のぶながコンツェルト）というドラマ作品がある。

　もともとはマンガだが、人気が出るとともにＴＶアニメ化、その次は小栗旬主演でＴＶドラマ化。最後には、ＴＶ版の続編（完結編）として劇場版まである。

　平成の気弱な高校生・サブローが戦国時代へタイムスリップしてしまう。偶然そこで出会った織田信長に「病弱な自分の代わりに織田信長として生きてくれ」と懇願され、以後サブローは織田信長として生きていくことになる。

　その後、戦国の世に合わない発想と手法で、同じ時代の者には真似できない成功を次々と収めていく。そんな中、健康状態の落ち着いた本物の信長は、病気のせいでという理由をつけ覆面で素顔を覆い、『明智光秀』という名でサブローのそばで仕え、サポートする。歴史に弱かったサブローは、自分が「明智光秀」という人物に殺されるということを知らず、彼をそばに置いたまま日々を過ごす。

　だがついにある日のこと、本能寺に行くこととなり……

（本能寺の変すらサブローは勉強してなかったので知らなかった）

　筆者は原作とアニメは見てない。ＴＶドラマ版全部と映画は鑑賞済み。

　ＴＶドラマ版がリアルタイムで流行っていた当時、私は『信長のシェフ』という、これまた似たようなタイムスリップ物を見ていた。「信長協奏曲」の存在も知ってはいたが、もう信長とタイムスリップという要素は「お腹一杯や！」となってしまい、見る気にならなかった。

　例えて言うと、映画で「ターザン」と「ジャングルブック」、洋画の「エベレスト」と邦画の「エベレスト」の公開が重なり、似たようなものをどっちも見るのにゲンナリして、結果片方を敬遠した、ちょうどそんな感じ。

　そのほとぼりも冷めた頃、「どれちゃんと見てみるか」という気にやっとなった。

　サブローは、超がつくほどの意気地なし。（小栗旬のＴＶドラマ版を基準に言っている）だが戦国の世は人殺し、命のやり取りなど日常茶飯事。信頼して裏切られるなども当たり前。

　人が良く、優しいサブローは戦国の世においては最後までそれに「慣れる」ということはなく、何度も何度も傷付き、落ち込む。戦国にはない平成の発想で、当時の人々の心を動かしたり、強い味方をつくることも多かったが、やはり当時の常識や兵法の王道を知らないことで苦境を呼ぶこともあった。そこは、サブローも大いに責任を感じた。

　特に、自分の甘い判断で味方の命が奪われた時などは、落ち込んだ。そんな時のサブローの口癖というか、弱音はこれ。

●そもそも、ここってオレのいるべき場所じゃないし

　いきなり現代から戦国の世へ投げ込まれ。歴史も不勉強で（かえってそれが良かった面もあるが）、家臣に迷惑ばかりかけ。

　アゥエー感というか、「自分の本来の居場所はここじゃない感」でいっぱいだったはずだ。でも、これは言える。

●あなたが今そこにいるのなら。現実にそこで生きているのなら。

　あなたがどう思うか、好きか嫌いかに関係なく、そこはまさにあなたの場所である。そこは、あなたを必要としている。

　もちろん、それは人間的な感覚でそう言うのではない。運命や場所、時間というものが意識を持って「あなたが必要だ」と召喚しているのではない。

　あなたがカレーを夕食に作ろうと思う時、必要だからスーパーで必要な食材を買うのと同じ。工場が、ある製品を組み立てるのに必要な部品を発注するのと同じ。

　そこに、「あんたが必要なんだ！」という演歌調の思いなどはない。運命が呼んでいるというよりはシステマチックなものであり、少々機械的ではある。

　そこはちょっと残念かもしれないが、とにかく「必要」ではあるのである。あなたにしか、そこでできない何かがあるのである。

　どこにいようと、孤独であろうと。

　納得いかなかろうと。ここでうまくやっていく力など自分にはないと思えても、ただそこにいるというそれだけで、その場所や状況は意味をもつ。

　たとえ、力尽きてあなたがその場所を去ることになり、負けて去る形のあなたは「結局自分はここで何も成せなかった」と悔いるようなことがあったとしても、それはあなたが知らない未来のある帰結のために、とりあえず体験としてそれが必要だったということなのだ。

　すべては、あなたがまだ見ぬ「結末」に向かって収斂している。ただ、今ここにおいてその過程の一部しか見れないあなたは、さぞ不安であろう。

　誰も今の時点で死ぬ最後までを見通せないため、とにかく「信頼」する以外することがない。最低限、あなたが逃げなければ何らかの道は開ける。

　たとえ逃げても、その経験は必ず部品としての役目を果たし、回り回っていつかの勝ちに繋がる。

　スピリチュアルとして初歩の考え方（初歩だけど実感としての会得は簡単ではない）ではあるが、そのことを改めて感じさせてくれた作品だった。

　きっと、信長（サブロー）に自分を重ね合わせて、勇気をもらえるはずだ。

　未鑑賞の方には、是非オススメしたい。

　結局、平成の現代からやってきて時代を掻きまわしたのに、フタを開けて見たらサブローのやったことは信長として全部史実通り。結局過去の歴史は変えられないというのは、『戦国自衛隊』という作品を思い出させる。